傭兵、二人の語り
始めましての人は始めまして。
竹島悠です。
これで短編小説、三作品目となりました。
拙い文章ですが、どうぞ楽しんでいってください。
あれは俺が、まだ十五歳と数ヶ月の時だったな……。
俺は小さな村で親父と御袋と過ごしていたが……。
え、どれぐらい小さな村かって。
そうだな……人が四十ばかり集まった、村っていうより集落だな。
冬の終わりと共に田を耕し、春には畑に種を植え、夏には牛や馬を野に放して飼う。秋には畑の作物を収穫し、冬には村人全員で今年の収穫と来年の豊作を祝いながら飲む。
そんな長閑な村だった。
なぜ「だった」なんて言うのかって……そりゃお前さん、その村はもうないからな。
ハッハッハッハッハッハ。
なにお前さんがしんみりしてる。
まぁ、この酒でも飲めよ。
ところでお前さんは、神聖国師騎士団って知ってるかい。
………そうか、知らないか。
いや、知らなくてもいいんだよ。あれは、かれこれ十年以上も前の化け物集団だからな。
俺が今何歳かって……今年で三十五歳だな。
それよりも若く見える?カッカッカッカ、嬉しいこと言ってくれる。
それよりもだ、神聖国師騎士団……。
あいつらの話に戻すが、正直に言ってやつらは化け物だったな。
数十キロの銀色に輝く騎士鎧を身に纏。右手には教会より特別に手渡された剣。左手には自身全体を覆い隠すことのできる巨大な白の盾。
それらを装備した百近くの連中が、一糸乱れぬ動きで迫ってくるんだぜ。
当時の俺は、ものすごくビビッたさ。
今はどうかって……。
確かにあん時はまだ「ガキ」だったし、怖かった。
だが、俺もこの世界に入ってからは力もつけたし、今なら五分五分の戦いが出来るだろうよ。
まぁ、神聖国師騎士団が今も存在してたらの話だがな。
お前さんも知らないように、この集団は十年以上も前に滅んでいる。
とまぁ、神聖国師騎士団の話はここまでだ。
話を戻すが、ここまで話せば分かるだろ……そうさ、奴等が俺の村を滅ぼした連中さ。
っと、悪い悪い。
つい感情的になっちまった。
そう脅えた顔するな、この世界に入ったってことは、これからいくらでも触れる殺気だぜ……。
でだ、奴等が村に攻めてきたのは丁度昼時だったな。
それぞれの家から美味しそうな料理の匂いが漂い始め、家族そろってテーブルの近くに集まった。
そしたら突然、俺が生まれてから今まで使われていたことのない敵襲を知らせる鐘が鳴るじゃねぇか。
お、その顔つきは何か分かったような感じだな。
まぁ、今お前が今想像したようなことになった。
村中パニックになってな、我先にと逃げ出す始末。
なんせ、村長自体が真っ先に逃げ出したからな……。
え、俺ら家族はどうしたかって。
もちろん荷物まとめて逃げたさ。
だが運が悪くてな、親父とお袋は逃げてる途中で神聖国師騎士団の追っ手と遭遇しちまって……そのまま帰らぬ人よ。
俺は、たまたま神聖国師騎士団の様子を探りに着てた《紅き新月》っつぅ、傭兵団のリーダーに拾われてな。
両親の復讐を誓うと同時に、傭兵団の仲間入り。
鍛錬をしながら、この世の生き方を学んだわけさ。
今じゃこうして、フリーの傭兵なんかしてるが……拾ってくれたリーダーには感謝してもしたりねぇなぁ。
※※※※※※
「とまぁ、ここまでが俺の昔話で、俺が傭兵になった理由だな」
そういって、目の前の男は豪快に酒の入ったグラスを呷った。
ここは、ある国の大きな居酒屋。
時間は日が沈んでからだいぶ経ち、辺りは静けさを増したがこの建物だけは静けさとは無縁で昼間のような騒がしさがある。
店の中は、小から大までの色々なサイズのテーブルと椅子、それとカウンターが置かれ、様々な格好をした男女が酒盛りをしていた。
