第32幕 無人島にあるまじき存在
「なるほどな。こりゃ変なものだ」
「でしょ?」
シヴルの言葉に、ミューゼはそう言い返した。
突然だが、話は昨夜に遡る。
「変なものを見つけたぁ?」
シヴルはそう言って、最後の干し肉のひとかけらを口に放り投げた。
すでに日は暮れて、辺りは真っ暗となった。
今日はひとまずここでキャンプすることになったシヴル達は食事をとっていた。
火をおこし、ランプやらを用意したりやらと準備は大変だったが、
何とか食事にありつける事ができた。
今日の夕飯は持っていた非常用の干し肉や乾パン。そして二人が採ってきた果実や木の実だ。
食事も終わった時に突然、エンゼットが話を切り出した。
「島を探索していると、何やら変なものを見つけた」と。
「どんなものだったんですか?」
後片付けをしながら、リティがそう言う。
「そうだな…何というか……あれは…」
エンゼットは言葉を詰まらせた。どうやら言葉が見つからないようだ。
「説明するよりかは、実際見た方が早いと思うわよ?」
「そんなに説明しづらいものなのか?」
助け舟を出したミューゼの言葉に、ようやく干し肉を嚥下したシヴルが言う。
「まぁ…そうだな。明日、そこに案内する。
特に魔物はいないようだが、何があるかわからん。準備はしっかりして行くぞ」
「んー」
シヴルはそう返事すると、水筒に汲んでいた水をくい、と飲んだ。
そして次の日。
シヴル達はエンゼットとミューゼが発見したという変な物のあったという場所へと向かった。
彼らが向かった先、それはただの洞穴だった。
ただ見ただけではどう見てもただの洞穴。入ってすぐはまさしく洞穴。湿気が多く、ジメジメする。
しかし奥に進むと
「なるほど。こりゃ変なものだ」
「でしょ?」
である。
シヴル達の視線に拡がっているのはとても自然にできたとは思えないもの。
それはどう見ても人工物の通路だった。
うっすらとした明かりがあるだけというのに、真っ白な壁のおかげか先がくっきりと見える。
物というよりかは何と言うか。エンゼットが説明できなかったのもなんとなく頷ける。
ただ言えるのは
地図にちょこっと載ってるだけの無人島にこんな人工物。どう見てもおかしすぎる、という事だ。
「誰かこの先にいるのかしら?」
「だったら、この島から出る船か何かあるって事か?」
この無人島にこれだけのものを構えている人物だ。船などを持っていてもおかしくない。
「じゃあ、それを使ってこの島を出る事が―――」
「んー…それは何とも言えんな」
シヴルとミューゼは「ですよねー…」と嘆いた。
この先に一体何があるのか分からない。それに誰がいるのかもわからないのだ。
それに船があったとしても、果たして使わせてくれるのかどうか。
「…とにかく進んでみましょう。もし誰かがいて、船があったら、ダメ元で頼んでみませんか?」
リティの言葉にシヴルは
「…だな。今はそれしかないか。もし駄目だった…そんときは別の方法を考えればいっか…」
そう応えた。
もっとも、別の方法などあまりアテにはしたくないものではあるが。
とりあえず、シヴル達はどう見ても人工物の通路を進み始めた。
どことなくではあるが、あの『白い孤児院』の通路に似ている。
いやまさか…それは…
「―――ないか」
いくらなんでも、こんな無人島にあの連中がいる訳ない。
そういくらなんでも―――
その時だった。
突然、広い空間に出た。
「え?」
思わず立ち止まってしまった。
「えっと…これは…」
リティも続けて立ち止まる。それにエンゼットとミューゼも続く。
「行き、止まり……?」
「そのようだが…」
四人の視線の前に突如現れたそれは、
「…な、んだよ…これ!?」
まさしく船だった。しかもとてつもなく大きな。
「『ノクターン』の整備、完了しました!」
「ご苦労さま。隊長の命ですぐ出港できるよう、待機している者達に準備を。
それが済み次第、出港するわ。いいわね?」
「了解!!」
報告をし指示を受けた男は、敬礼をし、いそいそと部屋を出ていった。
「…さて、これからどうするのかしら?」
「まずは『剣』の捜索だ。発見次第、今度は総力をあげ、剣を回収する」
「あら? 今度は随分本気で行くみたいなのね? いいのかしら?」
「もう迷っている暇などない。『白い孤児院』にて三人も隊員を失ってしまったのだ。
