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狭間のアンテルヴァル  作者: 小木雲 鷹結
無貌の者たち(上)
1/112

プロローグ ~前夜~

 男は部屋に入った。

 蝋燭が照らすその部屋は、それでも中々に薄暗い。(すみ)に至ってはまったく闇と言って差し支えない程の明るさであった。

 しかしそれは、男が望んだことだ。

 彼ら(・・)は光に弱い。闇に溶け込むことが出来なくなってしまう。それ故にこの部屋は、人間の目で生活が可能なギリギリの明るさを維持してある。


「お疲れ様です、教祖。旅の最中に何か不便はありませんでしたか?」


 低く太い、それでいて透き通るような聞き取りやすい声が部屋に響いた。

 男は声の出処へ目を向けるも、発声主を視界に捉えることは出来なかった。

 しかし男は気に留めない。彼が人前に姿を現すことは(ほとん)どないからだ。それは教祖と呼ばれた男に対しても同じこと。


「特には。道中で一度騎士らしき一団に襲われましたが、何とかなりました」


 男は草臥(くたび)れたような笑みを見せる。


「あっちはどうだったわけ?」


 次に聞こえてきたのは女の声だ。嬌声に似た甲高い、纏わりつくような声を向けてくる。

 流石に彼女は姿を隠そうとしない。それどころか肌を隠そうとしていなかった。胸部と腰部、その他関節部分などを覆うだけの鎧―――分離鎧(ビキニアーマー)を身に着けているだけで、首元や肩口、腹、太腿など、まるで誘っているのではないかと思えるほど露出が激しかった。

 腰には一本の細剣が提げられており、武器はそれだけだ。

 男は恥ずかしそうに彼女から目を逸らす。


「あっち、というのは?」

「だからあれだよ。あれ。えーっと…………」

「『雑貨屋』のことか?」


 答えを口にした姿の見えない男に向かって、女は「そうそれ!」と指をさす。


「ああ、問題ありませんでしたよ。通りかかったのは偶然ですが……そして憶測でしかありませんが、あれは自分が求めてやまないものでした」

「へぇ。まぁ、これから楽しくなりそうじゃん? アタシはもううずうずして堪らないんだ!!」

「でしたら一緒に来てもらえば良かったですね。あの店からここへ向かう時、自分のことをつけていた雑種(ヒト)を一人、始末しました。ですがもう片方の妖翼種(フェアリー)を逃がしてしまいまして……」

「うっわ、サイテーだわそりゃ」

「貴様は少し口を慎め。教祖の御前だぞ」


 姿の見えない男の警告に、女は「へいへい」と肩を竦めた。


「それで、いつ始めんの?」


 嬉々とした女の声音に、男の表情も明るくなる。


「明日から、すぐに。ようやく自分の目的が達成できそうで嬉しいですね」


 恍惚とした表情で男が部屋の隅を見た。

 そこには二つの赤い光点が浮かんでいた。

 そしてポツポツと、その数は増えていった。



 男は魅入られたように、部屋の隅をいつまでも眺め続けていた。





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