第10話:新たな出会い
ーー転機が訪れたのは辺りが薄暗くなりそろそろ店をたたむかという頃だった。
「ほう、木工品の店か。そういえば椅子を新調したいと思っていたところだ」
そういいながら一人の男が二人の護衛らしきお供を連れて近づいてきた。細身だがひょろっとしているわけではない。あごひげを蓄えている。
「試してもいいかね?」
「どうぞどうぞ!」
セルドが男の腰のほうまで椅子を持っていく。男が椅子に腰かけた瞬間、顔色がみるみる変わっていく。
「な、なんだこの椅子は!?おい、お前たちも座ってみろ!」
お供の二人もそれぞれ交互に腰かけるが、同様に驚愕の表情を浮かべる。
「おい、なんなんだこの椅子は!なんでただの木の椅子なのに座面が柔らかいんだ!」
大声で話しかけてくるが怒っているわけではない、興奮して大声になっているようだ。
「まあまあ、落ち着いてくださいな。どうです?この椅子は彼にだけしか作れない、傑作なんですよ!」
セルドがどこか誇らしげにアピールする。
「ああ、間違いなく傑作だろうな......待て?本当に手作りなのか?これを?」
「ええ!量産はできませんし作り方は教えられませんが、胸を張って手作りだと言えます!」
セルドは偽りのない言葉を目の前の男に言い放つ。すると遠くからこちらを呼ぶ声が聞こえる。
「おーい!よかった、まだいた!」
さっき箱とランプを買っていってくれた若い夫婦だ。
「おいおい、これはいったい何なんだ!?ありえねえよマジで!」
若い男がランプを持って興奮しながらルークに語りかけてくる。
「なにかお気に召さないところがありましたか?」
ルークはおそるおそる返答する。
「いやいや、逆だよ!このランプ、家の飾りとしてちょうどいいかなって買ったけど燃料も入れてないのに暗くなったら光るんだもん!」
確かにそのランプは赤々と灯っている。
「こっちの箱もすごいの!」
と若い女性が箱を開く。きれいに整理された小物が並んでいる。
「これ、とりあえずで適当に放り込んだだけなのに次に箱を開けたらこんな風にきれいに並んでたの!」
と言って実演する。確かに乱雑に放り込んだあと蓋を開け閉めすると一瞬できれいに整理されている。
最初に声をかけてきたあごひげの男は男女の話を聞いて驚愕の表情を浮かべている。二人のお供も同じ反応だ。
若い男女は今度は興奮気味にセルドに商品の良さと感謝を伝えている。やがて最初の男が冷静さを取り戻して語りかけてくる。
「なあ、お前たち。商売の話をしないか?」
その場の空気がスッと静かになる。
「商売、ですか?」
ルークは警戒しながら男に向き直る。
「まずは自己紹介といこう。私はディルトレ、ディルトレ・リッチだ。この街で一番大きい”ビーショップ”というところで商売をしている。」
「俺はカーウェン・ランドルーク。こっちは......」
「セルドです!ところで商売って具体的には?」
「ああ、この木工品は金になる。椅子、箱、ランプ。この3つだけでもう十分商機を見出せる。そこの包丁も気になるところだ。ぐずぐずしていると他の商人に取られてしまう!どうだ?悪いようにはしない、独占契約を結ばないか?」
「少し相談させてもらえますか?」
ディルトレはうなずく。ルークとセルドは顔を向かい合わせる。少し言葉を交わして互いにうなずく。
「ありがたいお言葉ですが、すべて手作りなので卸せる量は多くありません。それでも良ければ」
「構わない、少数でも価値がある。それに手作りなのも味があって喜ばれる。とりあえずここにある商品はすべて買い取ろう。いくらだ?」
思わぬ申し出だ。だが罠でも構わない。そう腹をくくったルークはディルトレに告げる。
「ありがとうございます。実は訳あって今”死んだ森”に暮らしています。なのでお金より種や肥料をいただけると嬉しいのですが」
死んだ森に暮らしていることを隠さずに伝える。変わり者と思われても構わない。大事なのは自分の生活だ。
「はっはっは、そうかそうか。いいだろう!おい、店から種と肥料と荷車を急いでもってこい!」
ディルトレはお供の男たちに命令する。男たちは慌てて駆け出す。
「いいのですか?こんな得体のしれない......」
「構わん、腕が確かならあとは気にしない性分だ。お前たちは人柄もいいしな」
「恐れ入ります、ではもう一つお願いがあるのですが」
「ん?なんだ?」
「農業に詳しい者を紹介していただけたらと思うのですが......」
「ふむ、農業に詳しい者か......」
と話していると、先ほどの若い男女が声をかけてきた。
「その話、俺たちに乗らせてくれよ!」
「私たち、農業だったら力になれるわ!」




