第23幕 今、やるべき事はなんですか?
「なかなかの芝居ものだったねー。ま、なんかありがちなパターンだったけど」
「えー? わたしは結構ああいう展開好きですよぉ? おねぇさま」
場違いな会話が『子供部屋』内に異様に響く。
現れたのは何やらおしゃれな格好を女の子だった。
一人ではない。
三人だ。
三人とも同じ身長で、同じ顔で…まさしく―――
「三つ…子…?」
ミューゼが呟く。
その言葉に
「ご名答~♪ 私の名前はタルシス」
今の出来事を芝居もとだと評価した女の子が言った。
「フィムと申しますですぅ」
次に今のドロドロとした出来事を結構好きだと評価した女の子が言った。
「そして、私はルカ」
最後にどこか大人―――いやどこか妖艶な雰囲気を纏っている女の子が言った。
「私達はこの孤児院で造られた」
そして最後に
「「「人造人間ですわ / よ! / ですぅ」」」
と三人同時に言った。
人造人間―――
人間の手によって造られ、人間の手によって生体改造された存在…。
主にそれは機械兵士と同じ戦闘用として造られるいわば兵器である。
だが、人造人間は造るのに費用面と言ったコストや媒体となるものを用意するのが困難だという。
まさか…三体も造っているとは…
ここは…本当に…
「まぁ、こう言うよりもゼノやフォルの仲間だーって言った方が良かったかな?」
な…!!
それを聞いた一行は一斉に身構えた。
「どうやらわかってくれたようですぅ」
「そのようですわね…私、嫌いじゃありませんわよ?―――」
少女―――ルカは笑みを浮かべた。
その笑みを子供じみたものではなく、
「理解の早い、お方は、ね?」
完全に大人の女性を思わせるようなものであった。
思わずゾクリ、と鳥肌が立った。
「それなら私達がここに来たこともわかっているよね~?」
タルシスの言葉に一行は身を固める。
狙いは…シヴルが持つ…!!
先手必勝と思い、エンゼットは術の詠唱に入る―――その時だった。
「…リティ、エンゼットさんとミューゼさんを連れて『格納庫』に向かってくれ」
エゼクの言葉に身構えた状態のまま、エンゼットとミューゼ、そしてリティは目を見開いた。
「に、兄さん、何を?!」
すっかり涙を拭い取っているリティが言う。
「その通りの意味だ。先に脱出の準備を済ませておいてくれ」
「は、はい…って、そうじゃなくて!!」
リティのその言葉に、エゼクは笑みを浮かべる。
「大丈夫、ここは私と…シヴル君で何とかする。だから、な?」
「な…って、そんなこといっても危険――――」
リティの言葉は途中で途切れた。
「…わかった…リティ、道案内を頼む」
エンゼットが割り込んだからだ。
「え、エンゼットさん?!」
「信用してもいいのね? シヴルの事も」
「もちろん」
ミューゼの言葉に、エゼクはまた笑顔で言う。
「ミューゼさんまで?! …っ!! ダメです!! 私も残りま―――」
「何をごちゃごちゃしてんの!! 来ないならこっちから行くよ!!」
再びリティは最後まで言えなかった。
タルシスの言葉と共に、彼女らはそれぞれ武器を構えた。
フィムは自分の身の丈より高い棒状の武器、タルシスはよく整備されたように見える銃。
そしてルカは鋭く、黒光りに鈍く輝く鉤爪である。
「くっ…!! さぁ! 早く!!」
エゼクは身構えると共にそう言った。
「リティ、行くぞ!!」
「リティちゃん!!」
エンゼットとミューゼはリティの手をそれぞれ握り、彼女を引いた。
「あ…!! ま…!!! に、兄さーーーんっ!! シヴルーーーーーーっっ!!!」
そう叫ぶも、リティはエンゼットとミューゼに引かれて、この部屋を出ていくしかなかった。
彼女は兄だけでなく自分の名まで呼んでいた。
シヴルは今のやり取りをただ呆然と見ていた。
そして彼女がこの部屋を二人の手によって出ていく時、自分の名前を呼んだ事で正気に戻った。
視線の先は、突然現れたルカ達三人が武器を構えながら笑っている。
そして彼女達の視線はどうやらこちらを向いているようである。
ああ…そういうことかい…。
リティや皆に思いっきり心配かけて
挙句の果て、用済みだと思われ脱出の準備には外される。
これ以上の醜態は一体何なるのやら。
だったら
「(いっそのこと…もう―――)」
叩きつけていた手の痛みがジクジクと襲ってくる。
「それはダメだ、シヴル君」
え…?
