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遠回りの途中③

本書はフィクションです。実在の人物・団体・省庁とは一切関係ありません。また、執筆にあたり複数の公務員の取材や架空のエピソードを組み合わせて構成しています。


ご覧いただきありがとうございます。

本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。

学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。

決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。

実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。

働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。

ぜひ最後までお付き合いください!

日曜日の朝。今日はアルバイトのシフトが入っていないため、意識して少し長めに朝寝坊をした。


まだ16歳とはいえ、毎日の慢性的な睡眠不足と厳しい夏の暑さは、確実に体力を消耗させていた。だからこそ、しっかりと睡眠をとって心身のコンディションを整えることは大切だった。


午前から昼へと差し掛かる頃、部屋の電話が突然の音を響かせた。

受話器を取ると、それは先日お世話になった美容院のスタイリスト・岩下からの電話だった。


前回のカットからちょうど1ヶ月ほどが経ち、「そろそろ髪が伸びてきた頃ではないかと思いまして」と、カットの予約を勧めてくれる連絡だった。

(あれから、もう1ヶ月経ったのか……)


そう驚きつつも、鏡を見ると確かに髪が少し鬱陶しく感じられる頃合いだった。ありがたい気遣いに背中を押され、浩一は翌週の日曜日に予約を入れた。


そして迎えたカット当日。

初回ほどの緊張感はなかったものの、受付で「本日は担当の希望はございますか?」と聞かれ、「岩下さんでお願いします」と告げた瞬間、自分の顔がカッと熱くなるのが分かった。

ただ、カットをお願いするだけなのに、なんだか岩下さんに特別な好意を抱いているようで気恥ずかしいのだ。そんな自意識過剰な自分が少し可笑しかった。


少しして、岩下が笑顔で姿を現した。

前回も何となく感じていたが、こうして改めて近くで見ると、当時のテレビで大人気だった女優・岸本加世子さんにどこか似ているような気がした。


岩下に案内され、前と同じスタイリングチェアに腰を下ろす。

「お越しいただきありがとうございます! 前回のカットから1ヶ月ほどでしたので、そろそろ伸びている頃かなと思ってご連絡しちゃいました」

「こちらこそ、ありがとうございます。ちょうど切りに行こうと思っていたところだったので、良かったです」

「カットのあと、扱いにくいところとかありませんでしたか? 今日はどのようにカットしましょうか」


優しく問いかけられ、浩一は前回と同じ長さをベースにすっきりと整えてほしいと伝えた。

手際よくハサミが動く中、他愛のない会話が弾んでいく。

カットの途中で、ふと岩下が言った。

「あの……急に思い出したんですけど、川野さん、チェッカーズの藤井郁弥さんに似てるって言われません?」

「あ……、時々、言われることはありますけど……」

「やっぱり! 雰囲気とか、目のあたりがすごく似てるなってみんなで話してたんです」

「いや、そんな……自分では意識したことないですけどね」

「でも本当に似てますよ! 」

「ありがとうございます。岩下も……女優の岸本加世子さんに似てるって言われたことないですか」

「あ〜! お正月の前とかに、カメラのフィルムのCMに出ていらっしゃる方ですよね?」

「そうです、そうです!」

「前にも他のお客様から言われたことがありますけど……私、似てます?」

「めちゃくちゃ似てますよ」


そんな軽妙で心地よいやり取りを楽しんでいるうちに、あっという間にカット、シャンプー、そしてブローが終了した。


お会計を済ませて店を出るとき、岩下が名残惜しそうに「またお待ちしていますね」と微笑んでくれた。その笑顔を見送りながら、浩一はふと思った。


美容院できれいに髪を整えてもらうことは、単に見た目を綺麗にするだけでなく、ざわついていた自分の気持ちや心まですっきりと整えてくれるような気がする、と。

ご覧いただきありがとうございました!

日曜日の朝の穏やかな寝坊、そして朝霧の美容院『アルーデコ』でのひととき。

緊張感のあった初回から一転して、今ではすっかりリラックスして会話を楽しめるようになった岩下さんとの関係が、とても自然に描かれています。

チェッカーズの藤井郁弥さんや岸本加世子さんという固有名詞からも、当時の若者たちがまとっていたお洒落で鮮やかな空気が伝わってきますね。

将来への不安や過酷なアルバイトの日々から離れ、ほんのひととき「16歳の少年」に戻れるこの美容院の時間。

ほろ苦いプライベートへの発展を予感させるこの出会いが、今後どう転がっていくのか……次回の展開もどうぞお楽しみに!

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