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BRAVE OF FANTASM  作者: 真王
23/33

第22幕 『剣』を《扱う》ということ

「あ、ああ…」

リティは目の前の光景が信じられなかった。

エゼクが子供達を避難させたという部屋は

『中央管理室』にいた気味の悪い生物クリーチャーがたくさん蠢いていた。

そしてどういう訳か生物が別の生物をその鋭い牙のような歯で喰らっていた。

それだけなら良かった。

だけどそれだけじゃなかった。

なぜならその生物の身体には、ところどころ破れて、紅い血に汚れているが

確かにこの孤児院の子供に必ず着せられる、白い衣服をその身に纏っているのだから。

リティはその場にぺたり、と座り込んだ。

こんな…こんなのって…!!!

他の三人も同じだった。

こみ上げてくるのは怒りでも悲しみでもない。

ただ「信じられない」ということだけであった。


グゥゥ…?


多くの生物の中の1体がこちらに気付いた。

そしてそれを合図に他の生物それぞれが喰い合うのをやめ、こちらを一斉に見た。


ギァアアアアアアアアア!!!!!!!!!


そして一斉に咆哮した。

まるで何か美味しそうな物を見つけたかのように。


「……………っ!!!」

シヴルは咄嗟にポケットから卵状の球体をふたつ取り出すと、

その生物が一斉にこちらに襲いかかってくると同時にピンを引き抜き、

それを勢いよく、その部屋の中に投げ入れた!

そしてそれを見たエゼクは部屋の入口にあったパネルを勢いよく拳で叩きつけると、

部屋の入口が先ほどの扉とは違う―――厚い鉄のような扉が閉まり始めた。

「…ノヴァフレイム!!」

いつの間にか術を唱えていたエンゼットは、閉まりゆく扉から出そうな生物を術で押し返した。


グァァァァ!!!


それでもなお、いくつかの生物は扉を破壊せんばかりの勢いでこちらに襲いかかろうとする。

シヴルもミューゼも術でそれを部屋の中へと必死に押し返した。


扉が重々しい音を立てて、閉まった。そして

ボン、と何かが爆発するような音がした。そして


ギィヤァァァァアアァァァァアァァァァァァァアアアァァ…………!!!!!


いくつかの断末魔が閉まりきったその部屋の中から響き渡った。


シヴルが投げ入れたのは『中央管理室』で手に入れたナパームである。

安全装置を引き抜くと、数秒後に爆発する特殊な爆弾。

しかし普通の爆弾と違って、特殊な薬品を化学変化を起こして爆発する。

そして爆発しても何千度の炎が対象者を燃やし尽くすまで消えることはない。


アアアあぁぁぁぁあァァァァァアぁぁぁぁぁぁァああアアアア………!!!!!!


断末魔の叫びが耳から離れるのはそれから数分も経たなかった。



シヴル達は再び『子供部屋』に戻ることにした。

もう見張りの機械兵士オートマタを気にする必要はなかった。

なぜならどれもすでに壊れていたのだから。

どうやらすでにここをうろついていたあの生物が片っ端から壊していたようだった。

そして残っていたわずかな電力バッテリーで動いていたようであった。

壊すのはここに侵入した時よりも、簡単だった。

そしてシヴル達は『子供部屋』に戻ってきた。

「………………………」

だが、誰も口を開こうとはしなかった。

「…ここの……」

長い沈黙を越えて、ようやくシヴルが口を開いた。

「ここの奴らは…子供達をあんなにして……一体、何をしようとしていたんだ?」

その言葉に応えたのはエゼクだった。

「地獄のような出来事を見た後、わたしは職員の監視を抜けてここの資料を読み漁った。

 どうやら、能力のあった私やリティ以外の子供達にはそのような事が行われていたようだった…

 ただの孤児となった子供をこの『白い孤児院』に入れる時に注射を通してあのようにさせる

 『種』のような物を体内に植え付けて。

 …私がその時に見た機械はその『種』を芽生えさせてあの変貌を

 促進させるためのものだったらしい。実験記録にすべて書いてあったよ…。

 そして化け物と化した子供達は次々と『失敗作』として処分されていたようだ…」

「促進させる、ということはその機械を通してからではないとあのような姿にはならないのでは?

