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騎士団長三男の華麗なる卒業

本編は終わり。

学園に編入して早3年。

今日は卒業式である。


式なんて早々に終わり、今は会食の真っ最中。

俺はアリアを伴ってお世話になった人への挨拶を終え、ゆっくりしていた。

あとは、ダンスを待つだけである。

・・・式典のプログラム上は、という注釈はつくが。


「アリア。今日でいよいよ卒業だ。3年間アリアと一緒で楽しかったよ。」

「クレイグ様、私もです。・・・これが終われば私たちは・・・。」

「ああ。ようやくだ。長く待ったが、一月後、俺たちは正式な夫婦だ。」

「クレイグ様・・・。」

「アリア・・・。」


「・・・そういうのは個別でやってくれないかな?」

「・・・邪魔をするなマーク。」

「そうですよ。マーク。せっかくクレイグ様といい雰囲気だったのに。」


本当に無粋である。

男の名はマーク・ザーラ。

ザーラ騎士爵家の4男。

この男も俺がスカウトし、卒業後部下になることを約束してくれた。

彼は、突飛な考えや人の思いつかない考え方をする人間で、それでいて合理性もあり、将来は俺の参謀のようなかたちになることを期待している。

ちなみに3年間でのスカウト数はちょうど20人である。

おかげで卒業後はいきなり父の副官扱いになった。


「わ、悪かったって!ただ、クレイグが言ってたイベント(・・・・)がいつ始まるかわからないんだろ?」

「それはそうだけど、いつ始まるかはあちらさん次第なんだ。こっちの準備は出来ているし、あとは待つだけだ。」

「・・・さすがに次期伯爵様は余裕があるな。」

「からかうなよマーク。・・・今回は俺の初仕事でもあるわけだし。」

「・・・ですが、本当にコトが起きるのでしょうか?・・・彼らの行為はこれまでも目に余る行為が多かったですが、今回はあまりにも・・・」

「言いたいことは分かるよアリア。ただ、今回はジンナイの隠密も、父の諜報も同じことを言っているし、正確だと思う。・・・それでも愚かで」


「リース!この始末どうつけるつもりだ!」


フォード殿下の声が場内に響く。予定通り、始まったようだ。


「さて、始まった。予定通り、しばらく様子を見よう。」



騒ぎの中心に行くと、1対5の様相を呈していた。


5人はミレイ嬢と取り巻きたち。

取り巻きの中心にはフォード殿下。

その腕をつかむ、ミレイ嬢。

左右には公爵家長男、宰相次男、魔法士団長嫡子。


1人対峙するは、リース・シーカー。

フォード殿下の婚約者であり、対峙する公爵家長男の双子の姉。


周囲は静まり、もはや卒業を祝う雰囲気ではない。


「リース!数々のミレイ嬢への嫌がらせ!どのように責任をとるつもりか!」

「・・・仰る意味が分かりませんわ。殿下。・・・私は彼女に対して何もしておりません。」

「ここまで来て言い逃れをするか!」

「言い逃れなど・・・殿下。殿下のお気持ちは分からないでもありませんが、きちんとお役目を果たしてください。一時の感情の迷いに乱されては、国を支えるなど難しくなります。」

「おのれ・・・私までも愚弄するか!」

「!?そのようなつもりは・・・」

「ええい!もうしゃべるな!・・・今日謝罪すれば、許そうと思ったが、もう我慢できん!・・・先日伝えた通り婚約は破棄!貴様は極刑だ!」

「なっ!そもそも婚約は国が決めることで、いくら殿下とはいえそのような横暴は・・・」

「黙れといった!・・・私はミレイと改めて婚約をする。・・・貴様は未来の王妃(・・・・・)を害したのだから極刑で当然だ!」


あ、こいつやっちまった。

俺はそう思ったが、まだまだ話は続く。


「し、しかし刑の執行、しかも極刑の執行なんて、いくら殿下とはいえそのような権限は・・・。」

「それについては問題ない。王は今商業都市へ行っているし、兄は今朝から数日間近衛兵と騎士団の演習に付き合っている。・・・代理とはいえ、その権限は私にある。」

「なっ・・・・・・。」

「大人しくしろ。・・・連行せよ!」


そろそろ出番だと思いつつ、一歩前に出る。

しかし、再びリース嬢が発言をする。


「し、証拠は!?・・・私はミレイ嬢への嫌がらせなどしていません!」


その話が出たならば、俺の出番はもう少し先だ。

・・・さて、いつ致命傷を負うかな?


