第30幕 あの子の過去と少女のこれからと(前編)
5年くらい前だから、俺がまだ11、12くらいだったかな。
ある日学園から帰ってくると、大勢の自警団の人達が孤児院に来てたんだ。
その身はボロボロでまるで戦いから命がけで帰ってきたようだったよ。
何事かと思って覗きこんでみると、その中に女の子がいたんだよ。
「…それが」
「ああ、そうだよ」
シヴルは傍にあった木の枝を手に取った。
「その子が…セスだよ」
そして木の枝をくるくると器用に回し始めた。
院長先生と何か話した後、自警団の人達は帰っていった。
どこかつらそうな顔をして、な。
最初は戦いで疲れてたんだと思った。けど…違った。
どうやらここに預けられる事になったらしい女の子―――セスの顔を見て、な。
「その時のセスの顔はまるで死人のようだったよ」
くん、と空気を切るような音を立て、回っていた木の枝を止めた。
「それからすぐに院長先生からセスの事は聞いた。
あの子の両親はあの子を守るように死んでいたんだとさ。
そしてその中であの子は…血まみれで笑っていたって…。
俺もそれを聞いた時は血の気が引いたよ…」
「………」
リティは何も言わなかった。
シヴルはふ、と苦笑すると再び木の枝を回し始めた。
それからセスは孤児院で暮らすようになったんだけど…とにかく大変だった。
食事はロクに口にはしないし、遊びを誘っても何も応えてくれないし、笑ってもくれないし。
とにかく今のセスには考えられないくらいだった。
でも俺も院長先生もまだ赤ん坊だった子達の世話をしながらも、毎日毎日あの子に話しかけた。
今日はいい天気だぜ?とか、今日の夕食はご馳走だぜ?とか、今日も可愛いな…とかな。
「あの時はどうしたらいいか本当にわからなかったよ」
再び回していた木の枝を止めると、ちらりとリティを見た。
リティは俯いていた。表情は…先程とそれほど変化はなかった。
…ここまで話したんだ…もう少し話してみるか…。
「(悪いなセス。リティを助けるために、この先を話させてくれや)」
シヴルは心の中でセスに謝りつつ、再び話し始めた。
―――ある日のことだった。
院長先生の提案で子供達とピクニックに行く事になった。もちろんセスも一緒にな。
もちろんまだ赤ん坊が多かったから、近所の人や俺の友達も誘ったりした。
近所の人達はもちろん何人か来てくれたけど…まさか俺の友達も来るとは思わなかった。
ってまぁ、4、5人くらいだったけどな(笑)。でも本当に助かったな。
院長先生もはりきって、たくさん弁当作ったよ。
セスや子供達の分はもちろん、近所の人たちの分や俺の友達の分も…。
俺も手伝ったけど、とにかく量がハンパなかったよ。でも頑張った。
ピクニック当日はこれでもかというくらい絶好のピクニック日和だった。
ほんの少し、町から離れた草原に行くだけなのにさ…とにかく楽しかった。
子供達も、院長先生も、近所の人も、友達も―――
「もちろん俺も、な」
シヴルは再びリティをちらりと見た。
やはり彼女は俯いたままだった。表情もやはり変化はない。
「セスは相変わらずだったな。やっぱり無表情で誰にも相手にせずもう皆困って困ってさ。そんな時―――」
「もういいです」
リティが突然口を開いた。
「…さっきから一体何を言いたいんですか!?
突然セスちゃんの事を話し始めるかと思えば…楽しそうな思い出ばかりじゃないですか。
そこまで楽しい事ばかりをしていれば、いつかは心を開くに違いありま―――」
「そう思うか?」
「…っ」
シヴルが途中で割り込んできた。思わず言葉が詰まる。
「楽しい出来事ばっかり誘ったりして、いつかは心、開いてくれると思うか?」
「それは…」
言えなかった。
例えそんな事をしても、心を開いてくれるとは限らない。
まして相手は目の前で両親を失い、一時とはいえ我を失った子供なのだ。
簡単に心を開いてくれるとは思えない…でもあの子は…。
「ま、話は最後まで聞くもんだ。この先は…あの子も誰かに知られるのを嫌がるくらいだからな?」
「え…?」
シヴルはよいしょ、と声と共に立ち上がった。
身体に着いた細かい砂を払いつつ少し歩く。足の関節がパキ、と鳴った。
そして、一息つくと再び話し始めた。
そんな時、事件は起きた。
気がつくとセスがいなくなっていたんだ。
あちこち捜したんだけどどこをどう捜してもいない。
これは大変だと思って、皆にそれを伝えて皆で探したんだ。でもやっぱりどこにもいない。
日も暮れかけたから自警団に伝えて、他の子供達を近所の人達や友達に任せて…
そんで、再び皆でセスを捜し始めた。俺は無理を頼んで捜索に参加させてもらったよ。
それからどれくらい時間が経ったっけ…やっとの思いで俺達はセスを見つけたんだ。
でも同時に俺達はとんでもないものを見てしまったんだ。
「とんでもない…もの?」
気がつくとリティも立ち上がっていた。
表情はまだそのままだったけど、まっすぐこちらを見ていたようだった。
思わず軽く笑った。シヴルはリティの方に向き直った。
「そう、とんでもないもの。あの時俺、あまりの驚きでショック死するかと思ったよ」
今思い出しても、どこかゾッとする。口にするのもどこか抵抗あるくらいだ。
それでも、シヴルはその出来事を口にした。
「俺達が見たのは、今にも魔物に喰われそうになる傷だらけのセスの姿だったんだよ」
「!!」
今でも…その時の事は、はっきりと思い出せるな―――――
こんにちは、真王です。
今回はすっかり死ぬ気のリティにシヴルが頑張る話ですね。
というわけでそれを握るのはお久しぶりのセス。セスのエピソードはだいたいの所構想に入れていましたが、書いてみると結構壮大ですね。どっかで聞いた事ある話だなんて言わないでwww。
死にたい人間に何を言っても逆効果かもしれませんが…何もしないよりかはずっとマシかもしれません。立ち直ってくれたらそれで良いし…もし駄目だったら…これについては詳しく後編で書いてます。時間があったら後編も読んで下さるようお願いします。




