第4話:突然の2人暮らし
「ねえ、あたしもここに住みたい!いいでしょ?」
突然の申し出にルークは固まった。
出会ってまだ2時間くらいしか経っていない。しかも向こうは(ムキムキの)エルフの美少女だ。
ひとつ屋根の下で暮らすのは大いに問題がある気がしないでもない。
「ダメかなぁ?これ以上に面白いことなんてこれまでも、これからも出会える気がしないのに......」
しょんぼりした顔で分かりやすく落ち込むセルド。どうやら純粋な興味からの申し出だったようだ。
その顔をみてまで無下に拒絶できるほど冷酷な人間ではない、と自分のお人よし加減を恨みながらもセルドに向かって言う。
「わかった、わかったよ。そんなに絶望的な顔をしないでくれ。」
「えっ、じゃあ......」
「条件がある。家事は分担する。森の復活にも協力してほしい。それと......」
「それと?」
「セルドが今まで見てきたこととか、魔法のこととか、たまに教えてくれると嬉しい。」
「うん、任せて!じゃあ、契約成立ってことで!」
満面の笑みでルークと握手するセルド。その握力の強さにルークは驚く。でも、温かかった。
「君たちもよろしくね!ワンちゃんに小鳥ちゃん!」
木彫りの犬と小鳥はそれぞれが楽しそうに動き回る。ルークの暮らしは一気に明るくなったようだ。
「それで何を手伝えばいいかな?力仕事は得意だし狩りもできるから食材調達も任せて!あ、でもあたし大雑把な性格だから料理や掃除は、できないわけじゃないけど......簡単なものしか......」
最後の方はゴニョゴニョと喋るセルド。
「そうだな、大きな目標としては新しい丸太小屋を作ること。これは二人で協力しよう。で、セルドには食材調達とか薪割りとかをお願いしようか。掃除とか食事は俺がやるよ」
「いいの?」
「ああ。その代わり空いた時間は木工作業に充てさせてもらう。で、たまに街に売りに行って必要なものを補充する。畑とか作れたらもっといいかもな」
「畑!いいね、あたしその辺も得意だよ!」
ニコニコと腕を組んで胸を張るセルド。どこか子供っぽさを見せる彼女にルークはほっこりする。
「じゃあ早速とりかかろうか。と言ってももう夕方だし、丸太小屋の建築は明日......」
そこまで言いかけて、ふと気づく。
じゃあ今夜は小さなボロ小屋に二人で寝ることになる、と
「なあ、セルド。俺は今夜は外で寝るからこの小屋で寝てくれ」
「なんで?二人で寝ればいいじゃん」
「いや、だって......」
「?」
「......わかったよ。俺はこれから二人分の寝具を作る。セルドは食材を調達してきてくれるか?」
まあ、180歳も年下のただの人間に今更何を思うこともないんだろうか。変に意識してしまっているのは俺だけか。
「はーい、任せて!ちょっとこの木刀借りていくねー」
いうが早いか籠と木刀を携えて駆け出して行ってしまった。
「さて、さっさと作ってしまおうか」
ルークはボロ小屋に残っていた角材をすべて活用して2人分のベッドを組み上げる。余った部材で簡素な椅子も作る。知識も経験もないのに作れてしまうという感覚はいまだに慣れない。だからこそ騎士向けの才能がなければ騎士になれないというのも納得できてしまう。
ルークは完成したものに加護の力を与えることでどちらもふかふかの弾力性を持つ。本当に便利なものだ。森を蘇らせるという名目がなければ使うのをためらうかもしれない。利便性が高すぎてこれを当たり前に思ったらもう戻れないだろうな。とルークは思う。
完成した頃、辺りはすっかり暗くなってきた。木製ランプが自動で点灯する。”ランプとしての機能”が”暗いところで明りをもたらす”となっているんだろうが......などと考えているとセルドの声が響く。
「おーい、戻ったよー!」
外に出てみると数匹のウサギと木の実、葉っぱを持って帰ってきた。
「これだけあれば今日は大丈夫かなー」
「ああ、ありがとうセルド。この葉っぱは?」
「食べられる野草だよ。ウサギは血抜きは済ませてあるけど、処理できる?」
「まあ、一応。実家でもたまにやってたし」
「いいね、じゃあ二人でさっさと済ませちゃおう」
二人は小刀を取り出して皮を剝ぎ内臓を取り出す。肉を洗おうとしたところでふとルークは考える。
「なあ、セルド。こういうのって泉で洗っていいものか?川と違って汚れが溜まりそうなんだが」
「そうだねー、ちょっと待ってて」
セルドは泉に向かうと水を掬い、口元に持っていく。それを飲むと戻ってくる。
「喉乾いてたのか?」
「ううん、泉質を調べていたの。この泉では”まだ”洗わないほうがいいかな」
「泉質?まだ?」
「まあそれは後で説明するよ。何か桶とかで水を汲んだほうがいいかな」
そういわれたので作った桶をもって水を汲んでくる。セルドは慣れた手つきでウサギ肉を洗う。
「さてと、焼いて食べようか。葉っぱと一緒に炒めてもおいしいんだけど......お鍋ある?」
「ああ、作ったのがあるぞ。ちなみに火はこっちだ」
そういって焚き火の元に案内する。見た目はただの薪の寄せ集めだ。
「これに火をつければいいの?」
「いや、”これ自体が焚き火”なんだ。複数本の薪に焚き火としての機能を与えてみたら、食材や鍋を置いた時だけ熱を伝えてくれる、非常に都合のいいものができてしまってな......」
「あはは、無茶苦茶だねー!やっぱり面白いや」
ルークは木鍋を焚き火の上において肉と葉っぱを手早く炒める。あたりにいい香りが漂うとセルドのおなかの音が豪快に鳴る。
「あはは、お腹すいちゃったー」
そういって木の器を持ってくるセルド。ルークは二人分をそれぞれよそいテーブルに運ぶ。
木の椅子に座ったセルドはまた一驚きする。
「えっ、ふかふか!すごいすごい!」
毎回律儀にリアクションしてくれるセルドの様子は、ルークの心を癒してくれるような気がする。
「「いただきます」」
ルークとセルドは両手を合わせ、フォークで炒めた肉を食べる。
「ん、うまいなこれ」
「でしょ?とってきた木の実も何かに活かせそうだよねー」
二人が食事をしている間に小鳥のピールナは葉っぱをついばみ、犬のウーギーは余った内臓を食べている。
「こいつらもご飯食べるのか、なんかいいな」
「かわいいなぁ、こういうの憧れだったんだー」
和やかに食卓を囲む二人と一匹と一羽。するとセルドが急に真剣な顔をする。
「ねぇルーク、さっき狩りをしているときに魔物を見かけたんだ」
「魔物?この森にいるのか......。ケガとかはなかったのか?」
「うん、見つかりはしなかったからね。今は精霊の領域のここには近づかないと思うけど......。森を立て直すなら無視できない問題になると思うんだ。」
「そうだな、たぶん色んな問題があるんだろうなー。早速明日改めて確認しに行こうか。教えてくれてありがとな」
「あたしも本当に協力したいからね!」
セルドは力強く笑みを浮かべた。突然の押しかけ筋肉ムキムキエルフの同居人となった彼女。だが心強い。彼女の知識と力はきっとこの森を復活させるのに不可欠だろう。
食事を終えた二人は明日の探索に備えて眠ることにする。やるべきことはたくさんある。ルークは自然に眠りについた。
セルドが木製のベッドのクッション性に興奮してしばらく寝ずにはしゃいでいたのはまた別のお話ーー




