第9幕 ある村での依頼(後編)
早朝、シヴルとリティは宿を出た。
そして村の入り口にいたディクロスと合流し
目的地である『古の塔』へと向かった。
「着いたようだな。」
ディクロスが立ち止り、そう言った。
「これが『古の塔』、か。」
シヴルの言葉に、ディクロスは頷いた。
三人の目の前に現れたそれはまさしく、塔と呼べるシロモノだった。
それは一般的に『古の塔』と呼ばれている。
この塔は昔、儀式事のために建てられたと言われている。
その儀式事が何なのかとはさすがにわからないが。
「で、入口は・・・」
シヴルは塔の入口らしき扉に近づき、取っ手を握り、引っ張った。
「・・・開いてるわけないか。」
思わず笑いつつ、シヴルは取っ手から手を離した。
「開いてないんですか?だったら――――」
「どうして開かない入口の塔の魔物の討伐なんて依頼したのか―――だろ?」
ディクロスからそう言われ、リティは
「あ・・・はい。」
と答えた。
「・・・儀式事がまだあの村で続いているのか?」
こちらへ近づいてくるディクロスにシヴルはそう尋ねた。
「そういうことになるな。」
ディクロスは懐からいやに錆びついた鍵を取り出し、取っ手の下の鍵穴に入れた。
鍵を回すと、ガチャンと音がした。
「でもまぁ、どんな魔物がこんな所に出没したのやら・・・・。」
シヴルは、疑問を聞くかのように聞き返した。
「・・・まぁ、そのことは」
鍵を再び懐に戻すと、取っ手を握り、引いた。
扉は重々しい音と共に開いていった。
「入れば、わかることさ。」
「・・・思ったよりなんか綺麗だな。」
「ですね・・・古と言う位ですから、もっと古びているとは思っていましたけど・・・。」
二人の言う事はもっともだった。
塔の中は意外と綺麗にされていたのだ。
掃除などされた形跡なぞどこにもない。
「シヴル、リティ、気をつけろ。もしかしたら魔物がそこの柱の陰から・・・・」
ぞぞぞっ!!
突如何かが湧き出るような音がした。
まさしくそれは・・・・・
「いたよう・・・だな!」
「来ます!!」
三人は戦闘態勢に入った。
「はぁっ!!」
シヴルは魔物に切りかかった。
「シャギャアアッッ?!」
魔物は痛みに叫びをあげた。
同時に傷口からドロリ、と粘着性の体液を出した。
塔に入っていきなり出てきたのは蜘蛛の魔物だった。
体液の色もいかにもマジで毒が入ってますと言わんばかりの色だった。
「うう・・・気色悪りぃぃぃぃ・・・・。」
さすがのシヴルもその体液の色には引いた。
「次は私が・・・えいっ!!!」
リティは詠唱に入り、術を放つ。
蜘蛛の魔物は光の爆発に包まれ、跡形もなく消えた。
「・・!!ディクロス!そっち行ったぞ!!」
何匹かが後ろのディクロスの方へと飛びかかるのを見て、シヴルは叫んだ
「・・・蜘蛛の魔物タランチュラ・・・・なるほどな。」
ザシュ!ザシュ!ザシュウッ!!!
ディクロスは剣を出すと、一瞬にして蜘蛛の魔物――タランチュラを切り刻んだ。
「悪いが、お前達と遊んでいる暇はない。」
そう言いつつ、剣についた体液を払い、鞘へ収めた。
「ヒュー、やっるぅ。」
シヴルはそう言った。その後ろにリティも続く。
「私などまだまだだ。・・・シヴル、君は≪クレストフェンサー≫なのか?」
「あ?まぁ一応。でもまだ修業中だけどな。」
「そう、か。しかし修業中ならなぜそんな剣を持っている?」
ぎくり
「≪クレストフェンサー≫は一人前となってから正式に魔法剣を持つことが許されるとされている。
とてもじゃないが、それは修業中の見習いが持っていそうな物とは到底思えんぞ。
・・・・どこで手に入れた?」
そんなことまで言われてしまい、シヴルは身体中が硬直した。
どうしよう・・・どうやって誤魔化そう・・・。
「私が彼にこの剣を与えました。」
リティ?!
