第2幕 異変
「ごちそーさまでしたー!!」
と、大勢の子供たちの声が響き渡った。
「はい、ごちそうさまでした。」
そう言ったのは、シヴルだ。彼は今、エプロン姿でおたまを手に持っている。
なぜなら、彼はこの家では一番年上の孤児だからだ。
ここは、ヴィアスの中にある『キルフィント孤児院』
現在ここには、数十人の子供たちが親元を離れて住んでいる。
親元を離れる理由は様々である。育てる余裕がない、親の不行為で生まれたなど。
言い訳でしかない、大人の、親の手によって捨てられた子供たちがここに住んでいるのだ。
「(言い訳でしかない理由で、こんな小さな子を捨てるなんてな・・・・。)」
食事を終え、風呂へと向かう子供たちを見て、シヴルは思った。
子供たちはいつも笑顔だ。もしかしたら親のことなんて覚えてないのかもしれない。
もしかしたら、親が迎えに来てくれることを信じているのかもしれない。
だからなのだろうか・・・・・?
「どうしたのです?そんな顔をして。」
突如、話しかけられてシヴルは危うく手に持った重ねた皿を落とそうとした。
「い・・院長先生・・・。」
シヴルの後ろにいたのは、この孤児院の院長、イクシー・メディエシアだ。
歳は結構とっているが、それでも美しいその顔を笑顔にして、こちらを見ている。
「そんなに驚かれたらなんて言えばいいか、困っちゃいますね。」
「あ、いや、その・・・・」
シヴルはくせのある髪をくしゃりとする。
「・・・・・また、子供たちのことを考えていたのですね。あの子達の親のしたことも。」
そう言われて、シヴルはバツの悪い顔を浮かべた。
やっぱり、わかっていたかという思いと共に。
「心配することはないですよ、あの子達なら大丈夫。いつも言ってるでしょう?」
「う、いや、それはそうかもしれないですけど・・。」
イクシーはふぅ、と軽く息をついた。
「『そうかも』じゃなくて、『そう』ですよ。例え親の記憶がなくても、引きずっていたとしても、ここで過ごした日々がそれを埋めてくれたり、変えてくれますよ。」
「そう・・・なのかな」
シヴルのその言葉に、イクシーは
「きっと、そうですよ。」
と、自信たっぷりに言った。
「そうですね・・・きっと大丈夫ですよね・・・・・あ・・。」
そこまで言って思い出した。
「なぁ、院長先生。」
「なんです?」
そして、シヴルは言った。
「俺って、どうしてここ―――――この孤児院に来たんですか?」
そう言うと、イクシーの顔がやや曇った。
「そ、それは・・・・・。」
「それは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらく、沈黙が続いた。
「院長先生・・・・?」
心配になって、先にシヴルが口を開いた。と
「・・・あ!そうです!子供たちの着替え、用意しなきゃいけませんね!!」
と言って、シヴルから皿を取り上げた。
「シヴル、こちらは私がやっておきますから、着替えを用意してくれないでしょうか?」
「え?あ、は、はい。」と、とっさにそう言ってしまった。
「じゃ、よろしくね?」
と言って、軽やかな足取りでキッチンの方へ行ってしまった。
「・・・・一体、どうしたんだろ?言えない理由でもあるのか?」
なんて言いつつ、シヴルは子供たちの着替えを取るべく、子供たちの部屋へ向かった。
ガチャン、とやや乱暴に皿を流し台の中に入れた。
そして、さっきとは違う意味で、息をついた。
「やはり・・・・いつかは話さなくてはならないのでしょうか・・・・。」
そうつぶやいて、流しの先の窓を見た。
その視線のずっと先には、この町の墓場がある。
「・・・・・・・こうして、友達とたくさんの人の信頼を抱き、女の子はかつてない幸せをまたこの手に取り戻しました。めでたし、めでたし・・・・」
最後に「おしまい」と足して、シヴルは本を閉じた。
あれからシヴルは、風呂から上がった子供たちを着替えさせ、歯磨きをさせて、子供たちを寝かせるという作業をしていた。今は3つめの作業の途中だ。
「もう、いいか?」
「うん、ありがとうシヴルお兄ちゃん。とってもおもしろかったよ。」
一番最後に眠らずに結末を聞いた子―――セスがそう言った。
「そっか、じゃあそろそろ眠りな。明日はいっぱい遊んでやるからな。」
「うん!おやすみ!シヴルお兄ちゃん!」
「おやすみ」と言って、シヴルはランプの明かりを消した。
ふっ、とその部屋が暗闇に染まる。
聞こえるのは、たくさんの子供たちの眠っている声だけだ。セスもどうやら眠ったようだ。
「・・・おやすみ、みんな。」
と言って、ドアノブに手を置いた。・・・・・・・・・・・その時!!
