第1話:精霊との出会いと、加護
『来てくれたのですね、人間』
目の前の淡い、緑色の人型の光はこの俺、”カーウェン・ランドルーク”に話しかけてきた。
「あなたは、精霊、ですか?」
『ええ、私はリーキア。かつてこの森を司る存在でした』
「存在だった、か」
その言い方が気になった。
リーキアは寂しげな表情で言う。
『はい、今の私はこの泉と周辺の木々を護るだけで精一杯の有様です......。この森に人間が訪れたのも実に50年ぶりくらいでしょうか』
「そんなにも人が来ないのか......。この森はなんでこんなにも荒れ果てたんですか?」
『ある日から淀んだ魔力が流れ込むようになったことで人間が近づきにくくなってしまったこと。そして私を含め精霊という存在は人間との交流が断たれると次第に力を失ってしまうのです。』
なるほど、あの古い小屋はかつて交流があったときに使われていたものだろうか。
「それで、俺を呼んだ理由は?」
『率直に言います。この森を救ってください』
「森を救う?俺にできるのかな。木こりと木工作業くらいしかできることがないぞ?」
『それで充分です。いえ、だからこそあなたを呼んだのです』
真意を掴みかねている俺にリーキアは言葉を続ける。
『今この森に必要なものは、形を与える”人の手”です。あなたが持つ才能はこの森になくてはならないものです。あなたの力がこの森に再び活力を与えるのです。』
「俺の力が、この森を......」
にわかには信じがたい話だった。俺なんかにできるのかという気持ちがぬぐえない。
するとリーキアは俺の手を握ってきた。その瞬間温かい光とともに何かが流れ込んでくる。
『あなたに私から加護を与えます。この森を再生させるのに役立つことでしょう』
「加護、ですか」
『この加護は”あなたが作った木製のものに、機能や役割を与える”というものです』
「機能を与える......?」
『はい、木製の剣や斧は鉄製のものと変わらない切れ味を持つでしょう。椅子や寝具に柔らかさを与えることも可能です。そして木彫りの動物であればまるで本物のように動くでしょう』
「冗談だろ?そんなことができるわけ......」
『いいえ、冗談ではありません。私には、この森にはあなたの”手”が必要なのです。どうか、協力していただけないでしょうか?』
精霊の目はいたって真剣なものだった。俺の頭の中でぐるぐると感情が渦巻く。
(本当に俺にできるのか?森を救うなんて大それたことが。騎士になれなくてただ逃げ込んできただけなのに。でも......)
しばしの逡巡の後、ルークは口を開いた。
「わかった、俺にできるならやってみるよ」
精霊の表情がぱあっと明るくなった。
『本当ですか!?』
「うん。この森に来てまだ1日も経ってないけど、悪くないって思ってるから。ここで暮らしていくならできることはやってみたい」
『ありがとう、人間。あなたの決断がこの森の未来を変えることでしょう。そして、あなたに新たな運命の糸が見えます』
「運命の糸?」
『ええ、きっとあなたの助けになります』
するとリーキアの身体が薄くなっていく。
『そろそろ時間ですね。今の私では姿を現すことができるのは短時間だけ。ですがあなたのことはいつでも見守っています。最後に名前を教えてください』
「カーウェン・ランドルーク。みんなルークって呼ぶ」
「いい名前です。ではルーク、これからどうかよろしくお願いしますね」
そう言い残すとリーキアは姿を消した。そこに残るのは加護の温かみと森の気配。
「新しい、運命......」
それが何を示すのかはわからない。ルークはゆっくりと森を見渡す。枯れ木ばかりの死にかけの森。
本当に自分に再生させられるのかはわからない。しかし騎士として夢破れ、目標をなくしたばかりのルークにできた新たな目標。この森も自分自身も変わっていけるのか。ルークの心に静かに火が付いた。
「まずは、やれることをやってみるか。が、さすがに眠い」
周囲はすでに明るくなり始めているが、ルークは小屋に戻ってひと眠りすることにした。
起きたら加護を試してみよう。最初は何を作ろうか。そんなことを考えながら眠りに落ちていくーー
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