第2話:精霊の加護の力
森の精霊との出会いから半日ほど過ぎた昼頃、ルークは目を覚ました。
手のひらを見つめながら昨晩の出来事を思い出す。
「......本当に加護が宿っているんだろうか」
あれは実は夢だったといわれても信じてしまうほどの出来事だった。
毛布代わりのボロ布から這い出たルークは小屋にあった小刀と角材を手に取る。
「試してみないことには始まらないよな」
角材を小刀で削って輪郭を作り、目や耳などを形作り、細かい部分を仕上げる。
これまでに全く経験がないにもかかわらず、どこをどう削っていけばいいのかやどのくらいの角度、力で刃を入れればいいのかが頭の中に浮かんでくる。
「これが木工の才能ってやつか......、なかなか楽しいな」
夢中で作業を行い、1時間ほど過ぎた。
「よし......、できた!」
ルークの手のひらには木彫りの小鳥が乗っていた。早速その木彫りを両手で包み込むように持って力を送り込んでみる。だが、何の反応も見せない。
「やっぱり、夢だったのか......?」
そう思い、小鳥を机の上に置いた瞬間。
ーーカタッ
「ん?」
ーーカタカタ、カタッ!
「ま、まさかーー」
次の瞬間木彫りの小鳥は身体を震わせて、ぴょんぴょん机の上を飛び跳ねた。
「マジか......。本当に、動いた......」
木彫りの鳥は机の上を歩き回り、ルークの目の前に来ると「ぴぃ!」と鳴いた。その後翼をはばたかせルークの肩に乗る。その動きは本物となんら違いがなかった。
ルークはしばらく口を開けたまま動けなかった。
(本当に、リーキアが言っていた通りだ。木で作った小鳥に、小鳥としての”役割”が宿っている!)
「折角だから名前を付けるか。お前は......、”ピールナ”でどうだ?」
「ぴぃ!」
ピールナは嬉しそうに身体をルークにすりよせる。不思議な感覚だった。木の堅さを持ちながら生き物としての柔らかさも備えている。今までに触れたことがない感触だった。
ルークの中に興奮とアイデアがグッと湧き上がる。作ってみたいものが次々とあふれてくる。
スコップ、バケツ、ランタン、斧、包丁に鍋。木材を削っては生活に使えそうなものを片っ端から作り出す。
そして役割、機能を与えられた道具は市販品より高性能だった。バケツは水漏れを起こさず冷たさも維持される。ランタンは燃料もなしに明かりを灯し、鍋は金属製のように熱を通しながら焦げ付きひとつ起こさない。スコップや、斧、包丁はもはや言うまでもないくらいだ。
火は数本の木材に”焚き火”としての役割を与えることで実際に着火しなくても確保できる。
加工用の小刀や護身用の木刀も作り上げる。
「ちょっと、素振りしてみるか」
ずっと木工作業をしていたルークはリフレッシュがてら木刀をもって外に出る。
本来の木刀は実戦に耐えられるほどの切れ味も耐久力もない。
ルークは固く絡まりあったツタの元へ向かう。木刀を構え、深呼吸をする。
元々は騎士を目指していた身、その姿はお手本通りだった。
木刀を頭上に振り上げ、力を込めて振り下ろす。
ーーバシュッ
手ごたえは驚くほどに軽く、しかしきれいに両断されていた。
ルークは呆然とし、その切れ味に手を震わせる。
剣の中でもかなり上質なものと変わらない。鍛冶屋にわざわざ頼み込んで作ってもらわないといけないレベルだ。
加護の力はルークが作り出したものを正確に読み取り、機能を反映してくれる。
「これは......、とんでもない力をもらってしまったのでは」
だが、この力こそが精霊リーキアの本気さを感じさせる。生半可な覚悟で渡せる力ではない。
ルークは本気で森に向き合う覚悟を決める。
作りたいものを一通り形にしたルークは汗を流すために泉に向かおうとした。外に出た瞬間、何かが違うように感じた。昨日よりわずかに空気が澄み、枯れかけた花がわずかに生気を取り戻している。
『あなたが何かを生み出すことが、森に命を吹き込むのです』
風に乗ってリーキアの声が響いた気がした。
「本当に、森を......」
やれる。俺が、この森を復活させられる。
ルークの心に前向きな、新たな目標が灯る。
そんな時ーー
ガサッガサッ
森の奥から何かが走ってくる音が聞こえる。
魔物か、動物か?一応木刀を構え、慎重に音がする方向を向く。
「おーい!誰かいるのかー!」
明るくよく通る声が響き渡る。
現れたのは、銀色の髪を揺らす、美しいエルフの少女だった。
朗らかな笑みを浮かべ、ルークに向かって歩いてくる。
「やっぱり人間だ!こんにちは!たまたま通りがかったこの森から、なんかいい気配を感じたから来てみたんだけど......。君が何かしてるのかな?」
「......え?」
ルークは棒立ちになった。
ルークの人生とこの森を大きく変える”新たな運命”ーー
それこそがこのエルフ、セルド・ルミナフォレスとの出会い。
だがルークがそれに気づくのはまだ先の話ーーー




