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騎士団長三男の華麗なる生活

だいにわ~

「アリア。昼食の時間だ。早く行こう。」


午前の授業が終わって、すぐに彼女のもとに駆けつける。

俺が学園に編入して早半年。

季節が変わってもこれだけは変わらない。


「クレイグ様。とても嬉しいのですが、たまにはご友人を誘った方がいいのでは?」


燃えるような赤い髪に、切れ長の目。整った顔。

凛とした雰囲気。

一見近寄り難い美。

それが彼女。アリア・ティムカルド。

侯爵家の次女であり、俺の婚約者である。


「彼らとは朝夕の鍛錬の時などに会話をしているから問題無い。それにアリアだって友人を呼ばなくていいのか?」

「わ、私も、お昼はクレイグ様と食べたいので・・・。」


彼女はそう言って顔を赤くする。

同じなのだ。

彼女だって、自身の交友については、放課後や休日のサロンで行っている。

卒業までは私的には会えないので、そうなるとゆっくり出来るのはお昼時のみ。

お互いの周囲が気を使ってくれているのである。

理解ある友人が多くて助けられるばかりである。

最も、私的に会えない原因を作ったのは俺なのだけれど・・・。


今日だって、実際には2人きりではなく、従者名目の監視がついている。

まあ、今さら監視なんて気にしないが。


アリアをエスコートし、食堂へ向かう。

上流階級が多いこの学園の食堂は、中々高級なものが食べられる。

我がビームス家は食道楽も多いが、それにしたってこの食堂のご飯は素晴らしい。


注文したお昼ご飯を持って席に着く。

自分にとって、至福の時間がはじ


「あっ!クー君!クー君も一緒に食べようよ!」


めまいがした。

これである。

なるべく見つからないように端の方に座っているのだが、今日は見つかってしまった。

だいたいいつもお前ら食堂には来ないだろう。

定期的に近況を父に報告している、件の彼女。

辺境伯の1人娘である、ミレイ・テネシー。

何故か分からないが、俺がいくら拒絶してもめげずに話しかけてくる。


・・・後ろの取り巻き共が睨んでくるが、彼女は気付いていないのだろうか。


そもそも、俺のビームス家はフォード殿下と仲が悪い。

派閥が違うせいではあるが、我が家は王の長男であるハーパー殿下派・・・いわゆる長子派である。


情けないことに我が国では水面下で跡目争いが起きており、国を二分・・・とまではいかないが、それとなくハーパー殿下の長子派か、フォード殿下の次子派に分かれている。

主要貴族の多くは長子派なんだけどね。そんな表には出さないけど。


ちなみに我がビームス家は長子派の筆頭格。

何せビームス家の長男が、ハーパー殿下専属の近衛なのだ。

ハーパー殿下と、長兄は幼馴染であり、そのまま直属の近衛となった。

今では殿下の懐刀とか言われているし。

長兄は軍指揮とかはともかく、剣では国一番の実力ではないだろうか。

だから家督を蹴って、とっとと近衛になってしまった。

あの人普通の剣で魔法とか叩き斬るし。意味わからん。


そんなわけで、俺はあの取り巻き連中と仲良くする気はない。

彼らは間違いなく次子派だろうし。


さらに言えば、俺とフォード殿下の相性も悪い。

性格面とかも合わないことは合わないが、何よりも婚約者との関係性について合わない。


俺はご覧の通り、婚約者であるアリアとの仲は良い。

事件があって以降は私的に会うのは禁止されているが、逆にいえば公衆の前では会っていいのだ。

だから学園では堂々と彼女の隣にいるし、周囲には彼女との関係性を公言している。

彼女もそれは同じようで、俺でも顔から火が出るような恥ずかしいことを友人に言っているらしい。

・・・全くもって俺の隠密は優秀である。


で、一方のフォード殿下。

彼の婚約者は公爵家のリース・シーカー。

彼と彼の婚約者の仲は、良いとは言えない。

もちろん表立ってのことではない。

しかし、同じ学園に通っているはずなのに、殿下とその婚約者が一緒にいるのを見たことが無い。

いつも隣にいるのはミレイ嬢であり、リース嬢ではない。