 …先ほどの話を聞く限りではそういうことになるが…」

そう言うエンゼットの口調はどこか疲れているようだった。エゼクは首を振り、続けて答える。

「いえ…あくまでそれは私が見た時だ。

 ごく最近では、機械を通さずとも、特殊な信号を浴びさせる事によって変貌させることは

 可能だったらしいんだ…。

 おまけに、もし『種』を植えられた子供があの生物に襲われて怪我などをしたりしても

 それが信号になり、連鎖的に『種』を強制的に発芽させ、

 『種』を植えられた子供をその場であの生物に変貌させることが可能だとも書いてあった…」

なるほどつまり…

あの部屋にいた子供達は何かしらの形であの化け物に遭遇したのだろう。

そして誰かが怪我を負い、それが一瞬にして連鎖的に広がり…そして…なんという事だ…。

だがそれだと、誰かがあの化け物を仕向けたということになる。

つまり研究用に保管されてたのが誰かの手によって…?

…どういうことだ?

そんな事を考えていると、ミューゼが「はぁ」と大きくため息をついた。

「でも…どうして、子供達を『化け物』にするなんて、そこまでする必要があったのよ……」

ミューゼはもういつもの元気はない。エゼクは再び、今度は重々しく、首を振る。

「そのことだが…ただ、ひとつだけその部分について考察された所があった」

「というと?」

シヴルの言葉に、エゼクは一旦息をついた。

その様子はまるで苦物を吐き出さんばかりの様子だった。

そして彼は口を開いた。

「リティに封印の開放を要求した剣―――

 つまり、かつて女神イシュタリスが世界創世のために用い、太古に封印された『剣』を扱うために、

 子供達はあのような姿になったということが資料には書かれていた」

…………

え?

どう、いう、ことだ?

