表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BRAVE OF FANTASM  作者: 真王
28/33

第27幕 空に響くふたつの声

「戻ってください」

突然、黙りこんでいたリティが言った。

「戻ってください」

またそう言いつつ、彼女はベルトを外そうとする。

「戻って、どうするんだ?」

エンゼットが言う。

「戻って兄さんも一緒に脱出するんです。それ以外何があるんです!?」

リティはベルトを完全に外すと、席を立ちあがった。

思わずふらり、と体勢を崩すがなんとか踏ん張る。

「さぁミューゼさん、早く―――」

「お約束ってやつだけど一応言うわ、無理よ」

ミューゼはぴしゃりとそう言った。

「あなたのお兄さんも言っていたでしょ? これは自動操縦オートパイロットで動くって。

 だから私は何かあった時以外に何もする必要はないし、何かをする必要すらない。

 まして、自動操縦を止めることも無理よ」

「どうして…!!」

反抗するリティへのミューゼの言葉はまだ止まらない。

「自動操縦を止めるにはパスワードを入力しなくてはいけない。

 だけどどうやらあの人、あの短時間でどういう訳かかなり複雑で高度なパスワードを組んだらしいわ。

 止めようにも私じゃ時間がかかるわ。ということは…もうわかるでしょ?」

ミューゼの声は後になるにつれて、徐々に震えていた。

「…っ!! どいてください!!」

リティはミューゼを操縦席から意地でも退かそうとする。

自分で止めようと思ったのだろうか。無理な事を…。

ミューゼはぐ、とリティの手を握った。

「つらいのは、あなただけじゃないのよ!!」

ミューゼの声が狭い空間にキン、と響いた。

「あなただけじゃないっ…私もエンゼットもあなたと同じ事を思っている!!

 私だって助けたい! 助けたいわよ!! でも…でも無理なのよ…! 助けられないのよ…!!」

わかってる…わかってる! でも…!!

「それに…あなたと同じくらいつらいのが…もう一人いるでしょう…!?」

その言葉で、リティは動きを止めた。

そして、ゆっくりと後ろを向いた。

シヴルの方を。

「…………………」

シヴルは何も言わず、小さな窓の外を見ていた。

窓の外は蒼い空が拡がり、時に雲がゆっくりと現れては消えていった。

「シヴル……」

リティがぽつり、と言葉を漏らす、その時だった。


「……そんな悲しい声、出さないでくれ。リティ」


この声は…!!

シヴル達の視線は声がした方―――操縦席の方に一斉に向いた。



「ふ…っん、くぅっ…う……!」

また胸に痛みが走り始めた。

だが、足を止めていられない。今はただ…急がなくては…!!

痛みに耐えつつ、エゼクはある場所へ向かっていた。

『中央管理室』でも、『子供部屋』でもない

向かい先は…

「…っ、ここ、だ…!」

エゼクは手に胸を当てつつ扉を術で破壊し、その部屋に入った。

『エネルギー管理室』

その部屋の扉の上にはこう書かれたプレートが貼られていた。

中に入ると、ゴウンゴウンという起動音が耳を打った。

ここはその部屋の名の通り、この『白い孤児院』内すべてのエネルギーを管理している。

『中央管理室』がこの孤児院すべてを管理するならば、

ここはその力となるエネルギーを管理している場所だという事だ。

つまり

「ここのエネルギーをすべて暴走させてしまえば…」

エゼクは機械を叩くかのように起動させると、キーボードを素早く叩いた。

そしてすぐ横にあったそれ―――頑丈そうなガラスで覆われたそれを叩き、キーボードを叩いた。

瞬間、視界が赤い色に点滅する。

「エネルギー、過剰供給により危険。直ちにメイン機能を停止させてください…繰り返します―――」

そして、孤児院内の所々からアナウンスが流れ始めた。

「よし…これで……」

その時だった。


ドクン!!


身体が熱くなった。そして次の瞬間。


メキ、メキメキィっ!!


「ぐ、ウゥうぅぅ?!」

エゼクは激痛が走った手を抑える。

見ると自分の手が変形している。何本の爪、鋭い骨みたいな何かが突起し、肌が変色していた。

始まったのだ。

急に安心したからだろうか?