目の前に座る男は、先に此処に来て座っていた自分に簡単な自己紹介をした後。「自分がどうして傭兵になったのか」という、自身の壮絶なる物語を簡潔に笑いながら語たった。
男は名をクロードと言い。身長は百八十前半、体系は服を着ているからなのだろうか細く見える。顔は全体的に整っており。彼の赤い目は鋭い目つきをしていることもあり、カッコいい分類に入るだろう。髪は手入れしてないのか、肩のところで切り揃えられているが、ボサボサだ。
彼の座る椅子の横には、この場にはそぐわない一振りの馬鹿でかい剣が立掛けられている。
「それにしても、でかい剣ですね……」
男は「こいつか」と言い嬉しそうな顔をして、剣の柄を握りこちらにその刃を見せる。
さすがに酒場の中。しかも今の時間帯は大勢の傭兵や冒険者で賑わっているので、因縁や何たらを受けないために剣は持ち上げない。
「どこぞの名剣ってわけでもねぇ代物よ。だけどな、俺がこの世界に足を入れたときからの相棒よ!」
「そうですか……自分は、まだこの世界に足を入れて日が浅いので、そういった思い入れの品はありませんね」
「なんだ。お前、新入りか。ここいらじゃ、見たことない顔だと思ったぜ!」
「まぁ、食えよ」と言い、男はテーブルの上の料理を自分に押し付けてくる。
それと同時に、酒を追加するのも忘れずに……。
テーブルの上に置かれた料理は、油が大量に使われた肉料理をはじめ、数種類の野菜料理が並べられており、脂ぎった肉料理以外はとても美味しそうに見える。
野菜の乗った皿を自分の下に手繰り寄せ、フォークを使って食べ始める。フォークを使って食べるのには、特別深いわけもない。
ただテーブルの上にはフォーク以外に野菜を食べるのに適した食器がないからと言う理由で、スプーンで食べろと言われれば、スプーンで食べる。
とまぁ、どうでもいい話は置いといて……。
「しっかしお前さん、細いな……そんな華奢な体で、武器なんか持てるのか?」
野菜をモリモリ食べていると、目の前の男……クロードが酒を口にしながら、訊ねてきた。
そういわれて、自分の体に視線を向ける。
自分は身長が百六十前後。クロードの言ったように、肉付きのない痩せこけた様な華奢な体。親友たちからは女みたいな顔だと言われてきたので、フードを深くかぶり顔を隠してある。流石にフードで顔全体は覆い隠せないので、口元と腰まで届きそうなくすんだ茶色の髪。
誰が見ても「こいつ傭兵か?」と首を傾げるだろう貧相な体。
「そんなに細いですかね……」
正直に言ってしまえば、自分はこの体が好きではない。
お腹を痛めてまで自分を生んでくれた事には感謝するが、実力重視の傭兵世界ではこの貧相な体だけで相手に舐められてしまうこともしばしば……いや、結構ある。
だからこそ、目の前のクロードという男が自分をどのように評価してくれるのだろうか。
三流どものように体つきだけで判断するのか。それとも、熟練傭兵として三流どもとは違う反応をするのか……彼に見る目があるのかが知りたいと思った。
「細いな………それじゃ、大剣は持てんだろうな。だがお前さんの武器はその腰にある剣、そしてお前さん自身の身軽さでのスピード勝負が得意だろう」
彼はニヤニヤと笑いながらこちらの戦闘スタイルを暴いていく。
その言葉だけで、彼が体格だけで人を判断しない人だと判った。
「あなたの言ったように、僕は体格に恵まれませんでしたからね。そんな戦いしか出来ませんよ」
彼の言葉に肯定するように、自傷気味に笑う。
「ほう……自分の力を理解できてるか」
下手したら相手の気分を害する言葉をなのに、相手がその言葉を素直に受け入れたのが珍しいのか。
彼は「ならお前さんは、長生きできるだろうよ」と言った。
「あの……ここにいる人は、皆さん傭兵でしょうか」
