吸血鬼さんとお留守番
さて、私が出かけた後吸血鬼さんは一人でお留守番をしています。
吸血鬼さんは私が出て行ったあと、私が学校につく頃になると家中のカーテンというカーテンを閉め切ってこもり始めます。
えっ? なんで知っているかって?
まぁそこは気にしないでください。
さて、いろいろな問題はさておいて吸血鬼さんは昼間は寝ています。
ただただ寝ています。夜になると起きるらしいのですが、吸血鬼さんはただただ眠ります。
しかし、それを妨げるように玄関の呼び鈴が鳴ります。
重いまぶたをこすりながら吸血鬼さんがのぞき穴から外を見ると、そこには宅配業者の人だと思われる男の人が大きな荷物を抱えて立っていました。
「まったく……なんでこんな朝から……さては、あいつ朝に荷物が届くようにしたな」
大正解です。さすがは、吸血鬼さんといったところでしょうか?
そんな様子を見ていると楽しく……おっと、先生に当てられてしまったのでいったん観察を中止しましょうか。
*
まったくひどい目にあったものです。
ただ、顔を伏せてタブレットで吸血鬼さんの様子を観察していただけだというのに……
授業? もちろん聞いていませんよ。私にとっては学業よりも吸血鬼さんの観察の方が大切なんです。
「ちょっと、また叱られるわよ」
隣に座る黒髪ロングの友人に注意されますが、そんなことよりも私にとっては吸血鬼さんの方が大切なのです。
さて、私が目を離しているうちに吸血鬼さんは居留守をすると決めたらしく、布団の中に戻っていました。
玄関カメラを写してみるとあきらめたらしい宅配業者も大きな荷物を抱えてトラックへと戻っていきます。
何となくですが、青と白のストライプが特徴の制服に包まれた背中が悲しげに見えるのは常に再配達時間を吸血鬼さんしかいない時間に指定しているからでしょうか?
そんな背中を見送りつつ私はカメラを吸血鬼さんの寝室に切り替えます。
吸血鬼さんは布団にくるまって寝息をたてています。
さてはて、このままではつまらないのでまた、何か仕掛けてみましょうか……
タブレットを操作して色々と検討してみますが、選択肢が多すぎて迷ってしまいます。
「うーん。まぁこれでいいや」
画面をタップすると、洗濯機が起動し、洗濯を始めます。
もちろん、出かける前に洗濯物と洗剤を入れておいたので問題はありません。
「……なんだ? せんたくきがうごいているのか……終わったら、干しておかないとまたうるさく言われるな……しかし、なんでまたこんな時に?」
科学の知識などまったく皆無な吸血鬼さんからすれば、洗濯機は勝手に動き出して、止まった時に中身を取り出さないといけないモノという程度の知識です。(八割がた私のせいなのですが)
そんな吸血鬼さんは洗濯機が大嫌いだそうです。
理由はまぁ尋ねるまでもなく、洗濯物を二話に干さなくてはいけないから。そして、庭にはさんさんと太陽が当たるからです。
洗濯機がうごきだしてからしばらく、布団の中でゴロゴロと転がっていた吸血鬼さんは意を決したように洗濯機の方へと歩いていきました。
「まったく、早く仕事を終えたまえ。私は早く眠りたいのだ」
どうやら、洗濯機に文句を言っているようですが、言ったところで洗濯は早く終わりません。
やがて、がたがたと音を立てていた洗濯機の音がなくなると、さっそく吸血鬼さんは洗濯物を取り出して、庭へと運んでいきます。
その際には、部屋の中にしまいこんであったフード付きのコートを着て、目元以外を隠すかのようにマスクもします。
「うむ。これで大丈夫だな」
こんなこと言っておりますが、これだけやって外での活動時間はたったの1分です。
まぁたかが1分されど1分と言ったところでしょうか?
