第19話:お手合わせしましょう
「ねえ隊長?この子ぶちのめしたい!いい?」
キャランの突然の発言に場が凍り付いた。
「え?」
ルークは思わず聞き返す。
「待て、落ち着けキャラン。まだ駄目だ」
パライドが制す。
まだ?まだって何なんだ?
ルークが混乱しているとセルドが目の前に立ちふさがる。
「意味が分からないけど、戦うなら相手になるよ?」
「おおおお、落ち着いてください......です。キャランさん、悪い癖が出てます......です」
そういわれてキャランはハッとした顔をする。
「ごめーんギガノ、本当に悪い癖だよねぇ......。ウチは強そうな相手を見つけるとついついぶちのめしてみたくなっちゃってぇ......」
「つまり、このルーク君は充分な相手になると?」
「なるなる、騎士向けの才能はないみたいだけど。でも基礎訓練はみっちり積んできたのがよーくわかるよ。そっちの筋肉ガールもかなり強い。あー!どっちでもいいからぶちのめさせて!」
「すまん、こうなったら勝敗が付くまでどうにもならないんだ。相手をしてもらえないか?」
パライドの申し訳なさそうな表情が半分、あきらめ顔が半分。たぶんよくあることなんだろうなと察するルーク。
「わかりました。これでも元は騎士を目指していたので。僕でよければ相手になります」
「いいなあ。オイラはそんなこといってもらえないのになあ......」
ギガノは離れたところでブツブツとつぶやいている。
「なんでもいいが外でやってくれ。店が壊れると困る」
ディルドレもあきらめ顔でぼやいている。本当にわりとよくあるのかもしれない。
「やったね~!ぶちのめしっ!ぶちのめしっ!」
外で既に剣を抜いて素振りしている。言動はふざけているようにみえるが、強さをひしひしと感じる。彼女が騎士団でどれほどの実力者かは知らないが、騎士団メンバーと戦えるのは光栄だとルークは思う。
「ルーク君、武器はどうするんだ?その木刀じゃロクに戦えないだろう?」
パライドに尋ねられるルーク。
「......いえ、これで戦ってみますよ。自分で作ったものですから」
そう言って木刀を抜き、構える。斧のほうが強いが様子見には剣がいいと判断した。
「なんでもいいよ!もういくよー!」
と言うがが早いか、2mの間合いを一瞬にして詰めてくるキャラン。初太刀はどうにか受け止めるルーク。一撃はたいして重くないが手数が多い。息をつく暇もないほどに連撃を浴びせてくるゆえに反撃する機会がない。
抜いたのが剣でよかった。斧だったら威力は申し分ないがこの速さに追い付かなくなる。
が、まずい、どんどん早くなるーーと思った時突如攻めの手が止まる。
「あー、疲れた。全然ぶちのめせないじゃん。アンタやるね。武器も壊れないんだ?木刀なのに?結構打ち合ったのに?なんかむかつくなぁ。ぶちのめさなきゃ気が済まないなー?逃げれると思うな?」
ブツブツとつぶやきながら、輝きが消えた目で睨みつけてくるキャラン。細身の剣、レイピアを抜いてくる。
まずい、さっきの速さで突きの攻撃が来たら避けられない。命の覚悟を決めたところで後ろから風圧が襲い掛かる。
セルドが目の前にいた。がっくりと崩れ落ちるキャラン。
「あはは、まるで狂犬だね。パライドさん、だっけ?もっとしつけしておいた方がいいよ?」
セルドが笑いながら言い放つ。何が起こった?
