第16話:お風呂だって入れるもんね
木製小鳥のピールナから加護の力を奪えるのか、つまり置物に戻せるかの実験が始まった。
残酷かもしれないが、大事なことだ。悪用されたときの抑止力になるかもしれないから。
「ピールナ、いくぞ?」
ルークがピールナを手のひらに乗せる。初めて作った時とは逆に、力を吸い取る意識。しばらくするとピールナはピクリとも動かなくなった。
「動かない......、力を奪うことはできるようだな」
「直接触れる必要はあるみたいだけどね、ねぇルーク、元に戻せる?」
「そうだな、もう一つ試すことがある。”お前はピールナだ”」
そういってルークは再度力を送る。カタカタと動き出す木製の小鳥。ルークは声をかける。
「お前は、ピールナ、だよな?」
「ぴぃ!ぴぃ!」
うなずくように首を縦に振る。間違いなくさっきまでのピールナだ。
「ルークさん、どういうこと?」
「なんとなくだけど、こいつは今やピールナという役割になっているって思ってさ。それで役割を与えなおしたら上手くいったよ」
「ほほう、これなら街に連れて行ってもいいんじゃないか?街に入る時はただの木彫りってことで何の問題もない」
「ついでにディルドレさんに加護の力を実際に見せるいい機会だよねー!」
「あのおっさんは口が堅そうだから大丈夫だろう。ルーク、卸すものはあるのか?」
「前に街に行ってから数日だしそんなに準備できてないな。包丁とランプくらいか?」
「樽とか一個だけ持って行ってみたらどうかしら?簡単に作れるものじゃないけど、あれはすごいわ!」
「ありだね!お酒とかで需要はいくらでもありそうだし、絶対気に入ってくれるよ!」
「もう少し違うものも作りたいな。フィルド、何か考えはあるか?」
「おう、頼まれてたからな!一番簡単で実現しやすそうなのは......松明なんてどうだ?ランプと同じなら永遠に燃える松明が実現しそうじゃないか?」
「いいね!少なくとも効率良い松明はできるだろうし、もし無限じゃなくても燃料の樹脂もここならいくらでも取れるし!」
「そうだな、手間もかからないし10本くらい作っていくか。出発は明日だし、松明はすぐできる。木の在庫はたくさんあるし。樽をあと二つほど作って一つに樹脂を詰めていこう」
「勝手に転がってついてきてくれるもんね!逆にわら以外で欲しいものないかな?せっかく行くなら調達したいよね」
「私は調味料が欲しいわねー、できればまとめ買いで。フィルドは?」
「俺は欲しいものはないが......、少し用足しをさせてもらえるか?」
「わかった!じゃあ明日に向けていろいろ準備しなくちゃね!あたしはちょっと狩りに行ってくる!ルークは樽作りお願いね!」
「おう。一回作ったものなら効率がグッと上がるからすぐにできる」
「じゃあ私とフィルドは夕食を作りながら、樽が完成したら樹脂を樽に詰めようかしらね」
「そうだな、それがいい。よし、始めよう!」
1、2時間ほど各々が作業を行う。セルドは狩りから帰ってきてから風呂場に水を運んでいるようだ。そういえば昨日はみんな新しく作った浴槽で興奮していたな。
ーーー昨日の夜、夕食後ーーー
セルドとファムは食器を洗っている。ルークとフィルドはくつろいでいる。
「なあルーク、水を溜めた浴槽はどうやって温めるんだ?まさか勝手に温かくなるわけじゃないだろう?」
「あー、ちょっと様子を見てきてくれないか?一応あれには浴槽として役割を与えているんだが、どう作用しているかわからないんだ」
「わかった、みてくる」
フィルドは風呂場に行って、そして叫ぶ。
「温かい!なんでだ!」
毎度律儀に反応してくれるフィルドにクスっとするルーク。それはそうと温かいなら大成功だが。