だが…

「(リティやシヴル君達に見られなかっただけでも…救いか)」

思わず、笑いがこぼれる。

大切な人達に自分の…このような穢い姿、見られたくなんかない。

そんなこと思っていたその時だった。

「見つけましたわ…!」

この声は…

エゼクは部屋の入り口を見た。

そこにはあの三人―――ルカ達が立っていた。

彼女達の顔はどう見ても怒りの形相を見せていた。

「よくも、エネルギーの暴走などを…汚らわしいケダモノの分際で!!」

ルカは武器を構えつつ、そう吠えた。

「さっさと止めなさい! さもなければ…!」

「私達が本気で、あなたを倒します、です!!」

タルシスもフィムもそれに続いた。

どうやら彼女らは本気で来るようである。

彼女らを止めなければ、おそらくエネルギーの暴走を止めてしまうだろう。

ならば

「決まっているだろ? …断る!!」

「だったら死ね!」

ルカ達が一斉に襲い掛かってきた。

エゼクも応戦すべく攻撃態勢に入る、が、

「う、うおおおおおおおぅっっ!!!」

途端に身体中から激痛が走った。

まるで身体がバラバラになりそうな感覚、頭がおかしく、なる!!!

「う、ウわああアァああァああぁァaaAァァ00A00aaaaアアアッッっ?!?!?!?!」

エゼクの意識は一旦そこで急速に薄れていった。


微かに残った意識で何か甲高い叫びが聞こえたが、すぐにそれも聞こえなくなった。


「はァっ、Haあッ……!!」

エゼクは意識が、感覚が戻ってくるのを感じた。

ビー、ビーという警告音とアナウンスも聞こえてくる…聴力も戻ってきたようだ。

「私は…一体……っ?!」

次の瞬間、エゼクは自分の周りに広がる光景を疑った。

『エネルギー管理室』内の所々が何かで切り裂かれたかのようにズタズタになっている。

そしてその足元は…

「これ、は……?!」

足元はおびただしいほどの血が拡がっていた。

『格納庫』で拡がっていた紫色の海のようではなく、紅色の血溜まりだった。

そしてその中にはルカ達がいた。

いや、ルカ達だったもの、というのが正しいのか。

その血溜まりの中に転がっていたのは、

彼女達の武器だった物、服の欠片、無数の肉片、内臓らしき物、

そして恐怖の表情で固まっているルカの半分の首だけだった。

よく見ると自分の手は赤黒く汚れていた。そしてその手はもはや人間の手ではない。

口の中に拡がっているのは、生臭い匂いと鉄の味となにやら生肉のような感触がする何かの欠片。

もはや考えるだけ無駄だった。

喰ったのだ。彼女らを。

人造人間ホムンクルス』とはいえ、基本的なパーツは人間と何も変わりはない。

違うのはあくまで身体的な能力などといったものだけなのだ。

それは、喰らう意味では何も意味など持たない。

「…ははは、やってしまったな……」

エゼクは、口の中の物をべっ、と吐いた。赤黒い物が嫌な音を立てて床に落ちる。

そして先ほど叩いていた機械を背にバタリ、と座り込んだ。

ふと、自分の身体を見た。

ああ…やっぱり、やっぱりか。

もう笑いしか出てこない。

自分の身体が…もう人間ではないものに変わってしまった事がもう可笑しくてたまらないのだ。

可笑しくて。

バン、と手も機械の上に置いた。その時だった。

「………エンゼットもあなたと同じ事を思っている!!

 私だって助けたい! 助けたいわよ!! でも…でも無理なのよ…! 助けられないのよ…!!」

何だ? それにこの声は…

エゼクは立ちあがった。立ち上がるのにこんなに力が必要なのは生まれて初めてだった。

…どうやら、通信のスイッチを押したらしい。

おまけにそれは、リティ達が乗っている飛空機械に繋がっているらしい。

これは…奇跡か? それとも…

いやそんなこと今はどうでもいい。エゼクは傍にあった通信用のマイクを握った。

「シヴル……」

リティが悲しそうにシヴルの名を呼ぶのが聞こえた。

エゼクはその声にふ、と笑った。そして一息つくと、口を開いた。

「……そんな悲しい声、出さないでくれ。リティ」



「兄さん?!」

突如聞こえた兄の声、リティは操縦席に身をのり出した。

「え?!」

ミューゼは操縦席の中心のモニターを見た。

…どうやら、本当に繋がっているらしい。

これは奇跡…なのか?!