彼女の突然の発言にシヴルは目を丸くした。
一体何を言い出すんだ?!
「シヴルはヴィアスから護衛として私が雇いました。
そしてこの剣は彼の通う学園から私が頼み込み、貸してもらったものです。」
「ヴィアスにある学園・・・魔術学院からか・・・シヴルはそこに通っているということか。
そうなのか?シヴル。」
「そ、そう!そうだよ!!」
シヴルは硬直から解放されると、そう答えた。
危ない、危な―――――
「しかし、いくらなんでも見習いを雇うなんて自殺行為だろう。
あの学園ならばいくらでもプロなぞ――――」
――かったーーーーーー?!?!?!
「シヴルはこれでも学園一の成績で、
将来、一流の≪クレストフェンサー≫になることが約束されているんです!
そうですよね?!シヴル!」
「・・・・ぅん・・・まぁ・・・ね・・・・・。」
ホントは中くらいの成績なんですけどね・・・・・。
っていうか聖職者が嘘を恐ろしいくらい炸裂させるってその辺どうなんだ・・・。
しかもその嘘、なんか傷つくんですけど・・・・・・。
「確かにあの剣筋はどこか輝くようなものがあった・・・まぁ嘘ではなさそうだな。」
嘘だよ!!!
シヴルはそう突っ込みたかったが、ぐっと堪えた。
もういい、本題に戻そう。
「それより!!この蜘蛛の魔物!!―――タランチュラだっけ?
こいつって確か、ナワバリ意識が強い奴で自分の巣に入った奴しか襲わないんじゃなかったっけ?」
「その通りだ。」
ディクロスは再び剣を抜くと、タランチュラの死骸を剣で拾い上げた。
「こいつらは巣に入った侵入者から、母体を守るために侵入者を襲う。
・・・・つまりだ。ここに出没した魔物は・・・・・・。」
「タランチュラの・・・・母体・・・ということですね。」
ディクロスは黙って頷いた。
そして、剣で拾い上げていた死骸を横へ捨てた。
「タランチュラは繁殖期になれば、ナワバリを出て、母体のために餌を求める。
こいつらの餌は生きた血肉。今はまだ本格的に活動してはいないようだが・・・。
いずれは・・・あの村の住民を・・・・・・。」
思わず、息を飲んだ。
「・・・行きましょう。そんなこと黙って見逃すことができません。」
「そうだな・・・・おそらく母体は塔の上部だ。・・・・気を抜くなよ・・・。」
「・・・・当然!!!」
三人は歩き始めた。
塔の入口はまた重々しい音を立ててその入り口を閉じた。
階を重ねるごとによって、タランチュラとの遭遇も多くなった。
タランチュラは毒を持っているが、それはリティの回復術のおかげで何とかなった。
ディクロスは魔術を使えることができたらしく、それにも何度か助けられた。
しかし何度倒しても次から次へと出てくる。
それでもなんとか三人は階をひとつひとつ上がっていった。
「ここは・・・・。」
四階・・・いや五階か?
数えるのを忘れていた階段を昇り、シヴルはそう言った。
「どうやらここが最上階のようだな。」
ディクロスは周囲を見渡しつつ、言った。
この階は下の階とは違い、広々としていた空間のようだった。
「屋上の階段が・・・ないみたいですね。」
最後に上がってきたリティは言う。
「いや・・・ある、とは思うぞ?」
「え・・・?」
そう言うシヴルはリティの方は向いておらず、先を見ていた。
その視線の先には、何かがいた。
何かはこの薄暗い闇の中でうぞうぞと蠢いていた。
耳を澄ましてみると、カサカサという嫌な音が聞こえてきた。
まさか・・・・?
「どうやら、おでましのようだぞ・・・・!!」
キィヤアアアアアァァァァァァッッッ!!!!!!!!
