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兄さん事件です!!



「先生急患です!」

「本日は閉院しました駆け込むんじゃねえよこの馬鹿が」

「電波時計で1分前だからセーフのはずだぁ!!」






* * *






自宅に戻れたのは昼も大幅にすぎた頃、もっとも暑い時間帯だ。

一応クーラーを弱くかけていった部屋はうっすら涼しく、飼い犬殿はおかえりとばかりに私の足に体当たりをかけてきた。

室内トイレを見れば、使った形跡がある。普段は散歩がメインであまり使うことはないが、さすがに今日は使ってもらえたようだ。

首筋を撫でながら、上目遣いのおねだりに気付く。とっとと連れてけといいたいのだろう。


いやいやちょっと休ませてくださいよお代官様。今何時かわかってます?日差しも気温も一番暑い時間帯ですよ。もうちょっとご自分のご老体をお考えになってはいかがか。日差し陰ってきたら行くからさぁという仕事帰りの心の叫びもむなしく、着替えの間中ついて回るお犬様に結局はリードを取った。







そしていつもの場所にたどり着けば、目の前でぶっ倒れるお猫様。

早朝とは違い、歩くそばから流れる汗も思わず引っ込んだ。



慌てて駆け込んだ馴染みの動物病院では、熱中症と診断された。クーラーの部屋でしばらく冷やせと言われたので、今、私の部屋の片隅には猫がいる。

冷やしすぎはよくないそうで、座布団に寝かせ、薄手のタオルをかけてやっている。


そっとその寝顔をのぞきこむ。


荒かった息も今は落ち着き、ちいさな寝息だけが聞こえてくる。垂れ流していた涎も止まったようだ。時折ピクリと身を震わせる。


寒いのだろうか。触ろうとして伸ばした手を止める。考えてみれば今までこの猫に触ったことはなかった。病院に運び込むときさえ、上着で包んで運んだのだ。

噛まれたり引っ掻かれたりすれば仕事に支障が出る。以前かかった外科で、猫に噛まれた傷が悪化して、あわや指切断の憂き目にあった患者の話も聞いていたから、不用意に手を出そうとは思わなかった。



何より触れば情が沸く。



飼う気もないのに手を出すなと、昔から獣医によく言われていた。

だから眺めてニヤニヤして、時々すこしだけおやつをやったりして満足していたのだ。それだって褒められた行為ではないのはわかっていたけれど。

…傍らで寝ている犬の頭を撫でる。黒い瞳がちらりと私の方を見て、すぐさままた閉じられた。濡れた鼻からもれた鼻息が、まるで仕方ないとでもいうように。









…はじめて触れた猫の毛は、どんなそれよりふわふわしていた。







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