ちなみに、リース・シーカーと、取り巻きのタルクス・シーカーは双子の姉弟であるが、これも仲が悪いらしい。

本来ならともに殿下を支えなければいけないのに、別の女にうつつを抜かして何をしているんだか。



で、現状。

残念ながら見つかってしまったので、この場を平穏にやり過ごさなければならない。

気に入らないとはいえ、相手の殆どは自分よりも格上の家柄。

心の平静を保って、やり過ごし、少しでも長くアリアとの昼休みを確保しなければならないのである。


「ミレイ嬢。とりあえずその珍妙な呼称は置いておいて、俺はアリアと食べていますのでどうぞお構いなく。」


と言って、さっさと席に戻る。

お前と話すことはないという意思表示である。


だが、これで終わらないから面倒なのである。


「あたしのことはミィって呼んでって言っているじゃない!いいから一緒に行きましょう!」


思わず魔法をぶっ放したくなるような満面の笑みで彼女は言う。

・・・てかこいつアリアのこと無視してねーか?


「申し訳ありません。俺なんかより彼らといた方が楽しいでしょう。・・・ですよね殿下。」

「そんな「その通りだ。ミィ。そんな男放っておいて、さっさと行こう。」


ミレイ嬢が何か言おうとするも、フォード殿下が有無を言わさず発言する。

・・・これが最近見つけたミレイ回避方法である。

すなわち取り巻きへの丸投げ。

殿下に投げておけばだいたいすぐ回収してくれる。

このときばかりは殿下に感謝である。


「では。」


今度こそ席に戻る。

ようやく解放さ


「何であたしよりそんな女を優先するの!?」

「・・・あ?」


一瞬誰が何を言ったか理解できなかった。

が、間違いなく、ミレイ嬢が俺に対して向けた言葉だ。


すぐに暴言を吐き返さなかった俺は褒められていい。

だが、もう我慢の限界だ。

俺に対して迷惑をかけるのは、100歩譲って、まあ許せる。

鬱陶しいことこの上ないが、迷惑を被るのは俺だけだ。

精神修養と前向きにとらえることも、できないこともない。


しかし、彼女への、アリアへの迷惑を許すわけにはいかない。

ミレイ嬢は辺境伯家でアリアは侯爵家。

形式上の家格は同じだが、アリアのティムカルド家の方が歴史は古く、王族の血も近い。

贔屓目に見なくても、アリアの方が家格は上である。

何よりも愛する俺の・・・


・・・これは無礼討ちでいいんじゃないか。

いや、良いに決まっている。

だいたい彼女のテネシー辺境伯家には良からぬ報告も入っているし、彼女自身にも、怪しいところはあるのだ。

加えて、殿下たちを惑わしている。

その上アリアに対する無礼な発言。


うん。斬ろう。


俺は魔法を展開


「クレイグ様!」


する前にアリアに呼び止められた。


「落ち着いてください。」

「アリア・・・。」


そうだ。

ここで俺が暴れるのは簡単だが、確かに彼女に迷惑がかかる。

辺境伯家やミレイ嬢に対する証拠も揃っていない。


アリアに抱きしめられ、冷静になる。

逆に冷静になっていないが、少なくとも頭の血は降りた。


ふと見回すと、ミレイ嬢と取り巻きが青ざめていた。


どうやら彼らも俺が本気で怒ったことを理解したらしい。

まあ今まで俺に対して迷惑を掛け、今回は婚約者のアリアに対しても暴言を吐いたのだ。

いい薬になればいいと思う。


「アリア。ありがとう。落ち着いた。」

「いえ、クレイグ様。礼には及びませんわ。クレイグ様を支えるのは私なのですから。」

「アリア・・・。」

「クレイグ様・・・。」

「・・・とりあえず、場所を移そう。お昼は従者に用意してもらおう。」

「そうですね。」


改めて、俺はミレイ嬢と取り巻きに向き直る。


「では失礼します。」

「失礼しますわ。」


さっさと出よう。

短いお昼の時間が、どうでもいいことで削られてしまった。






――後日、学園内で「竜の逆鱗に触れる」と同意義で「クレイグの嫁に触れる」という言葉が流行ったのは別のお話。









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