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メアリー・シュガー

作者: 大内

メアリー・シュガーの話をしよう。

ある町のスラム街に彼女は住んでいた。

彼女はとても可愛い女の子だった。

しかし孤独と貧困と偽りの善意と底のない悪意のせいで彼女はもう昔のような彼女ではなかった。体はやせ細り、髪はボサボサで眼光だけがギラギラしていた。

彼女はいつもクマのぬいぐるみを持っていた。

どんな時でも彼女は彼を手離す事はなかった。

彼女が変わってしまった事にひどく傷ついていた彼にとってその事だけが一抹の光を与えていた。まるで暗い井戸の底から見える太陽の光のように…

彼女は最初、服を売ってその日食べる物を手に入れていた。

しかしそんな事が長く続かない事くらいは彼女にも分かっていた。

もともと少なかった服はついに底を尽き、彼女は自分の身につけている服を売る事になった。

やせ細った下着姿の彼女は荒廃した丘に立っている朽ち果ていく木の細い枝によく似ていた。


食べるものがなくなった彼女は日に日に衰弱していき、ついには暗く冷たい地下で動けなくなってしまった。

そこは太陽の光は届かず、冷たい風だけが入り込んできた。

自分の死期を感じた彼女はクマのぬいぐるみを抱きしめて泣いた。

彼は彼女に何かを言って強く抱きしめてあげたかったのだがぬいぐるみとしてこの世に存在した以上そんな事は許されなかった。

彼に出来ることは彼女の涙でその身を濡らす事くらいしかなかった。

彼女は死ぬ間際に夢を見た。

それはとても幸福な夢だった。

彼女は幸福な夢と彼の愛に包まれて静かに息を引き取った。

細かい雨が降ってきた。まるで泣く事の許されない彼の代わりに空が泣いているかのように…

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。メアリー・シュガー……とても寂しいですね。クマの存在が好きでした。  メアリー・シュガーがスラム街で可愛く育った時期など、もっと読んでみたいと思いました。終り部分、哀しいですが…
[一言] とても短い作品ですが、読み応えがあり心に残るものがありました。なんだか、マッチ売りの少女を思わせるような、切なさと悲しさがひしひしと伝わってきます。 夢の中でしか幸福になれない、というのが辛…
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