「兄さん、兄さん!」

リティは何度も兄の名を叫ぶ。

「そんなに呼ぶな。ちゃんと聞こえている」

エゼクの声はどこかつらそうに聞こえる。

シヴルは自分をはめていたベルトを外すと、席を立ち、操縦席に近づいた。

そしてマイクに気づくとそれを引っ掴んだ。



「エゼク…!」

この声はシヴル君か。

「シヴル君…もう話しちゃったか?」

その言葉の返答はない。どうやらイエスのようだ。

「そうか。話しちゃったか…」

話してほしくはなかったはずだが、なぜかどこか安心するような感じがする。

なぜだろうか? …今は考えても仕方ないか…。

「…ついさっき、孤児院内のエネルギーをすべて暴走させた。

 じきに臨界点を超える。その時爆発するエネルギーでここを爆破するのは充分のはずだ」

「わかりました。だったら兄さんも早く……!」

「ああ…と言いたいが、ちょっと無理だな…」



「どうして?!」

シヴルの持つマイクに向かってリティはそう叫んだ。

返答はない。

操縦席のスピーカーから聞こえてくるのは規則的に鳴るサイレンと警告のアナウンスだけだ。

「エゼク…兄さん?」

リティは兄の名を言った。スピーカーからグスリ、と音が聞こえた。

「もう、兄さんな…お前の知ってる兄さんのカタチ、してないんだ」

「「「「!!」」」」

その言葉に、誰もが絶望を感じた。



「だからもし、万が一脱出できたとしてもお前に会う事はできないんだ」

「そんな…そんなこと!!」

リティの声は震えている。まぁ、当然か……。

「リティ、私は君をヴィアスに行かせた事を後悔してない。 

 だが他の子供達を助ける事も出来ず、君だけを生かしてしまった事は私のエゴかもしれない。

 だけどそれでも、君には…この世界でたったひとりの妹を生かせた事を私は…ぐぅ!!」

再び、身体中に痛みが走る。今度は…もうこうやって話す事は…!

「兄さん!!」 「エゼク!!!」

何かを察したのか、シヴルとリティが自分を呼ぶ。

これが…これが最後だ…。

エゼクは気力を振り絞り、口を開いた。



「リテぃ、シヴ、る…君、…どウかきミ、達ノユく末に、メガ、みの祝、ふくガ、あラン、kとを…!」

エゼクの声が途切れ途切れのうえ、声がおかしくなっている。

完全に意識が乗っ取られようとしているのか?!

「兄さん! やだ!! にいさん!!!」

リティは叫んだ。涙が床を濡らす。

「いやだ、いやだ、いやだいやだ!!!!!」

シヴルは思わずマイクを握りしめた。



ボン、ボンと言う音が聞こえる。もうそろそろか。

自分から何かが軋む音が聞こえた。あと、もう少し…!

「り…ぃ……しヴ………!!」


どうか

どうか聞こえてくれ。

たったひとりの妹に

そして、その妹を救ってくれた大切な友に!!




「二人とモ…生きてクれ!! 生きるんだぁああアァああぁァアぁァアッ!!!!!」




視界が真っ白に染まった。同時にエゼクは意識を完全に失った。

そして

また同時に『白い孤児院』は爆発音と共に一瞬にして炎に飲み込まれ、


ズガアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!


すざましい唸りと共に爆発した。





「いやあああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!」





大切なものを失った少女は、その悲しみをただ空に虚しく響かせた。






こんにちは、真王です。

今回の連続投稿、頑張りました。腕が痛くてヤバイです。

延ばしに延ばした話でしたが、シヴル達はようやく当初の目的を果たしました。悪い意味ではありますが。

だけど、彼らにはまだ本当の狂乱が待ち受けています。すぐ、ではありませんがそれはいずれ彼らに牙を剥きます。

ここまで読んで下さった方はそれを見守ってくださることを私は願います。


…ってシリアスに書いてみたけど、やっぱり待たせるのは駄目ですね。

実生活が忙しくて忙しくて…一応ストーリーはだいたい完成してんですけどねwww

何にしても、読んで下さる方はどのような形であろうと私にとってすごく力になります。

今度もいつになるかはわかりませんが、しっかり完結させますので…一応期待はしててください。いい話になる保証はない訳ですがwww

長文失礼しました。ここまで読んで下さって本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