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BRAVE OF FANTASM  作者: 真王
27/33

第26幕 穢れた白の決断

―――話は少し遡る。シヴルとエゼクがルカ達を行動不能にし、リティ達の元へ向かう道中の事である。


「あのさ、エゼク……そうではないと願いたいんだけど…さ」

「…なんだ?」

苦しいのが治まったのか、ゆっくりと腕をおろしながらエゼクが言った。

「…………」

どうしよう。言い出したのに。

言えない。言ってしまったら…もう…もう後戻りは

「…そうだ」

え、と言ったつもりだが言葉にならなかった。

「君が思っている通りだ」

やめろ、言うな。

「…残念ながら、私も…」

言わないでくれ。

だが言われた。

そう、すでにもう


「私も、もうすぐ、子供達が化してしまったあの姿になってしまうだろう」


後戻りなぞ、できはしなかったのだ。



―――時は一旦、脱出する一行に戻る。

シヴルの告白に誰もが言葉を失った。

リティは口を手で押さえ、ガクガクと身体を震わせていた。

「う、そ…でしょ?」

なんとか口を開けたミューゼがそう言った。

だがシヴルは首を振った。

話はまだ続く。



「……っ!!!」

認めたくなかった。

やっと…やっとここまで来たのに…。

こんな、こんな事になるなんて…!!!

もっと…もっと早く…っ!

「気にしなくていい。あの子がここを出てヴィアスに向かった時点で私がこうなることは決まっていた。

 それであの子に『種』を植え付けられる事を避ける事ができたのだから」

「!?」

どういう、事だ?

「……確かにここの研究者達は『剣』を《扱える》ように

 子供達に『種』のような物を植え付けてあの生物クリーチャー

 変貌させてしまうという恐ろしい実験を行っていた。…そして度重なる実験である事が判明した」

「ある…事……?」

シヴルの言葉に、エゼクは頷いた。 

「何かしらの能力が比較的高い子は、あの姿に変貌するのは若干時間がかかると言う事だった。

 あの姿になってしまったら、『剣』を回収したとしてもそれを《扱う》という実験を

 行う事は当然不可能になるようだったからな」

確かに…あの姿で実験するのは実験する方の身が危なすぎる。

「その結果を元に、研究はさらに進んだ。

 そして最終的に『剣』を解放することが可能であると考えられる聖職者の家系であり、

 この孤児院に入るときに『種』を植え付けられていなかった私達兄妹を実験する事が決定した」

エゼクは一息つくと、シヴルにゆっくりと近づき始めた。

「二人、という制限もあり、まともに実験できるチャンスは一回。

 そう思ったここの職員は私達の能力を再度、細々と調べ始めた。

 実験の手順としては能力が高かった方を一旦ヴィアスに向かわせ『剣』を解放、回収させ、

 低かった方が改良を重ねた『種』を植え付け実験に備え、

 そして低かった方の実験データを元に、高かった方に『種』を植え付け実験するというものだった」

その話を聞いて、リティもそう言っていた事を思い出した。

結果はリティの方が若干だが能力が高かったため、彼女がヴィアスに向かう事となった。

だが…それはエゼクにとっては…。

そりゃ、妹が実験台に立たせるなんて嫌だし…俺がエゼクだったら意地でも―――

「!!」

そこまで考えついて、シヴルは気づいた。

まさか、いやそんな…?!

