騎士団長三男の華麗なる報告
初投稿でございまする。
その日、俺は悩んでいた。
そして、俺は彼女に慰められていた。
『たしかに貴方は剣や魔法だけでは貴方のお兄様方に勝てないかもしれないけど、それだけではないでしょう?』
?
どういう意味だ?
『私にとっては、貴方の腕っぷしなんてさほど問題ではないのだけれど・・・少なくとも多対多の模擬戦で指揮を取るのは誰?そしていつも勝つのは誰?』
・・・それは確かに俺だ。
1対1では勝てないことも多い。だけど、多対多の場合、俺が指揮を取ればどんな集団でも勝機が生まれると思う。
『そういうこと。貴方個人の力だけでは、負けることもあるかもしれない。だけど、貴方と皆が協力したときに、負けることなんて思いつかないわ。だいたい1人でできることなんて限られているものよ。』
その通りかもしれない。
協力してくれる人がたくさんいれば何でも出来る気がする。
・・・・・・ありがとう。
『・・・あら、貴方がお礼なんて珍しい。』
ああ。それもそうだ。
でも、これは本気だ。
初めて婚約者として紹介された時から、ずっと好きだったし、今も好きだ。
国や親の都合だけど、相手が君で本当に良かった。
恥ずかしいけど、今言わなかったら、一生後悔する気がする。
もう一度言う。好きだ。
・・・ああ、いつも余裕な彼女の顔が赤い。自分もきっと赤くなっているが、その熱が清々しい。
『そ、そんな・・・わ、分かっているわ。わ、私もあ、貴方の、ことが・・・』
それきり彼女は俯いてしまった。
この熱をどう覚まそう。
彼女の手を取り、自室に向かう。
ドアの鍵を閉め、彼女をベッドに押し倒す。
俺の意識はそこで途切れた・・・・・・
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「クレイグ様。着きました。」
俺は従者の声で目を覚ます。
懐かしい夢を見ていた。
今でも鮮明に覚えている、2年前の出来事の夢だ。
しかし、今は馬車の中。
どうやら目的地・・・実家に着いたようだ。
学園の寮から、王都の実家まで馬車で1時間。
同じ王都内。大した距離ではないが、いつの間にか寝てしまったようだ。
「・・・寝てたな。行こうか。」
今日は王立学園に編入して4か月。
長期休暇というわけではないが、珍しく父親から呼び出されていた。
自分でも相談したいことがあったから、ちょうどいいタイミングだった。
見慣れた屋敷に入り、父の執務室に入る。
「お父様、参上致しました。」
「・・・その口調はどうした?」
「さて、高貴なる方々に揉まれてますから?その成果をば。」
「・・・普通にしてくれ。調子が狂う。」
げんなりした顔をしながら、父は言う。
当然だが、俺は父に向かってこんな慇懃な言葉を使っていない。
「確かに俺も調子が狂いそうです。・・・父上。珍しく呼び出されたましたけど、何かありました?俺も相談したいことがあったからちょうどよかったんですが。」
「・・・聞きたいのは2つ。お前の学園生活と、他の生徒の様子だ。」
「俺の学園生活は特に問題ないですよ。楽しくやってますし。・・・ただ、改めて貴族っていう生き物がどんなものかを再認識しましたけど。」
「何かあったのか?」
「いえ、大したことではないです。ただ、生粋の貴族と考えを同にするのは難しいなと。」
「具体的には?」
「例えば・・・状況は戦場、負け戦、撤退戦。・・・俺は如何に犠牲を少なくするか考えましたが、彼らは、如何に自分が逃げられるかを考えます。」
「・・・ある意味当然だ。分かるか?」
「ええ。最初は分かりませんでしたが、今は分かります。・・・仮に貴族が捕虜になれば、特に位の高い場合は、それだけで人的被害が出ますし、捕虜交換時には高額な身代金が発生します。・・・まぁ、単なる根性無しもいるでしょうが。」
「その通りだ。・・・間違っても後半はあまり口に出すなよ。」
「もちろんです。生徒の中には将来の重鎮もいますしね。」
編入後の王立学園ではまだ喧嘩なんてしていないし、今後も大人しくしているつもりだ。
「・・・まあ、お前自身については正直あまり心配していないのだがな。本題はその生徒たちの様子・・・特に将来の重鎮たちの様子だ。」
「・・・俺もそのことで相談したかったんですよ。・・・自分でも探らせてはいるんですが、どうも進捗が良くなく」
「待て。探らせているとはどういうことだ。」
おっと、そこに突っ込まれるか。
「実は、学園の友人の中に東国で政争に敗れて、王国で一旗上げたいという隠密の一族がいまして、将来部下になることを約束してくれました。」
「・・・身元は大丈夫なのか?」
「一応学園に入れてますしね。まあ今は試用期間みたいなものですし、将来的にも今の諜報連中と技術交換させるだけでも面白いでしょう。」
「お前は相変わらず・・・話が逸れたな。とりあえずお前の相談を聞こう。」
父が何かを言いたそうな顔をしているが、こればかりは仕方ない。
得難い人材を見ると、どうしても勧誘してしまう。
隠密の彼は、学園に入って一番に勧誘した。
学園ではまだ4人しか勧誘していないし、問題ないだろう。
ともあれ、本題だ。
「半分は父上の聞きたい内容と被る気がするのですが、まず学園の状況として、同期の重鎮の子息が1人の女性を囲っています。」
「・・・囲っている・・・とな。」
「ええ、まあ学生なので、浮つくこともあるでしょうが、どうも露骨過ぎて。囲まれてる女性は辺境伯の子女。俺と同じで今年から編入です。囲っている男は、王の次男であるフォード殿下、公爵家長男のタルクス・シーカー殿、宰相次男のギルバート・ディーファ殿、魔法士団長嫡子のドルフェロ・シェンリー殿ですね。」