「いやぁ、申し訳ないね。”速度”の才能を持つキャランの連撃を耐える奴なんてあんまりいないからね。ましてやあの状態の彼女のあごに正確にこぶしを当てる奴も見たことないね」
へらへら笑いながら、こちらを興味深そうに観察している。
「それより、あっちの方がまずいことになる。気を付けてくれ」
パライドが指さす方を見ると、ギガノが怒りの形相でこちらを睨みつけている。
既にハルバードを二振りぶん回している。
「彼、ギガノはキャランの幼馴染みたいなものでね、キャランが傷つくと暴走するんだよね。ちなみに彼の才能は”二刀流”で見ての通り得物はハルバードだ。動きは遅いが破壊力はなかなかだね」
「お前らぁ......キャランを傷つけたなぁ......。許せないよなぁ......」
ドスドスと走りながらこっちに向かってくる。身長と武器が相まって迫力がすごい。
「ルーク、斧に持ち替えて!木刀はあたしに貸して!」
ルークは素早く木刀をセルドに投げ渡す。セルドは木刀を二刀流で構え、ルークは木斧を構える。
「ほう、ハルバード二刀流と二刀流&斧の対面とは面白いね」
あくまでも観察を楽しむようにパライドがつぶやく。
「あぁー!許せねぇ!」
やみくもにハルバードを振り回すギガノ。2mの長さの武器は当たったらただでは済まないだろう。
回避に専念して様子をうかがう。しばらく攻撃を避け続けるとセルドが叫ぶ。
「ん、見つけた!ルーク、アイツが両手で武器を振り下ろすときにあたしが注意を引くから、左側の武器を薙ぎ払って!」
「わ、わかった!」
ルークは集中してギガノの攻撃を観察する。薙ぎ払い、振り下ろし、時々突き。冷静でないためか大ぶりの攻撃が多い印象だ。そして狙った瞬間が来た。セルドがわざと隙を作り、両手振り下ろし攻撃を出させる。
「ほらほら、そんなんじゃあのキャランとかいう狂犬のお世話はできないんじゃない⁉」
「なんだとぉ!お前は三等分にしてやるぅ!」
来た、今だ。ルークは背後から左手側に向かい、振り下ろされる武器に合わせて木斧を振る。ギガノはとんでもない馬鹿力ではあったが、持ち手のすぐ上の部分から真横に薙ぎ払う。
狙い通り武器はギガノの手を離れ遠くにすっ飛んでいく。
「ああ?どうでもいい。オイラは強いぃ」
とはいうが、明らかに力が抜けたような動きになった。動作は緩やかで、力強さも感じられない。
最後はセルドが足払いして転ばせ、ルークが首元に斧を突き付ける。
「あぁ、ごめんよキャラン......」
そう呟いておとなしくなった。
「ふぅ、助かったよセルド。セルドがいなければどうなっていたか」
短い呼吸で息を整えるルーク。
「ルークのこと信じてるからね!ルークがパートナーじゃなければ自分でどうにかしなきゃって焦ってたかも―!」
笑いながらたいして息が乱れていないセルド。どこか戦い慣れている印象だ。
「二人とも、大丈夫!?」
ファムとフィルドがビーショップから駆け寄って声をかけてくる。
「あたしたちは大丈夫!ありがとね。さっきの子は?」
「あのキャランってやつは店内で寝かせてある。そのうち目を覚ますだろうよ」
「助かったよ、2人がいてくれて。あとで謝らないとな」
「いいや、アイツらが勝手にやったことだ。お前さんらが謝る必要なんかねーよ。なぁ!パライド!相変わらず教育が下手だな!」
フィルドがパライドに向かって叫ぶ。
「おお、やっぱりフィルドか!久しぶりじゃないか!どうしてこんなところに?」
「訳あって今はあの森で暮らしてるんだ。そんなことより、相変わらずの問題児だな」
「それは自分が一番自覚してるんだけどね。問題児だから問題児のお世話をさせられてるのさ」
「とりあえずこいつらに謝れ。迷惑かけられてんだからよ」
「そうだね、本当に申し訳なかった。お詫びに君たちの要望を僕の可能な範囲でかなえてあげたいと思う。ルーク君は騎士を目指していたと言っていたね。何か手伝えることはあると思うよ」
それは突然の申し出であり、好機であった。