話は終わったといった感じで食事に集中し始めたクロードに声をかける。
まぁ、自分も料理の美味しい味付を堪能していたが………。
「あぁ、そうだな。ここに居るやつらの大半がそうだろう」
食事を邪魔されたような形の質問の仕方だったが、彼は文句一つも言わずに酒場を見渡して答えてくれた。
「………大半?」
「そうだ。あの壁際の席で食事してる三人は、この町の騎士だろう……あの剣は騎士の間でしか使われていないからな」
クロードの持ったフォークの先に目を向ける。
そこでは、大量の酒の空き瓶をテーブルの上に乗せた酔った大人三人組がいた。
一人はテーブルに突っ伏し、後の二人は何か言い争いをしていた。
三人は私服で居るためか、傍から見れば騎士とは判らない。
だが、身に纏っている雰囲気が鋭い。
まるでこちらを監視しているかのような感じの鋭い雰囲気を醸し出している。
まぁ、テーブルに突っ伏していない二人からだが……。
「変にジロジロ見るなよ、絡まれたら面倒くさいからな」
「はい……しかし何故彼らはこんなところに居るのでしょうか」
騎士と傭兵では、社会的地位が圧倒的に違う。
貴族、極まれに平民などから国を守る人として取り立ててもらえる騎士。
しかし規則により個人としての意思、意見は通りづらく。一度加入してしまうと、死ぬまで己の命を王に捧げなくてはならない。
だが《騎士》という称号は、国民にとっては英雄のような存在であり。
王に次ぐ雲の上の人といえる。
逆に傭兵は貴族や平民、出身地、その他もろもろ問わずに誰でも組織に入ることが出来る。
また騎士のように面倒な規則もない。しかし傭兵の組織も数多くあり、その一つ一つの組織内でルールが存在する。だが騎士のように一生その組織に居ろと言う訳でもない、辞めようと思えばすぐにでも辞められる。
そのためにならず者どもが集まることもあり、一時期盗賊団と同じ扱いを承けていた。
そんな《英雄》とは程遠い扱いをされている傭兵の集まる酒場に、騎士が居るのは違和感のようなものを感じる。
「別に珍しい事でもないさ」
「と、言うと?」
「なぜ酒場に人が集まるのか……それが判れば簡単なことだ」
なぜ酒場に人が集まるのか。
それは………。
「……情報ですか?」
「そうだな。傭兵なんて家業は、昼間町の外で働き……夜町の中に戻ってくる。無論傭兵たちが自然と酒場に足を運ぶわけだ、今日一日の稼ぎを持ってな」
「つまり、町の外の情報を持ってですか?」
「そうだ。騎士なんて外に出たとしても、敵が攻めてこない限りは門までだ。ならば町の外の情報はどうやって手に入れるかだ」
「外に出ていた傭兵が、その手の情報を持って帰ってきている可能性があると言うことですか……」
「そう言うこと」
「さてと……俺は帰るがお前は?」
「自分も帰りますよ」
テーブルを離れ、酒場から外へと出る。
酒場に入ってから随分と時間が経っていたようだ。
空はすでに白くなりつつある。
夜が明けたばかりのひんやりとした空気が酒で酔った肌の熱を奪う。
ついつい話し込んでしまったからなのだろう、気がつけば夜が明けていた。
自分と彼は泊まっている宿の場所が、それぞれ違うのでここで別れる事になった。
「そうか………じゃ、生きてたらまた合おう」
「そうですね……」
この世で「また合おう」なんて言葉はないに等しい。
とくに傭兵をやっている身では「明日」すらない可能性だってある。
その事を判っているからこその「生きていたらまた合おう」。
その言葉が傭兵たちの間での別れの挨拶だ…………
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
誤字脱字等の指摘、その他感想お待ちしております。
※一部指摘がありましたので、修正しました