「それを知った私は決断したよ。

 少なくともリティが確実にあの姿になる事を避けるチャンスを与えるために、

 何としてでもをヴィアスに向かわせるのだと。だから私は…能力を測る時の際、ある事をした」

ああ、なんてことだ。


「私は《わざと》失敗して、リティを生き延びらせるチャンスを作りだしたのさ」


すべては愛しき妹のために。

そのために彼は―――


「『種』の植え付けは…無事成功し、私は今日までこれまでなんとか生き延びることができた。

 定期的に襲う胸を貫くような痛みを発する発作はあの子のためを想い、耐え抜く事が出来た。

 だが…やはり身体は徐々に変化を迎えていた。

 さっきリティに抱きつかれた時は気づかれるんじゃないかと冷や冷やしてしまったよ」

エゼクはシャツのボタンをひとつずつ、ゆっくりと外した。

「なんとか頑張って、変化をここまで抑える事ができたけど、な」

そしてその白いシャツがゆっくりと開かれた。

「――――――――――――?!」

シヴルは声にならない悲鳴を上げた。

こんな…こんなことって…

エゼクの白いシャツの中はもはや人間の形をしていなかった。

青い血管が盛り上がり、ビクビクと音を立てていた。

人間の物とはおもえない内臓が所々盛り上がり、ドクンドクンと鼓動を打つ。

そして白い肌だと思っていたそれは、紫や濃い緑色を交えたような禍々しい色となっていた。

そう、子供達が化してしまった、あの生物クリーチャーのように。


―――エゼクは既に『人間』でいることを捨ててしまっていたのだ。

…すべては愛しき妹のために。


「私がチャンスを作り出し、ヴィアスに向かったリティは『君』に出逢い、

 君が『剣』を《継承》した事によって、あの子はチャンスを完全に生き抜く『手段』に換えてくれた。

 皮肉にも私達をこんな形に導いた忌々しい『剣』は君と共にあの子をここまで守ってくれた。

 まさか…こんな、こんな幸せな事、最後に思えるなんて思ってもみなかったけどな」

幸せ…?!

「ふざけんなよ…どうして…こんな…っ!」

そこまで言って、シヴルは自分が泣いていた事に気づいた。

「どうしてこんな結末で幸せだなんて思えるんだよ!!!

 生きてこそ…生きてこそ、幸せって言えるんだろ?! 最後だなんて言うなよ!!

 そこまで頑張って来れて、どうして…どうして……っ!」

限界だった。

涙が止まらない。止まってくれなくて言葉がもう出ない。

「…ありがとう…そう思ってくれるだけでもう、充分だ」

いつの間にか近づいていたエゼクはシヴルの肩を優しく叩いた。

肩に置かれた手は酷く冷たく、だけど温かい。

禍々しい身体は、どういう訳か綺麗に見えた。

「…残念ながら、私はもうあの子のそばにいてあげる事はできない。

 きっと…きっと恨まれるだろうな。「大嫌い」なんて言われるんだろうな」

バカだ…。

「だけど、私はあの子が笑ってくれなくても、生きてさえすればそれでいいんだ。

 生きていてくれれば、いつかきっと笑ってくれる日がくるの信じているから」

バカだよ…!

「お前バカだよ…!!」

涙声でシヴルは叫んだ。

「…バカ、なんて生まれて初めて言われたよ。…だけど、そうなのかもな…」

エゼクは笑った。満面の笑みで。本当に、嬉しそうに。

「ありがとう。リティが君のような優しい人に出逢えて、本当によかった」

エゼクはまだ流れるシヴルの涙を指ですくった。

「私は、リティや君が泣いている顔を見たくはない。

 きっと、こんな…こんな施設があるからだろうな…

 いつまでもこんな悲しい場所を残していてはずっと君達は泣いているかもしれないな。

 だから、私は――――」



「もう、何も言えなかったよ。アイツのその意志に。」

シヴルは重々しくそう言った。

すべて嘘だと思った。

だが、本当の事なのだろう。

シヴルのその顔が、泣いている顔がすべてを語っていた。

エンゼットは顔を強張らせて、その話を聞いていた。

ミューゼは途中でもう涙をぼろぼろと流していた。

リティはもう顔を青白くして、まるで死人のような目をして黙って話を聞いていた。

少しずつ、眼下に遠ざかる『白い孤児院』

そこに残った彼―――エゼクはこう言ったという。





「―――私は、この身と共にこの『白い孤児院』を破壊する」






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