耳をつんざくような声が響き渡った。
タランチュラの母体が己の子供たちに命じたのだ。
侵入者を、生きた血肉を、喰らえ、と。
母体の命令で、大量のタランチュラが一斉に三人に襲いかかってきた。
『紺碧の風よ、切り刻め!! ウィンドストーム!!』
シヴルの手の平から大量のつむじ風が生まれ、
襲いかかってきたタランチュラを切り刻む!!
『灼熱の一閃よ、煌めけ、そして炸裂せよ! クリムゾンブロウ!!』
同時にディクロスが放った一閃から生まれた炎がタランチュラを焼き尽くす!
ギェアアアアアッッ!!
しかしタランチュラの猛攻はまだ止まらない!!
『彼の者に、堅き大地の守護を! アーマースター!!』
だが、リティの防御魔術がその猛攻は抑えてくれた。
「おらああああぁぁぁ!!!」
その隙にシヴルはタランチュラの群れを潜り抜け、母体へと剣を向ける。
ガキィン!!
硬い?!
その反動でシヴルは軽く吹っ飛ばされた。しかし、なんとか受け身をする。
「タランチュラの母体はその身に幼生体を身籠らせている!
そのためその体は鋼も同然だ!魔術で弱らせろ!!」
ディクロスがタランチュラの群れを魔術で蹴散らしながら、シヴルへ言った。
「心配・・・ご無用ぉぉぉぉぉ!!!」
シヴルは剣に自分の魔力を込めた。
その剣は魔力を纏い、光を発し始めた。
「どぉりゃあああああ!!!!!」
ザシュウッ!!!
魔力を纏ったその剣は、母体に痛々しい傷を与える!!
キィイヤアアアアアァァァァァ!!!!!
母体はさらに耳をつんざく悲鳴をあげた。
「やった?!」
リティが武器でタランチュラを倒すと同時に、叫んだ。
それを答えたのは、群れをあらかた倒したディクロスだった。
「・・・・いや、まだだ!!・・・・シヴル!!」
「わかってるよ!!・・・二人とも!サポート頼む!!」
シヴルはもう一度、剣に魔力を込め始めた。
キアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!
それを見た母体は、シヴルに攻撃を仕掛ける!
『万物の意志たる神々の名の下に・・・
彼の者に穢れの一撃を守る祝福を授け賜え・・・・ウィッシュヘキサ!!』
リティの詠唱が完了したと共に、シヴルの周りを淡い膜が包み始め、
母体の攻撃を完全に防いだ。
『紫電の光をその身に受けろ! バインドバースト!!』
ディクロスの指先から、スパークを纏った魔力球が発された。
それは母体に当たると、母体の体を一瞬にして包み込み、身体機能を麻痺させた!
「こいつでしまいだ!」
シヴルは飛びあがり、魔力を纏った剣を母体の頭に向けて、振り下ろした!!!
