第29幕 まだ続く 漂流少年少女
「で…着いたのはいいんだけどさ…」
ミューゼはジロリ、とシヴルを睨んだ。
「い、いや、あのまま海上を彷徨うよりかはずっといいだろ!
少なくとも絶体絶命は免れたんだし!!」
「そうだけどさぁ…」
そう言うと、はぁ、と大きなため息がこぼれた。
「どうして…無人島になんか流れ着くのよーーーーーーー!!!」
ミューゼの声が周囲に響き渡った。
カモメがいる―――つまり陸が近いという手ががりを手に入れ、陸を見つけたシヴル達。
わずかな望みを胸に、重い飛空機械をその方向へと漕ぎだした。
だが徐々に近づくにつれて望みが崩れ去っていくのがわかった。
そう、見つけたのは陸ではなく、
全貌がくっきりわかるくらいの無人島だったのだ。
「ま、シヴルの言う通り、本格的な絶対絶命は免れたんだ。
喚いても仕方ないだろう?」
砂浜に流れ着いた飛空機械の中から荷物を出していたエンゼットが言う。
「うー………」
まだミューゼはどこか歯切れが悪い様である。
ったく…今は命あるだけ助かったと思っとけよ…。
「それより、ここはどの辺なんだろうな…」
シヴルは懐から地図を取り出した。幸いにも海水や汗で濡れていなかった。
「そうだな…周りに陸が見当たらない所と言うと…恐らくこの辺りだろうな…」
エンゼットはある部分を指した。
そこは中央大陸をちょうど真上方向に指した位置だった。
中央大陸の真上は細々とした小島群しか存在していない。
そしてそこは東大陸と西大陸を挟んでちょうど中央の位置である。
「つまり、だ」
この流れ着いた島は中央大陸からもそして東西の大陸からも離れた島なのであろう。
おまけにどの大陸もここからじゃ見えないという事は
「どうやら相当距離が離れた島のようだな」
エンゼットのその言葉に思わず、ため息がこぼれそうになる。
さっき言ったが漂流時に比べ幾分マシになったが、それでもやっぱりヤバイ事には変わりはない。
さてさてどうしたものか…。
「…とりあえずこの島を一通り周ってみるか。ついでに食料も探してくる」
「あ、んじゃ、あたしも行くわ」
ミューゼもようやく落ち着いたのか、そう言った。
「じゃあ、俺は…」
「あんたはここに残りなさい」
言いかけた言葉を、ビシィと音が言わんばかりの勢いでミューゼに止められた。
「だな」
どうやらエンゼットも同意のようである。
「あんたは、リティちゃんの傍にいてあげなさい」
「…むぅ」
シヴルはチラリ、と後ろを見た。
視線の先は木に寄りかけているリティの姿である。
やはりその姿に生気はあまり感じられない。支えがなかったらその場で倒れてしまいそうだ。
「本当は一人にさせとくのがいいのかもしれないんだけど…
今回は、あのままほっとくわけにもいかないでしょうが」
「そう…だけどさ…」
そう言うシヴルの言葉はどこか自信がない。
「何よ、まさかあんな風に落ち込んでいる女の子の傍にいるのは苦手だって言いたいの?」
「うぐ…っ」
…どうやら図星らしい。つまりアレか。
「あんた、肝心な時に役に立たないヘタレなのね」
「へ、ヘタレっ?!」
「だってそうじゃない。女の子を慰めるのも苦手な奴なんてヘタレの証拠よ、証拠。
まぁあんたの場合は今に始まった事じゃないと思うけど…」
もはや吐き出されるレベルの暴言に近い言葉。
そこまで言われちゃ…
「わかったよ!! 傍にいてやればいいんだろ!! 傍に!!!」
こう言うしかない。
「わかればよろしい♪」
そしてこれである。
こいつ…マジムカつく……!!!!!!