「・・・その言い草ではお前は浮ついていないと聞こえるが。」
「今更私が他の女性に対して浮つくはずないでしょう。」
「それはそうか。」
そう。俺は既に愛する婚約者がいる。
今更どんなに言い寄られようが、邪魔でしかない。
「また話が逸れましたね。・・・で、以上を踏まえたところで俺の相談は2つ。1つは重鎮の子息が揃って同じ女性を囲っていること。2つめはその女性に俺自身も言い寄られていることです。」
「・・・お前も言い寄られているのか・・・。殿下たちもそうなのか?」
「ええ。今では寄ってたかってその女性囲み・・・おっと名前を言ってませんでした。女性の名前はミレイ・テネシー。テネシー辺境伯の一人娘のようです。で、そのミレイ嬢、今は囲まれていますが、それも調べさせたところ、きっかけ自体は彼女の方からのようです。」
「・・・殿下たちに言い寄り、今は逆に殿下たちの方から言い寄られていると。」
「状況はそうですね。」
「・・・確かに露骨だな。」
普通、国家の重鎮の子息達を一人の女性が侍らせているなんて有り得ない。
いくら学生だとしてもだ。
そうなると、何か企みがあるのではと疑いたくなる。
「同期の中では、私の家格はドルフェロ・シェンリーと同じ伯爵家の子息です。男でそれ以上の家格の者となると、同期には先ほど挙げた者しかいません。・・・それに俺が家を継ぐことは一部の人間しか知らないはずですが、どうも知っているような口ぶりで、編入して割とすぐに彼女に話しかけられました。」
「・・・ふむ。確かに裏があってもおかしくないな。・・・私が聞きたかったことも、それだ。宰相から少し調べるよう言われていてな。資料にお前の名前もあったから何かと思えば、そういうことか。」
宰相の用意した資料に名前が載っているって・・・。
それは怖いな。
俺の記憶の中にある宰相は、どこまでも冷酷で合理的な人だ。
「どこまで調べました?」
「まだとっかかりだ。ただ、学園内のことはお前の証言で裏が取れた。・・・お前の友人の隠密とやらも中々ではないか。」
「本人にも伝えておきますが・・・1つ調べきれないことが。」
友人は色々調べてくれているが、まだ学生の身。
調べきれないこともある。
頼れる隠密家族は王国に仕官したばかりらしく、手が離せないのだとか。
「・・・ミレイ嬢か?」
「はい。やはり学生ですから身分的にも時間的にも制約が大きく、調べきれないようで。・・・俺は、それだけ厳重に隠されている、と思っているのですが。」
「なるほど。確かにな。1人娘なのに今年から編入というのもひっかかる。・・・そっちは私が調べておこう。」
「お願いします。」
「・・・ちなみに、お前からみて、そのミレイ嬢はどんな人間だ?言い寄られているんだろう?」
「そうですね・・・。まず美人であることは間違いないですね。普通なら言い寄られれば、下心が湧いても仕方ないといった外見です。」
「そんなにか?」
「ええ。ただ、彼女は美人なだけではないですね。・・・魔法には優れているようですし、あとは何というか、観察眼、観察力とでも言いましょうか。それが飛び抜けているのではないかと。」
「ほう。その外見と観察力を以って、殿下たちに取り入ったと。」
「・・・俺が最初に話しかけられたときは剣の練習中でした。周りに人がいないので熱中していたんですが、ふと気付くとミレイ嬢がいて。・・・剣の練習場なんてふつう女性は寄り付かないから、迷ったのかと思って声をかけたんですよね。編入生同士多少面識はありましたから。そのときに彼女は言ったんですよ。」
「何をだ?」
『すごく剣に熱中していましたね。・・・でも何か追い込まれているみたい。あなたは剣や魔法だけの人ではないと思うわ。』
俺はこれ聞いたとき、正直言ってとても驚いた。
2年前に婚約者が言ったのと、同じような言葉を言われたからだ。
確かに昔からの癖で、熱中すると自分を追い込むように練習することもあるが、少し見ただけで見抜かれるとは思わなかった。
それに魔法を使えると分かるということは、彼女も一定以上の魔法の力量があるということだ。
美人で、魔法の実力もあり、人を見抜く力もある。凄い人だと、この時は思った。
「それで、気になって少し周りに聞いてみたら、既に取り巻きが出来ていまして。不審に思って詳しく調べていたら、どうやら俺以外にもその手法で取り入ったのが分かったのです。」
「・・・中々厄介であるな。」
「そうですね。そんなことが無ければ将来部下にでもと思ったのですが、そもそも辺境伯は同格ですし、既に私はミレイ嬢を嫌っていますからね。」
「お前が堂々と嫌っていると断言するのは珍しいな。・・・何か実害でもあったのか?」
「普段からミレイ嬢に珍妙な愛称で呼ばれて言い寄られているのもそうなんですが、何度かアリアとの昼食を邪魔されましてね。今のところ暴れていない自分を褒めてやりたいです。」
「・・・・・・。」
父が黙ってしまった。
アリアとは、俺の婚約者の名前で、愛する女性である。
理由があって、彼女とは公式の場以外での接触を禁じられている。
・・・学園が公式の場と言うと、少し違う気がするが、彼女とは同期でもあるのだ。学園で会う分には問題ない。はず。
そんな楽しみの時間を邪魔されるのだ。
個人的には斬られても文句は言えないと思うが、事件になるので実行はしていない。
「・・・お前、間違っても斬るなよ。」
あ、心読まれた。
ちなみに私は乙女ゲームなぞしたことないぞよ。