あの方もああは言ったが、これ以上の失態は重ねることはできん」
「だったら、もう全力で行くしかないと?」
「…そういうことだ」
その言葉に、彼女はクスリ、と笑った。
「ふふ…了解したわ。そう言われたら、こっちも全力で応えるしかないわね」
「ありがとう。感謝する」
「礼なんていらないわ。だって私はあなたの―――」
その言葉は最後まで言えなかった。
「隊長、副隊長! 全隊員、準備完了!」
突然の隊員の報告によって遮られたからだ。
「わかった。報告、感謝する」
そう言うと、そばにあった通信機を握る。繋げる先は操縦室だ。
『こちら、操縦室。…リーダー、出航いつでもできます。…ご命令を』
「…『海上戦艦ノクターン』…出航せよ!!」
『了解! 『海上戦艦ノクターン』、出航します!!』
直後、汽笛が鼓膜を叩いた。
大きな起動音を立て、戦艦が動き始める。
「すっげー…これって戦艦ってやつ?」
シヴルが目を細めながら、突如、目の前に現れた船を見上げる。
「ここまで大きな船、私、始めてみました…」
リティも驚きが隠せないようだ。
西大陸から東大陸に渡る時に使った客船よりもどうみても大きい。
ざっとみて、客船の2倍と言ったところか。
「…でも妙だな……」
「ああ…なぜこんなものがこんな所に…」
そう、このような物がここにあるのはおかしいのだ。
ギルティヴァースにも戦艦は存在する。
戦争による使用は数千年前にあった戦争、というくらいである。
戦艦はその時の遺産の一つであり、現在では海上用の魔物対策として存在している。
そして、今から十数年前の事になる。
突然、この世界の《イデア》のバランスが崩れた。それにより魔物が異常な成長と繁殖を遂げたのだ。
直ちに軍隊による掃討作戦が展開され、戦艦も海上の大型魔物用にその時に使用された。
作戦は半年以上も続くであろうと予測された。この世界に住む誰もがその予測に不安を覚えた。
しかし、終焉は突然だった。ある日、たった数週間も満たずに《イデア》のバランスが元に戻ったのだ。
そのおかげで魔物の異常な成長も繁殖もぱったりと止み、掃討作戦もあっという間に完了した。
《イデア》のバランスが崩れた原因、バランスが戻った原因は不明であり今も研究されている。
それ以来、戦艦は特に使われていない。各地の港で厳重に保管されていると聞いている。
まぁ使ったとしても、せいぜい何かしらの式典に使われたくらいか。
だがここにその戦艦がある。その時に残されたものと考えても余りにも新しすぎる。
現在、戦艦が新たに作られたという事は公開されていない…。ということは…?
「(ちょうど、俺が孤児院に来た時に魔物の異常成長と繁殖が起きたらしいけど…)」
シヴルは再び顔を上げ、謎の戦艦を見る。そして
「何かの勢力が…極秘で新しくこれを造った…?」
そう呟いた。
だが何のために? これから何かが起きようとしているのか? あるいは…
「さすがにこれ使って、島を出る訳にはいかないわね…」
ミューゼがそう言う。
…まぁ、それもそうだ。こんなんで脱出して一体どうしろとという感じだろうか。
「でも、中に小型の船かなんかあるかもしれない。それを使って―――」
その時だった。
ボーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
耳をつんざくような音が空間を支配した。思わず、四人は耳を塞ぐ。
これは…汽笛…まさか…!!
「出航…するのか?!」
ふと見たら、前方で入口らしきものがあった。
出航するのでもちろんそれも閉まっているはず……!? いや、開いている?!
どうする!? このままここにいて得体の知れないこの船を見送るか!? それとも…!!
シヴルは仲間達を見た。
…どうやら皆、同じ意見のようだ。
よし…!!
「あの船に…っ…あの入口に…飛びこめぇ!!!」
結構、リスクの高い事やるのに何なんだこいつら…。
いや俺も同じクチに乗っている以上、何も言えないんだけどな。
シヴルは走りながら、そんな事を思っていた。
こんにちはー…遅くなって申し訳ない。おまけに待たせて1話だけって…。
本当に申し訳ない。でもやっぱり次も未定です。いつになるんだろ…。
この話で出てくる昔話ですが、後々の話にからませる予定です。
ヒントは十数年前、とだけ言っておきます。
では、今回もここまで読んで下さってありがとうございました。