『サイコクラッシュ!!!!』
「・・・これは礼金だ。」
ディクロスはシヴルの手に金の入った袋を持たせた。
シヴルが母体に完全にトドメをさした後は、残りのタランチュラを始末した。
それはこの依頼の終了を意味した。
母体を完全に滅した後の塔を降りるときに、魔物と遭遇することはなく
すぐに出ることができ、昼前にはプンクの村へ戻ることができた。
そして一人で村長へ報告しに行くディクロスを待って数分。
手を出せ、と言われ、出した手の上に礼金がのせられたのだ。
しかも、重さからみてその量はかなりのものでありそうだ。
「い、いいよ。こんなに。」
そう言って、シヴルはディクロスに礼金を返そうとする。
「今回は本当に助かった。あの大量のタランチュラの群れを私一人で対処できることは
ほぼ不可能と言えたからな。
それに実質な話、あの母体にケリをつけたのは君だ。
それをふまえての礼金だ。これなら文句はないだろう?」
「・・・そこまで言うならわかったよ。これはありがたく受け取っておく。」
それを聞くと、ディクロスは薄く笑った。
その笑みはどこか嬉しそうに見えた。
「・・・それより、そっちはこれからどうするんだ?」
それを答えたのはリティだった。
「えっと、ここから南にある港町で船に乗って、王都を目指そうと思っています。」
そうだった。リティの護衛ということになってたんだったっけ。
だったら、素直に王都へ向かうと言っておいた方が安全か・・・・。
シヴルはもらった礼金を直しつつ、思った。
「王都か。だったらこれも渡しておこう。」
そう言って次に渡されたのは、ケースのようなものに入ったものだった。
「こ、これって・・・乗船パスじゃんか!!い、いいよ、これまではもらえない!!」
シヴルは乗船パスをディクロスに突き返した。
「いい、もらってくれ。どうせ、私にはもう必要ないものだ・・・。」
「え・・・・?それってどういう――――」
「それよりも今から出発しないと、日暮れまで港町に間に合わないぞ。」
「で、でも!!」
「ほら、いいから、もらっておけ!!!!」
ディクロスは無理やり、乗船パスをシヴルのズボンのポケットにねじ込んだ。
「あ、こ、こら!!やめっ!!」
「ほら!!さっさと行け!!」
そう言われ、シヴルははぁ、と息をついた。
「だー!わかったよ!このパスは借りておく!!!いつか返すからな!!!
いいな!!!ゼッタイだからな!!!!!!」
「期待して待っておくことにしよう。では、またな。」
ディクロスは踵を返し、村の出口へと歩き始めた。
「ディクロスさん!また会いましょうね!」
「絶対このパス返すからな!!覚えてろよ!!」
ディクロスは振り向いてはくれなかったが、手をあげ、振ってくれた。
そしてそれは、ディクロス自身が彼らの声が聞こえなくなるまでしてくれた。
「よし・・・俺たちも行くか!!」
「ええ、急ぎましょう。『白い孤児院』へ!」
「おや〜?王都へ行くんじゃなかったのかな〜?」
「あ、そ、それは・・・・もう!!!」
「冗談だよ。冗談。よし!行こう!」
「はい!」
シヴルとリティは昼少し過ぎにプンクの村を発った。
とりあえず、目的地は南にある港町だ。
「絶対このパスは返すから・・・・か。」
プンクから少し離れた森の中をディクロスは歩いていた。
その時だった。懐から何かが鳴りだした。
ディクロスはそれを取り出す。
通信機である。
ディクロスは通話ボタンを押した。
「どうした?」
『リーダー、プンクの村の依頼は?』
相手は若い男のようだった。
「ああ、無事に解決した。報酬は・・・・・断わったよ。」
『お見事です。しかしなぜ報酬を?』
「ふふ、おもしろいものを見たものでね。もらう気にはなれなかったのさ。」
『そうですか・・貴方らしいですね。』
「用はそれだけか?」
『いえ、もうひとつ。盟主様が集合を発令しました。』
「・・・そうか、わかった。今すぐ戻る。私の転送先を盟主様の元に設定を。」
『了解』
相手は通信を切った。
だが、次の瞬間から通信機からは別の声が発された。
「〔転送:盟主の間 転送開始まであと5・・4―――〕」
「残念だがシヴル、私にパスを返してもらう事は出来ない。
なぜなら、次に会うときは―――――――――――」
「〔転送、開始いたします〕」
ディクロスの言葉は転送の瞬間と共に消えた。
だから長いって・・・・・。
もうちょっと、前編の方に最初の方を入れた方がよかったですね。失敗だ・・・・・。
『古の塔』のボスですが、初期設定ではティラノザウルスでした(笑)でも塔でそんなデカブツと戦ったら塔崩れますってね。そんなわけで肉食の蜘蛛が出てきました。しかし、肉食の蜘蛛っていやに生々しいですね・・・・毒で殺して喰うって感じでしょうか。そんな感じでお願いします。
やっぱ戦闘シーンなんてどう表現しろというのだろうか・・・・・・・。
5982文字はやばいですね(今回の文字数)。もっと簡潔になるよう頑張りたいです・・・・。
今回も読んでくださってありがとうございました。