ルークも風呂場に向かってみる。確かに湯気が立ち上っている。触ってみても温かい。
「なになにー?どうしたのー?」
セルドがこちらに顔を出す。
「あら、これはお湯?お風呂かしら!」
ファムも気づき、興奮したように言う。
「へー、お風呂なんてものまで作れちゃうんだ!ルークすごいね!」
「本当にうまくいくとは思わなかったがな。浴槽としての役割だからって勝手にお湯になるとか。」
「俺はもうお前さんが何を作っても驚かんよ。いや、驚くとは思うが信じるよ」
「そうね、ルークさんなら何を作っても不思議じゃないわ」
「ありがとう。お風呂は入る順番とか決めた方がいいか?」
「もし希望が出せるなら私は最後がいいわ。お風呂好きだから公衆浴場でもかなり長く入っちゃうのよね」
ファムが少し照れたように言う。
「逆にあたしは湯船につかるのあんまり好きじゃないから、一番最初に身体を洗ってもいいかな?泉でもいいんだけど、せっかくなら使いたいな」
「俺は異論ないが、ルークはどうだ?」
「いいと思う。セルドには狩りを任せてるし、ファムには家事全般やってもらってるし、それくらいは好きにしてもらいたい。俺とフィルドはその間で適当に入るよ」
「じゃあ決まり!残り湯ってどうしたらいいのかなー?」
「洗濯に使えないかしら?この森なら灰汁も簡単に調達できるし、私石鹸も手作りできるの」
「石鹸!?すごいね、なかなか高価じゃない?エルフたちは魔法で済ませちゃってたなー」
「そういえばセルドって魔法をあんまり使わないよな?」
ルークはふと思ったことをいう。
「そりゃこういう暮らしは魔法を使わないほうが楽しいでしょ?あくまで補助的に使うだけで充分!」
「それはそうだ、精霊の加護はもちろん面白いから使うべきだけどな?」
フィルドがセルドに同意する。その通りだなとルークも思う。
「ただ、まだ洗濯用の道具は何もないんだよな。いつか作るよ。大きな桶と長い物干し竿があるといいよな?あとはこすり洗い用の板か?」
「あとは叩く用の棒があると嬉しいかしら。ルークさんの都合でゆっくりでいいわよ。実は家から桶持ってきたの」
「洗濯は重労働だから、数日ごとに俺とファムでやるよ。ルークには木工作業に集中してもらいたいしな」
「あたしは最初にお風呂入る代わりに、お風呂に水を運んで入れる係やるね!筋トレも兼ねて!」
「みんなありがとう。俺も生活が便利になるものをできるだけ作るようにするよ。それがこの森のためにもなるしな」
その後は全員がお風呂を堪能していた。懸命にお湯を沸かす必要がなく、ただ水を入れるだけで勝手に適温になるお風呂なんて贅沢の極みだろうか。などと考えながらルークは湯船を満喫した。
ーーー現在へ戻るーーー
今日もセルドが最初にお風呂を済ませている。一番身体を動かすからな。意外ときれい好きらしい。
逆にファムは本当にお風呂が好きらしくて、昨日は2時間ほどは入っていたか?どれだけ時間が経ってもぬるくならないってはしゃいでいたな。
さて、明日は街に行くことになった。少なくとも包丁とランプを卸せば調味料くらいは買えるだろう。
樽も作り終えたし、松明の加工も終わった。もう少し何か作れないか、と考えているとフィルドが声をかけてくる。
「なあルーク、お前さんが街で適性を見てもらった時に紙をもらったか?」
「ああ、騎士になれないからどうでもいいって古い小屋に投げ捨ててあるが」
「そうか。ちょっと見てもいいか?」
「ああ、特に見られて困るもんでもないしな。」
「そうか、すまんな」
そういってフィルドは小屋に向かう。フィルドは小屋にあった紙を見て呟く。
「......やっぱりな」




