第19幕 潜入
『白い孤児院』
このギルティヴァースに存在する孤児院のひとつ。
個人や町で経営する各地に存在する孤児院とは違い、ここは国自体で経営されている。
機能自体は普通の孤児院と特に大差はないが………
「何やら裏で危険な実験がしているという噂が絶えない…か」
エンゼットは呟いた。
その視線は目の前の白い建造物―――『白い孤児院』に向けられていた。
『アクリゼウム回廊』で受けた妨害をミューゼの機転で突破し、
ようやくシヴルとリティはこの旅の目的地に辿り着く事が出来たのだ。
「辿りついたのはいいけど……あれはどうするのよ?」
ミューゼが困った様に言う。
彼女が言ったのは入口に立っている二人の人間―――いや二体の機械兵士である。
ヴィアスを襲撃する際に使用されていた《戦闘タイプ》と違い
孤児院の入り口に立っているのは見張りや見回りなどに使用される《警備用タイプ》である。
パッと見たようではただ突っ立っているようにしか見えないが、
見つかったら最後、警報を発し内部から誰か人を呼んでしまうだろう。
そのためシヴル達は孤児院から少し離れた茂みの中に潜んでいた。
「入口から入るのは不可能だな…。リティ、他に入口はないのか?」
エンゼットはリティにそう問いかけた。
「そうですね…。
…一応裏口がありますが…子供たちが脱走しないようにそこも内部に見張りがいますから…
裏口からも入る事は厳しいでしょうね……。
まさか、ここまで警備が厳しくなっているとは思っていませんでした…」
「そうか…」
エンゼットはそう言いつつもう一度、孤児院の入口に視線を移した。
やはりそこには機械兵士が立っていた。
まるで、そのまま壊れているかのように。
「入口があれじゃ、こっからは入れないな…。
とにかくどこからか入れるように一度ぐるって廻ってみようぜ?」
「…そうだな」
シヴル達は機械兵士に発見されぬよう、物音を潜めてその場を去った。
………………………ガシャン……
突如、機械兵士が二体同時に音を立てながら倒れた。
一体は倒れると同時に首が取れた。
「背面…ぶ…80、%……ハ、損。 ジ、ドゥ、せいgy装置9、じゅパー、ンと、ハソ…
…し、システム、ダ、ダぅ、ダウぅ…ン…………」
もう一体は設定された音声がそれだけ言うと、もう何も言わなくなった。
動かなくなった機械兵士は二体とも背面に大きな傷跡があった。
まるで、巨大な獣に裂かれたような傷跡が。
「やっぱしだめか…」
シヴルの口からまさしく残念そうな言葉が洩れる。
ぐるりと廻って、『白い孤児院』の裏口に来てみたが…
リティの言う通り、そこにも機械兵士がドン、と待ち構えているかの様に立っていた。
「入口も裏口もダメなら…見張りから見えない所で塀でも登ってみる?」
ミューゼがそう言う、が
「…残念だが、あれじゃ無理だな……」
エンゼットがため息混じりにそう答えた。
見上げた孤児院の塀の上には針金が痛々そうに詰まれていた。
おまけに塀はこれでもかという位、非常に高い。
それに
「あそこから入れたとしても、この時間帯じゃ見張りに見つかるかもな…」
シヴルはぐしぐしと頭を掻いた。
夜になって侵入する手も考えてみたが…
主な見張りは人間ではなく、眠る事を知らない機械兵士。
どちらにしても見つかったら即アウト、という事には変わりはない。
さてさて…どうしたものか…。
「…もしかしたら…あそこから……」
ふいにリティがそう言った。
「他にこの中に入る手があるのか?」
エンゼットの言葉にリティは頷いた。
「前に、この『白い孤児院』が遺跡の跡地の上に作られた、というのを話しましたよね?」
「ああ、そういえば…」
確かにドセルドで話しあっていたときにそう言っていたような…。
「それが?」
シヴルが促すと、リティは話を続ける。
「孤児院を建設する時に地上部分の遺跡はある程度廃棄しましたが…
地下部分の遺跡はまだほとんど手つかずだという事を聞いた事があるんです」
なるほど…つまり
「その地下部分の遺跡から、孤児院の内部に入れるかもしれないってこと?」
ミューゼの言葉に、リティは再び頷いた。
「しかし今でもその地下遺跡はこの孤児院の中に繋がっているのか?」
そう、問題はそこである。
いくらそこから入れても、地上部分が繋がっていなければどうにもならない。
「現在でも地下遺跡の捜査は続いている筈ですから…おそらく、そこから侵入できるかと」
外からはあれでも中に入ってしまえばこっちのもの…という事か
それなりのリスクは高いが、このまま突入して捕まるよりかはずっといい。
だったら
「んじゃ、そっちに行ってみるとしますか…!」
シヴルの言葉にエンゼットとミューゼは口に笑みを浮かべながら頷いた。
「それで…リティ、こっち側の地下の入口はどこに?」
「はい、確かこっちに…」
リティを先頭に一行は裏口の見張りに気付かれぬ様、再び物音を潜めつつその場を…
「?」
去ろうとしたが、ふいにシヴルが立ち止った。
「? どしたの、急に立ち止まったりして」
それに気づいたミューゼがそう話しかけてきた。
「いや、なんかあの見張り…」
おかしくねぇか、と言おうと思ったが…やはりパッと見た感じではどこもおかしくない。
気のせい、か?