「ふん。往生際の悪い。・・・証拠は、これだ。」


そういってフォード殿下は腕輪を取り出した。

シンプルながら、宝石による装飾が施された、見事な一品。

一目で高貴な人物の持ち物とわかる。


「そ、それは・・・私の・・・喪失届を学園に出していたはずですが・・・。」

「まだ、シラを切るか。これは、ミレイが階段から突き落とされたとき、その場に落ちていたものだという。・・・私も驚いたぞ。まさかこのようなことをお前がするとはな。・・・もう言い逃れはできんだろう!」



「ちょっと待った。」



ここで第三者の介入。

すなわち、俺。


周囲も突然の乱入者に驚き、いや、戸惑っている。


「ク、クレイグか。・・・まさか貴様その女の庇い立てをするつもりか。」

「・・・とりあえず、お互い冷静になった方がよろしいかと。・・・殿下があまりにも結論を急がれるので心配になりまして。」

「ふん。よく言うわ。・・・で、何かあるのか?」


お、話聞いてくれた。


「・・・その証拠品、誰がどこでみつけたんでしたっけ?」

「・・・ミレイが学園南校舎4階の踊り場でだ。」

「彼女は1人で?」

「そうだ。・・・貴様ミレイを疑うのか!」


ああ、何と沸点が低い。


「そうは言っておりません。先ほども言いましたが、もう少し慎重になった方が良いかと。」

「・・・だから何が言いたい?」

「・・・そうですね。ミレイ嬢、そのときのことを教えていただけますか?」

「なっ!貴様!ミレイの負担をかけることは許さんぞ!」


そういう突っ込み方か。

もう一歩なんだけどな。


「そういうわけではありませんが、そのときはきっとミレイ嬢も混乱していましたでしょうし、改めて整理して確認することも必要かと思います。」

「き、貴様っ!」

「ま、待ってフォード様!・・・クー君はあたしのこと信じてくれるの?」

「それが正しいことならば当然です。」

「・・・分かった。話すよ。」

「な!無理しなくても・・・」

「そうだよ!」

「大丈夫か!」


取り巻きたちが騒がしい。


「それであたしを信じてくれるなら。」

「ミレイ・・・。」

「ミレイ嬢・・・。」


鬱陶しい。

とっとと証言を始めろ。


「・・・あたしが階段を降りていたら、急に後ろから押されて・・・。幸い、手を少し怪我しただけで済んだの。逃げる足音は聞こえてたけど、驚いてそれどころじゃなくて。気付いたら腕輪が落ちてて、殿下に相談したら、その腕輪が、リース様のだって・・・。」


そのまま彼女は俯く。

充分。

彼女の口からそれが聞ければ、もう茶番は終わりだ。

いわゆるチェックメイトである。


「兄上!」

「おう。」


決して大きくない返事。

しかし、会場には十分響き渡った。

ハーパー殿下の近衛である長兄、ワイル・ビームスの登場である。

当然、配下がいればその主も。

ハーパー殿下もワイルを伴い、中心に現れた。


同時に、会場には騎士団と近衛兵が入ってくる。


「な!」

「これは!?」

「一体どういうことだ?」


混乱する会場。

当然、ミレイ嬢と取り巻きたちも混乱している。


「あ、兄上!今日は近衛と騎士団の演習では?」


フォード殿下が慌てて兄のハーパー殿下に問う。


「演習しているだろう。・・・場所が王都内というだけだ。」


しれっと、答える。

まあ今回はコトが大きいから、王族も容赦なく動員されたはずだ。


さて、あとはハーパー殿下に任せるかな。


「・・・話は全て聞いていた。色々言いたいが、まずはその腕輪だ。・・・本物か?」

「な、何を!?兄上とはいえ、そのようなことは・・・。」

「リース嬢が腕輪を無くしたという話は、私の耳にも届いている。・・・そして発見されたという報告もな。」

「・・・えっ?」


驚くのはミレイ嬢。

そりゃそうだろう。

彼女はハーパー殿下には報告していないのだから。


「ワイル!」

「はっ!」


兄がハーパー殿下に袋を差し出す。

それを受け取り、中身を出すと・・・それは紛れもない、リース嬢の腕輪だった。


「なっ!同じもの!?」


フォード殿下が声を上げる。


「今朝早く発見されたそうだ。・・・下手人も逮捕されている。」

「・・・・・・。」


あれ、誰も発言しない。


「では腕輪は盗まれたものだと?」


思わず合いの手を入れる。


「そうだ。・・・ちなみにこちらは鑑定も終えてあるぞ。紛れもない本物だ。」

「なっ・・・あ・・・まさか・・・そんな・・・。」


フォード殿下はもうまともに話せていない。

当然だ。

ハーパー殿下が持ってきた物が本物。


で、あれば己の手にある物は?

それを差し出した人物は?