ズガアアアアァァァァァンっっっ!!!
「!?」
シヴルはとっさに窓に駆け寄り、閉めていたカーテンを開ける!!
「・・・!?、あれは・・・・!?」
信じられないものを見た。窓の外のずっと先にある――――おそらく学院が
赤いものに染まっている!! 何なのかはわかっている―――――火だ!!
「う、うーーーーん・・・・・・」
子供たちがかすかに呻き、シヴルはばっ、とすぐさま後ろを向いた。
しかし、心配は無用だった。よほど深い眠りについているのか誰も目覚めてはいなかった。
少し安心をして、シヴルはカーテンをゆっくりと閉めた。
そして、足音をたてないように、ドアもそっと開けて、そっと部屋を出て、そっと閉めた。
「ふぅ」と一息つくと、すぐさま自分の部屋へ向かう。
少しドアを乱暴に開けて後悔したが、それでも目的の物を手につかむ。
目的の物。それは剣である。
学院に異変があったのなら、救助に行かなくてはならない、という規則があるからである。
もちろん、守らないやつもいるのだが、それでも今回は様子がおかしい。
まるで、何者かに襲撃でもされたのように・・・・
シヴルは、今度はそっとドアを閉めると、玄関に向かって走り出した。
「シヴル!!」
誰かに呼ばれた。誰なのかはわかっている。
「いったい何があったのですか?イクシーの言葉に、シヴルは首を振った。
「わかりません・・・ただ、学院に異変があったことは間違いないっぽいです・・・。」
そう聞くと、イクシーは一旦口を閉じ、再び開いた。
「行くのですね・・・?」
「はい、規則ですから。」
軽く笑いながら、シヴルは言った。
「そうですか・・・わかりました。どうか気をつけて行ってきなさい・・・。」
「・・・・・・・はい」
と言って、シヴルは背を向けた、その時だった。
「シヴルお兄ちゃん・・・・・?」
まさかと、思いつつシヴルは後ろを向いた。
「セス・・・・・。」
視線の先にはセスが―――――いや、子供たちが皆立っていた。
「・・・・・・・・起こしちゃったか・・・。」
と言って軽くため息をつく。
「シヴルお兄ちゃん・・・・どこか行くの・・・・?」
少し泣き出してしまいそうな声で、セスが言った。
「うん、ちょっと出てくるよ。大丈夫、絶対帰ってくるって。」
「ホントに・・・・?」
泣き出しそうなその声にやや、明るさが混じってきた。
「ほんとホント。明日いっぱい遊んでやるからって約束したからな・・・。」
その言葉と共にセスの顔が明るくなる。そして
「うん!!!」
と、元気よく返事をする。
「えぇ〜〜〜〜!セスってばいつの間にそんな約束を〜〜〜!!」
「ずるいぞ!!!」
途端に、子供たちの怒声がその場にて響き渡る。
「はいはい、セスもみんなも明日遊んでやるから!!いいな!!」
『わぁーーーーーーーーーーーい!!!』
そして今度は、嬉しそうな声が響き渡る。
「いようし、いい返事だ!!・・・・じゃ、院長先生、行ってきます・・・。」
「どうか気を付けて・・・いってらっしゃい・・・。」
それを聞くと、シヴルは玄関のドアを開けて、夜の町へと潜り込んだ。
イクシーは、それを見届けるとゆっくりとドアを閉めた。
「さぁ、みんな、ベットに戻りましょう。」
その言葉と共に、子供たちはドアをちらり、と見て、ゆっくりと部屋へ戻り始めた。
「(絶対だよ・・・・・・シヴルお兄ちゃん・・・・)」
そう心に言って、セスもゆっくりと部屋へ戻り始めた。
耳を澄ますと、どこからかすごい音が、微かに、聞こえていた。
こんなに長くするつもりは・・・・今度は頑張って少しは短くなるよう努力します・・・・無理かもしれないですけど(をい