「…さっきから思ってたけど、朝からどっか様子が変みたいだけど…大丈夫なの?」
ミューゼが心配そうにそう言う。
「あ、ああ大丈夫だ、うん」
「だったらいいけど。で、どうかしたの? 突然止まったりして」
「ああ、あの見張りの機械兵士の様子がちょっと変に感じてな」
「見張り?」
ミューゼはそう言いながら見張りの機械兵士の方に視線を投げる。
「…別に何ともないみたいだけど?」
「だよな?」
そう言うと「何言ってんのよ」みたいな視線で見られた。
…悪かったな、ほっとけ
「ほら、早く二人を追わないと置いていかれちゃうわよ。とっとと歩く歩く!」
「へいへい、わーってるよ」
そんな会話をしながらシヴルとミューゼの二人はその場を去った。
ガシャン…ガシャン
もちろん、その二人が見張りの機械兵士が音を立てて倒れたことを気付く事はなかった。
「ここがその入り口か?」
「そうです」
『白い孤児院』から少し離れた森の中にそれはあった。
うまい具合に木々に隠れ、パッと見ただけではわからないだろう。
だが近づけば瓦礫の山があるのがわかる。
そして、そんな中に古びた地下へと続く階段があった。
「この瓦礫とか折れてる柱の風化具合からみると…随分古い遺跡みたいね…。
でもそれに関わらず、この内部の方は多少の風化程度で大した損傷はない…。
これを作った人たちは相当な高度の技術を持った人たちね。間違いないわ」
「詳しいな」
シヴルの言葉にミューゼは「まぁね」と言った。
「これでも結構遺跡については行ったりしてんのよ…まぁ、エンゼット程ではないけどね」
「ふーん…」
破も…いや、旅に出てからも無駄にぶらついてるわけはないという事か。
「それにしてもリティちゃん、よくこんなの知ってたわね」
「ええ、昔ちょっと兄と一緒に孤児院を抜け出した時に偶然見つけたんです。
それであとで遺跡の存在を知った時にもしかしたらと思って…」
「孤児院の職員はこの入口の存在は?」
エンゼットの質問にリティは首を振った。
「知らないと思います。
子供達を見張るため、孤児院の職員は滅多に外に出たりなんてしませんから。
遺跡の調査をする調査団にしてもわざわざ王都から来ているみたいですからね」
「わざわざ王都から? ここの奴らはデスクワーク派だらけってことね」
「そうですね」
ミューゼの言葉にリティは笑みを浮かべて返す。
「それにしても孤児院を抜け出すなんて、リティちゃん結構オテンバな子だったのね。
おねーさんビックリだわ!」
「よくこの森に遊びに来ていただけですよ。この森は魔物が現れる事は滅多にありませんから。
抜け出すときはいつも見つからないかってヒヤヒヤしてました」
なるほどね…あ、でも
「…孤児院を抜け出すなんてことができたらとっとと逃げればよかったのに
どうしてしなかったんだ?」
シヴルの言葉でリティの顔からみるみる笑みがなくなっていく。
マズイ、また地雷踏んだか…?
「…最初はそうしようと思いましたけど、
私達より小さい子供を見ておいていくなんてできない、と兄と思ってしまって…
私達二人で逃げようだなんてできなかったんです。
…みんな、大丈夫でしょうか…」
…自分からふっといて何だけど、その気持ちわかるな…。
だからこそ、俺が言わなきゃダメか。
「…子供って意外としっかりしてるもんだぞ。
リティのお兄さんだっているんだし、きっと大丈夫だって」
「……………」
だが返ってきたのは無言だった。
え、なにこれ、ハズした…?
「…ふふっ、何かシヴルが言うと、どこか説得力に欠けますね」
え”?!
まさかの発言?!
頭の中に「ガーーン」という音が響いてくるのが…わかるゼ……。
「冗談ですって。そんな本当に残念そうな顔しないでください」
な、じょ、冗談って!!
「あ、あのなぁあ?!?!?!」
「うふふ、ごめんなさい…でも、あなたの言う通りですね…きっと大丈夫ですよね?」
「さぁな、と言いたい所だけど…
…ま、リティがそう信じるなら大丈夫なんじゃないのか?」
「ですよ、ね?」
そう言いつつ笑みを浮かべるリティ。
思わずつられてこっちも笑いそうだ…別につられていいんだけどな。
「んじゃ、ま…」
シヴルは地下遺跡の入口を見た。
「行くとしますか!!」
その言葉にリティは
「はい!!」
先ほどまで暗い顔をしていたいと思えないとびきりの笑みで答えた。
「……あのー、私達って…いらない―――」
「言うな……」
「ねぇ、おねぇさま、いつになったら来るんでしょうか?」
どこか薄暗い部屋の中にあるベッドの上に寝そべっている少女が言った。
「フォルの連絡からだともうそこまで来てるんでしょ?」
今度は別のベッドの上で本を読んでいる少女がそう言った。
「らしいわね…まぁ、どうやってここまで来るのかは私にもわかりませんわ」
そして次にまた別のベッドに腰かけている少女がそう言った。
「えー? 堂々と正面から来るんじゃない?
だって見張りはもうポンコツにしちゃったんだしさ?」
「ですけど…警戒してどこか別の所から来るんじゃないんでしょうか…」
「そうね…でも、例えどこから来たとしても…」
ベッドに腰かけていた少女は立ちあがった。
「私達が、奴らを始末して、剣を奪うだけですわ」
そう言って少女は笑った。
だがその笑みは少女とは思えぬ妖艶な笑みだった。
はい…真王です。お待たせした方申し訳ありません(いるのか?)
色々あってこれのことすっかり忘れてました。本当に申し訳ない…(^_^;)
とにかくやっと孤児院に潜入するわけですが…だいたい勘が鋭い方はこれからの展開もだいたい読めている…かもしれません…多分。
まぁ、それでも読んで下さっても、私からはありがとうございますしか言えないんですけどね。
一応その辺の苦情も受け付けておりまーす………。
今回もここまで読んで下さってありがとうございました