「ここの職員がはじき出した考察では

 あくまで私やリティができるのは『剣』の封印の《解放》のみであり、

 『剣』を《扱う》という事になると、何かしらの改造をもたらさない限りは決して扱えない、

 ということだったようなんだ」

ま…待ってくれ…つまりそれって…

「つまり…普通の人間は『剣』を扱う事はできない、の、か?」

「え? ああ、まぁそうだと資料には書かれていたが…」

その言葉で、シヴルは眩暈を感じた。

足の力が急に抜けて、その場にへたり込む。

「し、シヴル君?! どうした?!」

エゼクが駆け寄ってくるのがわかる。だがシヴルは何も応えない。

「…兄さん。実は…」

突然のシヴルの行動を理解したのか、

リティはまだ兄に、伝えていなかった出来事を話し始めた。


そう、ヴィアスで起きた、この旅のきっかけとなったその出来事を。


「…それは本当なのか? リティ」

話を黙って聞き、すべてを話し終えたリティへとエゼクが訊ねる。

兄の言葉に、リティは頷く。

「確かにシヴルはヴィアスに封印されたいた―――私が解除するはずだった『剣』の封印を解き、

 そして瞬時にその『剣』を《扱う》ことができました。

 それにどうやら…剣自身もシヴルを《持ち主》として認識したようなのです」

「つまり、ここの子供達ではあのようなカタチでしか《扱う》事の出来ない『剣』を

 シヴルは《扱う》事ができた、ということなのか…?」

リティは再び頷く。

エンゼットとミューゼもすでにその話を聞いていたものの

ここの出来事に遭遇してからはその話はどこかゾッとするようなものを感じていた。

そしてエゼクもまた驚きを隠せない。

つまり…それは…


「俺もまた…あの子供達と同じような《バケモノ》だった、ということ…か」


ぽつり、と吐かれたその言葉に誰もがその身を硬直した。

誰がそんなこと言ったのなんてとっくにわかっている。

「シヴル! それは…それは…ちが――――」

「どうして違うなんて言えんだよ…」

リティの言いかけた言葉をシヴルは振り払う。

「だって…そうじゃないか…

 あの『剣』を《扱う》ようにするために

 ここの職員の手によってあの子供達はあんな化け物にさせられたんじゃないか…」

「まだそれについては確証は持てていない…もしかしたら―――」

確かにエゼクの述べた事はあくまで書かれていた資料にしかすぎない。

それが本当か否かなどはその出来事に関わった者にしかわからないのだ。

だが…


「例え…違ったとしても……」


シヴルは言葉を詰まらせた。

考えるまでも、ない。

例え、シヴルとあの姿と化してしまった子供達が違ったとしても

俺は――――


「俺もあんな風になる可能性はあるのか?」

「……………」

シヴルはエゼクに問いかけたが、エゼクは黙り込んだまま何も答えない。


「あんな風にさ…気持ち悪い姿に…ヒトじゃないものになって…」

「シヴル!!」

その言葉にエンゼットが叫ぶ。だがシヴルはやめない。


「誰が、誰かなんて理解できなくて…ただ空腹にまみれて…」

「シヴル!!!」

ミューゼも叫ぶ。それでもシヴルはやめない。


「バクリと喰うのか!? お前達を『中央管理室』にいた職員を喰べたヤツみたいに!!

 生きたまま肉を引き裂いて!! 骨もバリバリ砕いて!!」

「!!!」


リティは目を見開いた。

先ほどそんな事があったのか…。

だから、なにか彼はコソコソとしていたのか…。

でも…


「なぁ…俺もあんな風になるのか…?」

再びエゼクにそう問いかける。


「……………………」

やはり、エゼクは何も言ってくれなかった。

そうか…やっぱり、やっぱり…!!


「――――――――っっ!!!」

途端に身体中に何か熱いものが沸き上がってきた。

「くそ!!」

次の瞬間にはすぐ傍の壁に拳を叩きつけていた。

びりびりと痛みが拳に走るのがわかる。

だがその痛みが沸き上がってきた何かを消してくれはしない。


ふと、ある事を思い出した。


(あの剣をただちに封印しろ。その剣はこの世に出すべきではないものだ)

ドセルドでの出来事だ。

(もう一度言う。あの剣をただちに封印しろ。その剣はこの世に出してはいけない。

 …持ち続ければ、やがてその剣はお前に絶望という未来へと導く…

 ……そしていつかそれはお前を喰らいつくすだろう…)

セシュルで助けてくれた男―――ソウガが言った事だ。

そうか…アイツが言った事は…そういう、ことだったんだな

そういう―――


「っ!!」

シヴルは再び拳を壁に叩きつける。

痛みが今度は身体中を走るのがわかる。

「っ!!!」

止まらない。

沸き上がる何かが止まらない。

「っ!!!! っ!!!!」

止まらない。止まらない。

「……っ!!!!!」

止まらない!!!!!!!!


「やめて!!」

また拳を叩きつけようとしかその時

誰かがそう言いながら、シヴルの腕を掴んだ。

いや―――この声は…


「リティ…」

そう言うシヴルの声はどこか消えそうなものだった。

「もう…もう…やめて…」

リティの声は震えている。

…泣いている、のか?

「お願いだから…!!」

リティはシヴルの腕を掴む手に力を込めた。

シヴルは叩きつけていた自分の手を見た。

その手はすでに血まみれになっていた。暖かいものがつぅ、と手の甲を伝っていく。

だが不思議にも感じる筈の痛みは、感じない。

「あ……」

だが自分が何をしたのかを理解するのはそれだけで充分だった。

自分のやった所業に思わず笑いが出そうになった、その時



「あらあら? もう落ち着いたちゃったの?」



突然響き渡った、聞き覚えのないその声に

シヴル達は身を凍らせた。





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