ハーパー殿下は止まらない。

フォード殿下の横にいる、ミレイに声をかける。


「さて、ミレイ嬢。・・・時に辺境伯は息災か?」

「な・・・あ、ち、父ですか?・・・はい元気だとお、思います。」


突然の話題変更についていけていない。

だが、それがこの茶番の本題だ。


「・・・先ほど、リース嬢の腕輪を盗んだ下手人を捕えたと言ったが、彼は辺境伯の身内だった。」

「え?」


会場が凍る。


「しかし、自作自演程度ではこのような場所に騎士団と近衛兵で踏み込まない。」

「で、では・・・何を・・・。」


ミレイ嬢は悟ったのだろうか。

用意された結末に。


「要は君の逮捕だ。・・・ミレイ・テネシー!父である辺境伯と謀って帝国と内通。リース嬢を追い落とし、第二王子と、重臣の子息を籠絡。後のクーデターを準備。以上の罪を持って捕える。・・・取り巻き共々連行せよ!」

「はっ!」


手際よく、ミレイ嬢と取り巻きが連行されていく。

皆呆然としており、誰も抵抗していない。


会場も凍ったままだ。

突然の茶番劇から大捕り物ではそうもなるか。




さて、面倒なことは終わった。

あとはハーパー殿下や長兄の仕事。


もう今日は式典なんて状況ではないだろう。


「アリア。」


俺は愛する婚約者を呼ぶ。


「クレイグ様。」


愛する婚約者は俺を呼ぶ。


「行こうか。」

「ええ。」




こうして、学園を揺るがしていたミレイ嬢と取り巻きの騒動は、王国規模の騒動となって幕を閉じた。





――後年、帝国との戦乱の折に活躍した将には、様々な二つ名がつけられた。例えば、ビームス家長兄ワイルには「黒騎士」、女ながら戦場で多くの敵を屠った公爵家のリースには「青魔導」・・・といった具合である。

「クレイグ伯爵」も華々しい戦果を上げ、その名も大陸中に響き渡った。ちなみにそんな彼の二つ名は「愛妻家」であったが、誰も突っ込む人間はいなかったという。







一応主要人物の設定とか。

せっかく作ったし。



○クレイグ・ビームス

本作の主人公。現地人。ちなみに魔法剣士。

剣の才能も魔法の才能もあるが、突出するのは軍団指揮能力と戦術単位での頭脳。剣では長男に、魔法では次男に及ばないことがコンプレックスだったが、溺愛する婚約者の一言により解決。それが本編の原点であり、歪みである。現在正式な継嗣。

婚約者の一言のせいで人材マニアに。婚約は政略的なものだが、まさかのお互いに一目ぼれ。

14歳の時に我慢できずに手を出そうとするも、直前に彼女の護衛に昏倒させられる。そのせいで、卒業までアリアとの公式な場以外での接触を禁じられる。15歳まで士官学校に通っていたが、彼女と会える機会を増やすため、16歳から王立学校へ通う。

父を、「自分は将来軍を指揮する。そのとき相手は貴族だ。士官学校では十分学んだ。だから同じ貴族の考えを知るため、また、将来の伯爵として政治を知るため、王立学校へ行きたい」と説得。もっともらしい理由だが、本心は「アリアに会いたい」である。


※本来はツンデレポジション

ゲームだと、士官学校に通っていたが、伯爵位を継ぐこともあり、王立学校へ強制的に編入。本人は剣と魔法を磨くため、士官学校にいたかったが、親の考えで王立学校へ。鬱々とする日々をほぐすのがヒロインの役割。



○アリア・ティムカルド

本作ヒロイン。

侯爵家の次女。クレイグと婚約中。とても頭がよく、母に似て美人。曾祖父は前々国王。12歳の時に婚約。一目ぼれ。14歳のときに手を出されそうになるが、本人も早く独占したかったため、むしろ積極的に誘った。そのときに一言が本編のはじまりである。

一目ぼれし、さらに本人が性格よく有能だと知った時にはひそかに自室で踊った。


※本来はクレイグルートの悪役ポジ



○ミレイ・テネシー

逆ハーを目指す転生者。父は辺境伯。母は侍女。

好物はイケメン。三度の飯よりイケメンが好き。I ♡ イ☆ケ☆メ☆ン。

元々平民として暮らしていたが、母の死を契機に辺境伯の娘であることが分かり、本編開始1年前に保護される。

そのときに全てを思い出し、気付く。ここは大好きなゲームの世界だと。

一方、使命も帯びており、使命と逆ハーの両立を目指す。本命はフォード。しかし、逆ハー要員も侍らせたいため、積極的に落としに行く。クレイグに関しては、まさか婚約者と両想いとは知らず、最後まで落とせなかった。

受けた使命とは、フォードを籠絡し、王位を得させること。帝国とつながる辺境伯の命を受けている。ゲームでは、フォードは王位を得られないが、4人を落とした経験や、周囲の表面的な評価から、調子に乗る。


※本来は天真爛漫かつ、1本筋が通った性格。ゲームでは、正規ルートであるフォードと婚約した場合、フォートが公爵位を得、ともに国を支えることになっていた。

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