第10幕 蒼水の港町にて
どこだここは。
見たことのない景色。その真ん中に誰かいる。
誰だあの二人は?
「本当に・・・本当に行くのですか?」
聞いたことない・・・これは・・・女性の声か?
いや、待てよ?やっぱりどこかで聞いたことがあるような・・・?
「すまない・・止めなくてはいけないのだ・・・・。
止めなければこの世界は、
父の思いのままになってしまうのだ・・・。」
もうひとりはどうやら男性のようだ。
父・・・?この男の・・・父親?
「わかっています・・・。
あなたと誓ったその時から、
いつかこうなってしまう事は覚悟しておりました・・・。でも・・・!!」
女性の声は震えていた。
「わかってくれ。
父を止められるのは私だけ。息子である私だけなのだ。
・・・君は君の身体に宿っている、私たちの宝物を守ってやってくれ・・・。」
「・・・あなた・・・・っ!!」
女性は男性に抱きついた。
そして、やがてすすり泣く声がしてきた。
「すまない・・・そばにいてやれなくて・・・・。
・・・・私の愛しい―――――――――」
むくり、と音が出てしまいそうな勢いでシヴルは起き上がった。
・・・えっと、ここは・・・・・・。
そう思いつつ、ベッドから降りる。
ふあ、と一つ欠伸をかませば、だんだん頭が目覚めてきた。
そうだ・・・ここは。
記憶も徐々に思いだしてきた。
窓に向い、閉めていたカーテンを開け、そして窓を開けた。
途端に心地の良い潮風が部屋の中に入り込んできた。
ここは蒼水の港町クロッティ。
そしてここはその町の中の宿屋。
シヴルは気持ちの良い潮風を浴び、ぐ、と体を伸ばした。
同時に先ほどの夢のことはすっかりと忘れ去っていた。
「おはようございます。シヴル。」
支度を済ませ、二階の部屋から降り、レストランに向かうと、
すでにリティがテーブルで待っていた。
「んー。おはようさん。」
シヴルは瞼をこすりながら答えた。
返ってきたのは男の声だった。
「ったく、遅いぞ。二度寝でもしたのか?」
「うるせーなー。してね―――――――」
ちょっと待て
今の誰だ。
瞼から手を離すと、リティのいるテーブルを見た。
よく見たら彼女の向かい側に誰かいる。
あれは確か・・・・・・・。
「プンクで会った・・・・手品師?」
「よっ」
手品師はそう答えた。
「ここに座っていたら、話しかけに来られて・・・
びっくりしましたよ。」
「ふーん。偶然同じ宿に泊まっていたということか。」
「ま、そういう事だな。」
そう言って、手品師はコーヒーをすすった。
「で、この町でもマジックショーをしてひと稼ぎしたのか?」
シヴルはバターを塗ったトーストを齧る。
「まぁな。プンクと同じ、結構絶賛だったぞ。
それで今日、東の方に渡ろうと思ってな。」
「東?王都の方にでも行くのか?」
シヴルのその質問に、手品師は首を振った。
「いや、ちょっとした野暮用だ。お前達と同じ観光だな。
マジックショーは路銀稼ぎってところだ。」
「観光ねぇ・・・・。」
こっちは本当は観光じゃないんだけどな・・・。
シヴルは心の中でそう付け加えた。
「それで?お前たちは?」
「私たちも東の方へ渡ろうとしていたところですよ。」
スープをすすっていたシヴルの代わりに、リティはそう答えた。
「そうか・・・折角だし、私もついていっても構わないだろうか?」
「へ?なんで?」
思わずシヴルはそう言った。
「なんでって・・・それは、あっちに行くまでは
目的地一緒だからな。それでもなんだ?ダメな理由でもあるのか?」
「だ、ダメな理由って・・・・・どうする?」
シヴルはリティの方に向いた。
リティは少し迷ったような顔をして、言った。
「・・・いいと思いますよ。
二人より、三人の方が船旅は楽しそうですしね♪」
「そりゃ、そうだけどさ・・・・・。」
リティの言葉はまだ終わっていなかった。
「こんな楽しそうな船旅は、私、初めてですから・・・・・。」
その言葉にシヴルは何も言えなかった。
今までずっと『白い孤児院』の中で暮らしていて
ヴィアスに来る時も船には乗ったが、決して楽しいものではなかっただろう。
だったら・・・・
「・・・・わかった。いいぜ、一緒に行こう。」
手品師はニッ、と笑った。
「そうこなくてはな。
私はエンゼット・スカイタルスだ。
えー・・・」
そういえば、自己紹介がまだだったっけ。
シヴルは水を飲み、舌を湿らせた。
「俺はシヴル。シヴル・ストラヴィジュだ。」
「私はリティ・カルティネージと申します。」
二人がそう言うと、手品師は目を見開いた。
「カルティネージ・・・・?」
そう言った手品師―――エンゼットは驚いているようだった。
「・・・あの、私の名前に・・・何か?」
リティは訊ねた。
「・・・・・カルティネージ家は十年前に二人の子供を遺して没落した。」
その言葉にシヴルはあやうく水の入ったグラスをぶつけてこぼそうとした。
まさか・・・こいつ?!
エンゼットの言葉はまだ続いている。
「遺された二人の子供は
東大陸の果てにある『白い孤児院』に預けられたという記録が残っている。
それが君なのか?リティ。」
二人は何も言う事が出来なかった。
「そう、なんだな。」
「・・・・はい。」
観念したかのようにリティは言った。
「なぜ『白い孤児院』にいる筈の君がここにいるんだ?