「んじゃ、いってきま~す♪」
そう言って、漂流した砂浜にシヴルとリティを残し、ミューゼとエンゼットは歩き始めた。
「さーてと、色々探すとしますかね~」
先程までああだこうだ嘆いていた癖に、今はこうである。
何とも調子のいい奴だ。でも…
「ヘタレ、はさすがに言いすぎじゃないか?」
シヴル達の姿が見えなくなった時、エンゼットはどこか苦笑しながら言った。
「いいのよ。あんくらいは言わないとリティちゃんの傍にいるなんて言わないでしょ?」
ミューゼが足元の砕けた貝殻を蹴りながら言った。
「でも、ヘタレは事実じゃない。
落ち込んだ女の子の傍にいる事が苦手っていうのもともかく、
今は誰かが傍にいなくちゃ駄目だっていうのが判ってるくせにあんなこと言うなんて、
どっからどう見てもヘタレだわ」
「おいおい、酷い言い様だな」
ミューゼは立ち止まると、くるり、とエンゼットの方を向き
「でも、否定はしないのね?」
と言った。
「まぁな…。しかし、大丈夫か? いきなり二人にしても」
遅れてエンゼットも立ち止まり、そう言いながら残した二人のいる後方を見た。
「いいの。ああでもしないと二人っきりになんてなれないんだから。
あくまであたし達はあの二人の旅について来ただけの『部外者』なんだからね? 『部・外・者』」
ミューゼはニッと笑った。
「『部外者』って…また酷い言い様だな……というかお前はただ単純に楽しんでいるだけだろ」
「えっへへ~、いいじゃない? こんなこと滅多にない事なんだからいいじゃない♪」
「全く……ま、なるべくは早く戻ってやるぞ。あまり遅くなると心配されるのはこっちもだからな」
「はいはい、わかってるわよ」
ミューゼがそう言うと、二人は再び歩き始めた。
どうしよう…
シヴルの頭はいきなり混乱寸前だった。
エンゼットとミューゼの姿が見えなくなって急に不安がこみ上げてきた。
とにかく…
「と、隣、いいか?」
そう言った。しかし
「………………」
リティは何も言ってくれなかった。
「(わかってはいたけど、やっぱり寂しい…)」
何か涙出そう…。
そんな事を思いつつ、シヴルはリティの隣に座った。
いいと言わなかったが、嫌とも言ってないからいいよな…?
はたから見ても、アレな考え方だがもうこの際どうでもいい。
………………
…………………
……………………
「(何話そう…)」
ぶっちゃけ女の子と話すのは苦手なわけでもない…と思う。女の子のクラスメイトもいたし。
しかし、今回は家族を失い絶望に暮れている女の子だ。
「(…生きてくれ、か)」
彼女の兄―――エゼクが遺した言葉だ。
そう言い遺して、死んだ。
しかしまぁ…無事を言ってくれたもんだよ…エゼク…。
「(どうすりゃいいんだよ…)」
正直に言いたい。…やっぱり今の彼女を慰める事なんて―――
「シヴル」
って―――――
「えっ…あ?!」
喋った!?
…じゃなくて!!
「な、何?!」
うっわ…情けない…こんな返事しかできないなんて…。
「…私、これからどうしたらいいんでしょうか…」
「え…」
突然そんなこと言われても…当然まずはこの無人島から脱出だろ?
だが、リティはシヴルの返事を待ってはくれなかった。
「ヴィアスから旅を始めて…私はやっとの思いで孤児院に帰ってきました。
でも待っていたのは残酷な現実と…
変わり果てた孤児院の職員…かつて一緒に遊んだ子供達…そして、兄さん…」
彼女の口から出る言葉は酷く重々しく感じる。
おまけにそれが自分達が体験したと思うと余計にそう感じてしまう。
「そして、兄さんは孤児院と運命を共にしました。
兄さんが頭を撫でてくれた時、どうして兄さんがそうする事を気づかなかったんだろうと思います。
もし気づいていたら―――」
「―――気づいていたら、どうするんだったんだよ」
リティの言葉を最後まで聞かず、シヴルは言った。
「気づいていたなら…私は……わた、し、は……」
言えなかった。
次に出る言葉は頭に浮かんでいるはずなのに。
なぜ?
「気づいていたなら―――」
シヴルがまた口を開いた。そして
「兄さんと―――エゼクと一緒に孤児院と運命を共にしたってか?」
今、リティが思っている事を言った。
………………………………。
一時、沈黙が走る。さざ波の音が嫌に響く。
「…ええ」
そしてリティはそれだけ言った。
………………………………………………………
再び、沈黙が走る。
さざ波の音と共に、今度はカモメの泣き声が響く。
「……ヴィアスの孤児院にいたセスって子、覚えてるか?」
「え…?」
今度は長かった沈黙の後、シヴルが突然口を開いた。
質問の内容だけにリティは少し戸惑った。
「覚えてるか?」
「え、えっと…」
確か…ヴィアスから旅立つ時に…
ヴィアスの孤児院の先生であるイクシーとシヴルの師であるレイオルと共にいた何人かの子供達。
その小さな子供達の中に確か…一番最年長に見えた女の子がいた。確かその子の名前が…。
「…ええ、いましたね。元気のいい子のようでしたが…」
なぜ突然そんなことを……
「あの子な…5年くらい前に孤児院に来たんだ。
まだ、あの子の周りにいる子供達がまだ赤ん坊の時くらいにな。
連れてきたのは…ヴィアスの自警団だった」
「自警、団?」
「ああ―――」
「―――あの子の両親な、目の前で殺されてるんだよ。タチの悪い魔物に襲われて、な」
その言葉を耳にしたリティはぐ、と手に力が籠るのを感じた。