エゼクが構えを解かず、言う。
「確かに君は『剣』の封印を解いたし、その『剣』を《扱う》事もできる…」
ああ…だから
「でも、な?」
ん?
「私はもし、もし君が…子供達のような…あのような存在になったとしても…
君のような存在がその『剣』を《扱える》ことがとても嬉しいんだ」
「はぁ?」
思わず何か情けない声を出してしまった。
だが、エゼクは構わず続ける。
「どうしてかというとな…?」
エゼクは姿勢を低くした。
そして言った。
「君ならばきっと…その『剣』を《使いこなせる》って信じているから!!」
エゼクはルカ達に向かって走った。
「……っ!!」
先を先導していたリティは急に立ち止まった。
「二人とも…私、やっぱり…」
「ダメだ」
リティの言葉をエンゼットは言い捨てた。
「でも……!! 兄さんが…それに―――」
「シヴルの事も心配?」
ミューゼがそう言うと、リティは頷いた。
予想だにできなかった事実を突き付けられて、パニックを起こしたシヴル。
自分が止めたことでなんとか落ち着いてくれたが、やはりあのままにしておくのは心配だった。
それに…
「…手、ちゃんと治してあげたいんです」
リティは手を見た。
シヴルの腕を掴んだその手を。
「……そうね、ちゃんと治してあげないとね」
ミューゼはそう言いながら、リティの手と自分の手を重ねた。
「…大丈夫よ、アイツだってそんな莫迦じゃないもの。
きっとヘラヘラ笑って戻ってくるはずよ…きっと、ね」
「…はい」
ミューゼの言葉にリティは口に笑みを浮かべながら答えた。
そしてその笑みを浮かべたその顔はどこか少し赤くなっていた。
…何、恥ずかしい事言ってんだあのヒトは。
あの三人へと走り行くエゼクを見つつ、シヴルは思った。
この『白い孤児院』にて得体のしれない生物に遭遇し、
エゼクの話を聞くまではその生物を何かとてつもない別の存在だと思っていた。
だがところがどっこい。
実際は自分もその生物と似たような存在なのだとという事が判明した。
それを知った時は
焦ったし
ビビったし
信じられなかったし
泣いてしまいそうだったし…
おまけに―――特にリティにあんな姿見られて…穴があったら入りたいくらいである。
だが、そんな出来事を最初から最後までスッパリと見てたエゼクは
(「君ならばきっと…その『剣』を《使いこなせる》って信じてるいるからさ!!」)
何て言いやがった。
……でも、今はそう信じてくれているだけで充分か。
例え、バケモノでもあっても
そうでなくても
…今は…!!
「答えを出すには…まだ早いっつーことで…いい、よな?」
シヴルは鞘から『剣』を抜いた。
その『剣』はそれに応えるかのように白く輝いた。
さすがに1対3はきつかったか。
エゼクは思った。
まぁ当然と言えば当然だが。
銃と斬撃と棒術の絶妙なコンビネーション。
どれかひとつに集中しても、他のふたつが襲ってくる。
かといって、ひとつひとつ集中しても、いずれこちらが体力負けだ。
まさかここまでとは。
術を唱えようにも、こんな状態ではどうしようもない。
さてどうしたものか………?
「さて、そろそろトドメをささせてもらいましょうか?」
「それでは、おねぇさま?」
「い――――」
『―――きません!!』
ドゴン!!
「「「きゃあああああっ!!!」」」
まさしくエゼクにトドメを刺そうとした三人は突然の衝撃波によってそれぞれ吹っ飛ばされた。
「…ふぅ、ようやく来たんだな」
エゼクは体勢を直しつつ言う。
「なにさ…そっちが煽ったクセにさ」
と言いつつ、待っていた少年―――シヴルはエゼクの隣で止まった。
そして、それぞれ呻いている三人に向かって
「はいはい、いくら女の子だからって3人がかりは卑怯だと思うぜ?」
と言った。
それにムッときたのか
「フンだ!! 自分がバケモノだって言ってたあんたに言われたくないわ!!」
「そうですぅ! バケモノ~、バケモノ~!!!」
タルシスとフィムがそう言い返してくる。
「バケモノ、ね…ま、否定はしないけどな?」
「「え…?」」
想定外の言葉なのか、タルシスとフィムはまさしくキョトンという顔をした。
「でも、ま、この際はバケモノかバケモノじゃないかはひとまずどーでもいいんだ。
ともかく今は…」
シヴルは剣先をルカ達に向けた。
「この俺がてめーらをふっとばす、それだけだ」
その言葉を言う顔は、どこか「少し」だけ吹っ切れたような顔をしていた。
少なくとも、先ほどまで落ち込んでいたとは思えないくらいに。