あそこは成人しなければ出ることはできない、と聞いているぞ。」
「それは・・・・・・」
再びリティは口を閉ざす。そしてシヴルをちらり、と見た。
ここまで知ってちゃ、黙っていてもアレか。
シヴルは一息つくと
「俺が話してやるよ。」
エンゼットに今までの出来事を話し始めた。
「・・・なるほど、な。
君達があの村に寄ったのはただの観光という訳じゃなかったということか。」
「ま、そういうことだ。」
そう言ってシヴルは食後のお茶を一口すすった。
「・・・・いくらなんでも危険すぎる。気の毒だが・・・・。」
「今更やめる、なんてしないぞ。」
シヴルはお茶の入ったカップをテーブルに置いた。
「どうせヴィアスに戻っても、剣がある限り、奴らはやってくるんだ。
剣を奪いに来るだけで機械兵士を大量に出撃させるくらいだ。
今度はどんな手段でやってくるかわかんない・・・だったら」
「だからといって・・・・」
エンゼットは口をはさんだが、シヴルは口を止めない。
「もう決めたことだ。
・・・さっき承諾しちゃアレだけどさ、
やっぱり俺たちと一緒に行くのは――――」
「・・・・そうか。ならば、なおさら一緒に行こう。」
「そう、だから―――――――――は?」
シヴルは思わず情けない声を出してしまった。
「聞こえなかったか?
一緒に行こう、と私は言ったぞ。」
「いや、そうだけどさ・・・・・。
さっき自分で危険すぎるって言ったよな?」
「言ったが、それでも行くのならばどう言っても行くんだろう。
だったら私もその危険すぎる旅に付き合うとするさ。
何か不満でも?」
「不満つったっても・・・・・・・
それにそっちの目的はどうするんだよ。」
エンゼットはどこか楽しそうな笑みを浮かべた。
「こっちの目的はいつでも構わないさ。
急いでいるのならば、こんな呑気な旅などしてないさ。」
もう何を言っても無駄か・・・・・・。
そう悟ったシヴルはリティを見た。
「えーーーっと・・・・
本人がそう言うのならば・・・まぁ・・・いいんじゃないんですか?」
おいおい、いいのか。この旅の当事者よ。
ため息はとりあえず出すのはやめておいた。
どーせこの先もたくさん出すんだろうし
「ありがとうございました。またお越しくださいませ。」
食事を済ませ、身支度を済ませた3人は宿を出た。
「そういえば・・・エンゼットさんはプンクの村からどうやってここまで?
傭兵か何か雇ったんですか?」
港に向かう途中、リティはそう言った。
エンゼットは「まさか」、と答えた。
「これを使って、この旅をやってきた。」
そう言って、取り出したのは
「・・・・これって、マジックショーに使ってた・・・ステッキですよね。」
「何だよ、魔物相手にマジックショーでもしてたのかよ・・・。」
「そんなわけないだろう。マジックショーはあくまで路銀稼ぎだ。
確かにショーでも使ったが、本来はこれは術の行使に使うものだ。」
「術の行使・・・『魔術』か?
だったら、あんたは『クレストソーサラー』なのか?」
エンゼットは首を振った。
「そう言いたいが、私は正規の術を習ってなくてな。
自分で独自に『魔術』のようなものを創ったりしてるんだ。
これではさすがに『クレストソーサラー』とは呼べないだろう。」
なんてことだ。
「術を自分で『創る』・・・って
すっげぇとんでもないこと聞いた気がする・・・・。」
『魔術』は太古に女神イシュタリスが授けたという知恵の一つと伝えられているが・・・。
それを『創る』者がいるという事は・・・とんでもなくすごいことなんじゃ・・・。
「『魔術』を『創る』者・・・・
確か文献に大昔にそういう者がいたという記述があったような・・・・。」
「え、そうなのか?」
リティの発言にシヴルはそう答えた。
「はい・・・えっと・・・確か・・・『スペルクリエイター』だったと思います。」
「へぇ・・・・」
初めて聞く用語にシヴルは驚きつつ答えた。
「『スペルクリエイター』は『魔術を紡ぐ者』という意味もあって、
自分の思いのままに『魔術』を変換して、自分だけの『魔術』を生み出す者だそうですが・・・
・・・すみません、詳しいことはよく覚えてません・・・。」
「いや、いいさ。
少なくともこれから自分がなんて名乗ればいいのかわかったからな。
感謝するよ。リティ。」
「ま、とりあえずまとまったところで、早く港行こうぜ。船が出ちまうぞ。」
「そうだな。急ぐとしよう。」
とりあえずその話はここで終わったが・・・・
リティはまだ考え込んでいた。
「(でも・・・『スペルクリエイター』はとある一族のみに受け継がれた技術のひとつで
今はもうその一族の血筋は途絶えたはず・・・。
まさか、エンゼットさんは・・・・・・)」
その考えにリティは首を振った。
「(いくらなんでもないか・・・・。
その一族の血筋が途絶えたのはずっと昔のはずですし、
例え生きていたとしても、お年寄りの方の筈ですよね・・・・。
エンゼットさんは・・・特殊な素質があった、ということなのでしょうか・・・?)」
そこまで考えたところでシヴルに呼び出された。
どうやら置いてきぼりをくらったらしい。
リティは急いで、シヴル達の元へと向かった。
どうも、真王です。
ここまで間をあけといてグダグダで終わらせんなよ、といわんばかりの話でしたね。・・・・・・すみません。
エンゼットをどう仲間に加えるかというのをかなり考えていたらこんなにかかるとは・・・・あとでなんかに襲われたときに正式に加わるでいいじゃん、とは思ったんですが・・・・どーしてもここで正式に加えたかったんです。ほんとにごめんなさい。
この話後半の説明ですが、まぁ一応軽く覚えておくといいかもしれませんね・・・多分(苦笑)
本当に色々グダグダでしたが、ここまで読んでくださってありがとうございました。




