第3話:運命の出会い
茂みから現れたエルフは目の前で腕を組みながら、にこにことこちらを見ている。
腕を組んでいるのは威圧的な意味ではではなくただのクセのように思える。
その目は好奇心で輝いている。
「それで、キミは何者なんだい?この森が元気を取り戻すなんて信じがたくてさぁ。魔法とか使ったのかな?」
初対面にもかかわらずぐいぐいと質問をしてくる。
苦手なタイプかもしれんと思いながらルークは目の前のエルフを観察する。
エルフという種族を直接見るのは初めてだ。話に聞いていたエルフ特有の長い耳、これは事実だった。
だが体つきはーー”筋肉質”というのがわかりやすいだろうか。いや、鍛えられすぎている。他のエルフはどうかわからないが、目の前のエルフはそこらの一般男性よりはるかに大きい体格、といった感じだ。自分も騎士を目指していた身、毎日のように鍛錬してきたからそれなりに筋肉はあるつもりだが、負けず劣らずだ。腰に携えている弓矢は本物だろうか。
ルークは努めて冷静に答える。
「いや、魔法じゃない。......この森から、森の精霊から加護をもらったんだ」
「へぇ!それはすごい!加護を受けられる人間なんてなかなかいないのに!よほど気に入られたんだね!」
印象は悪くなさそうだ。だがひとつ不安がよぎった。エルフはどんな理由であれ森を傷つけるものに容赦しないとも聞いたことがあるからだ。
目の前のエルフは周囲をぐるっと見回す。そして口を開く。
「なるほど、無差別に切り倒してるわけでもないんだねー。どの木を残したほうがいいとかわかってる感じだね」
「怒らないのか?」
「怒る?......ああ、確かに他のエルフなら枯れ木でも木を傷つけるなんて許さん!とか言って魔法放ってくるかもー!」
こともなげに笑いながら恐ろしいことをのたまうエルフにルークは冷や汗をかく。
「あたしはそういうタイプじゃないんだ。エルフの中でも異端中の異端の問題児だからねー」
「異端?」
「うん!あ、あたしはセルド・ルミナフォレスっていうの」
「カーウェン・ランドルークだ。ルークとでも呼んでくれ」
「ルークね!あたしのことはセルドって気軽に呼んでくれると嬉しいな!よろしく!」
「ああ。それでセルド、異端っていうのは?」
「うん、あたしは見ての通りエルフっぽくない見た目でしょ?筋トレが好きだし弓より木刀の素振りのほうが好き。食事だってお肉が好きだし得意な魔法は筋力強化!ついでに人間との交流も大好き!エルフ”らしさ”からは真逆にいるんだよねー」
「なるほど、確かに過去に聞いてた話と一致してるのは首から上だけかもしれない」
「あはは、よく言われるよ!顔はいいのに嫁の貰い手はオーク族くらいだろうってさー」
彼女は笑っているが、ルークは笑っていいのか分からず苦笑いを浮かべる。
「そういえば、加護ってどんなのもらったの?気になる!」
距離感というものを知らんのかというくらいにグイグイ来るセルド、だがルークは不思議と嫌な気持ちではなかった。
「ああ、俺が加工した木材とか道具に役割とか機能とか、そういったものを与えられるんだ」
「へぇー、じゃあその斧とかも?」
「ああ、鉄斧と変わらない切れ味を持ってるぞ」
「へー!ちょっと借りるね!」
そういうと片手でひょいと木斧を持ち上げると2、3回素振りをする。そして枯れ木に向き合うと、バッサリと両断する。
「すごいすごい!木の軽さとこの切れ味を両立できるなんて!」
興奮気味に話すセルドの肩にピールナ、木彫りの小鳥が止まる。
「えー!かわいすぎる!この小鳥ももしかして......!」
「うん、加護の力で本物みたいに動いてるよ」
「いやー、すごいな!200年くらい生きてきたけど初めて見るものばっかりだ!」
「......は?200年?」
「え?うん。あたし今200歳くらい。人間とは寿命のスケールが違うから仕方ないねー」
「マジか、同じくらいの年齢にしか見えないぞ......」
エルフは長生きとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。
「まあまあ、それより君すごいよ!ねぇ、犬は作れないの?あたし、犬好き―」
「犬か、アリだな」
ルークは素直に称賛を送るセルドに少し照れながら、丸太に腰を下ろして木材と小刀を手に取る。
素材の選び方、木目、小刀の使い方。セルドは興味津々で聞き入っている。ルークが実際に彫り出すと時折感嘆の声を上げながら手元を見つめる。完成するとセルドは拍手を送る。
「すごーい!なんかベテランって感じの手さばき。昔からやってるの?」
「いや、昨日からなんだ。こういうことをやり始めたのは。実は......」
ルークは片づけをしながら自身のことを語る。騎士の夢が破れたこと。木こりとしての才能があると知ったこと。やけくそ気味に森で暮らし始めたこと。精霊に力をもらったことーー。
「へー、じゃあここからは第2の人生だね!まだ若いんだから何でもやれるでしょ!」
「そうだな、セルドに言われるとなんか勇気が出るよ」
片づけを終えると木彫りの犬に力を送る。しばらくすると木彫りの犬は胴を震わせ、尻尾を振り始める。
「ワン!ワン!」
元気よく吠えると、ルークとセルドに身体をすりよせる。セルドの方を向くと感動の表情を浮かべたままフリーズしていた。
「おーい、大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと久々に感動とかそういうレベルを超えて衝撃を受けちゃった。君はね、ウーギーちゃん!どうかな?」
ウーギーと名付けられた木彫り犬は嬉しそうに尻尾を振る。
そしてセルドはこちらを向き直ると、こう言った。
「ねえ、あたしもここに住みたい!いいでしょ?」
今度は俺がフリーズする番だった。
次回は14日に更新します。1月中は1日2回更新の予定です。