さて、吸血鬼さん選手洗濯物を持って、外に出ました。
まず、立ちはだかるのは吸血鬼さんの身長よりも高い物干しざおです。
しかし、吸血鬼さんは事前に用意していた足台を使い簡単にクリアをします。
続いて、洗濯物を干していくわけですが……
いちいち上がったり下がったりとかなり効率の悪い。というか、外にいるせいか吸血鬼さんの疲労具合がやばいです。
汗を滝のようにかきながら、吸血鬼さんは的確に洗濯物を干していきます。
的確にというのはもちろん、ちゃんと干していくというような意味です。
すべての洗濯物を干してしたり顔の吸血鬼さんはしたり顔で屋内に戻っていきます。
時間にして実に59秒。
割とギリギリです。
さてと……次は何をしようか……そんなことを考えながら、タブレットをいじっていると再び先生に声をかけられました。
惜しいところではありますが、ここでいったん観察を打ち切るとしましょう。
*
まったくもってひどい目に合ったものです。
結局、かなり絞られてしまいました。
仕方ないのでその後は観察をいったん中断し、一時間目が終わるとさっそくタブレットを取り出します。
これが取り上げられなかったことが何よりも幸いだといえるでしょう。
そうそう。隣の席の友人が“何をしているの?”などと尋ねるモノですから、“吸血鬼さんを見守っているの”と返したら、“あきれて何にもいえない”などと言葉通りの表情で返されました。
はてさて、おかしなことを言っていたでしょうか?
そうこうしている間にも二時間目が始まってしまいました。
しかし、私にとって吸血鬼さんは何よりも大切なので観察を続けます。
吸血鬼さんの寝室を覗いてみると、またまた吸血鬼さんは寝ているようです。
なので今度は目覚まし時計でも鳴らしてみましょうか。
タブレットのボタンをタップすると、吸血鬼さんの耳元でジリリリリリリリッとけたたましく目覚まし時計が鳴り始めます。
吸血鬼さんは不機嫌そうな表情で起き上がり、それを止めますがそれをすると二つ目の目覚まし時計がなり始めました。
実をいうと、一つ目を止めると次は二つ目が二つ目を止めるとまた三つ目が、三つ目を止めると今度は一つ目が鳴るという順番を十回ほど繰り返すように設定してあるので吸血鬼さんは目覚まし時計を追いかけるようにぐるぐると室内を回り始めます。
「まったく、目覚まし時計ぐらい出かける前に止めて行ってほしいものだ」
私がわざとそうしているとつゆほどにも気づかない吸血鬼さんは文句を言いながらも一つ一つ目覚まし時計を止めていきます。
さてはて、吸血鬼さんが私がわざとやっていると気づくまでどれほどの期間がかかるのでしょうか? もっとも、それはそれで楽しみではあるのですが……
そんな吸血鬼さんの様子を見ながら次は何をしようかと考え始めます。
しかし、目覚ましで目を覚ました吸血鬼さんは、少し早目の昼食(吸血鬼さん的にはお夜食)を採ろうと思ったのか、布団から出て冷蔵庫へと向かっていきます。
冷凍庫を開けると、マジックで“吸血鬼さん用”と書かれた冷凍食品をいくつか取り出してそれらを手際よくレンジに入れていきます。
そこから包装の裏に書いてある時間通りにレンジをセットしてスイッチを入れました。
吸血鬼さんはぴったりと電子レンジの前について動く気配はありません。
もしかしたら、以前電子レンジに入れたモノが爆発することがあるといったことがあるので興味を持っているのかもしれません。
しかし、吸血鬼さんが期待しているようなことは起こらず、時間が経ったことを知らせるアラームが鳴り響きます。
若干残念そうな表情を浮かべた吸血鬼さんは中から食品を取り出して、それをお皿に盛り始めました。
この後もいろいろといたずらを仕掛けてみたりしながら私の一日は過ぎていくのでした。
*
「やっと消えたか……」
私は大きくため息をつく。
なぜだかよくわからないが、この家の留守を守っているときは決まって誰かの視線を感じる。
ただそれは敵意ではないので即座に対処する必要はないのだが、決まって宅配業者なる男が来ることや機械が勝手に動き出すところを見るあたり、それらを仕掛けている存在があるのかもしれない。
ついついあいつを疑いたくなってしまうが、彼女はこの時間はこーこーにいるから私には手出しができない。
はたして、何の仕業なのだろうか?
そんなことを考えていると、リビングで“てれび”という機械が動き出している音がする。
音がするというのは、てれびが遠くの様子を映す機械なのでこの家の中では聞けないような遠くの街の音が聴こえてくるため、ものすごくわかりやすい。
それを消しに行くと、今度はでんわがなり始め、らじおまで起動する。
まったくもって、この世界の家は不思議なものだ。




