プロローグ:夢破れた男の、始まり
騎士になりたかった。きっかけは思い出せないけど、子供のころからそう考えていた。それだけを目標に生きてきた。騎士団に入って出世すれば親孝行にもなると思った。
早朝の鍛錬、読み書きの勉強。剣術も馬術も礼儀作法もすべてこなした。辛くはなかった。
そして20歳になった日、騎士になるべく馬車で3時間かけて両親と共に城下町までやってきた。
そして、俺の人生は静かに終わったーー。
「君の適正は木こりと木工だね。騎士には向かないと思うよ」
淡々とした声で残酷な現実を告げられる。嘘でも励ましでもあれば、まだ救いがあったかもしれない。
いや、あったが聞こえなかっただけかもしれない。才能検査官は気の毒そうに眉をひそめるだけだった。
一緒に来た家族の顔は見れなかった。きっと失望していただろう。そう思ったから。
俺はその場を走り去り、街を離れていた。気づいたときには誰も近寄らないであろう森に来ていた。
枯れ木だらけの”死んだ森”だった。失うものがない俺はそこでひとり住むことにした。
幸い小さな小屋と古びた斧やのこぎりを見つけた俺はそこを仮の拠点とし、斧をもって周囲を散策することにした。小屋のすぐ近くにはキレイであろう泉があり、目の前にはまだ生きている林がある。
ここに新たな家を建てるのもアリだな、と考えた俺は林の木を切ることにした。
確かに木こりの適正はあったらしい。
木を見れば健康状態がわかるし、触ればその木材をどう加工すれば良いかすらわかる。
死んだ森だと思ったが、全部の木が枯れ果てているわけではなかったのは幸いだ。
斧の振り方、木の切り倒し方も初めてなのに昔から知っているかのように手になじむ。
騎士を目指して鍛えていたから力はそれなりにあるが、たぶん力任せに斧を振ってもこう上手くはいかないだろう。そんなことを考えながら大小さまざまな木を丸太に変えていく。
この丸太を組み合わせて丸太小屋を作ろう、薪や木彫りの小物を作って売りに行くのもいい。
実がなっている木もあったし、しばらくは食料も大丈夫だろう。
「悪くない......な」
勢いで飛び出して始めたひとり暮らしだったが、なんだか解放された気分だった。
寂しさがないわけではないが、初めての一人暮らしにどこかわくわくしている自分がいた。
そんなことを思いながら古い小屋にあったボロ布にくるまって寝ることにした。
ーーその夜、何かの気配を感じて目を覚ました。
人間や獣ではない、なにかの気配。外に顔を出してみる。
「誰か、いるのか?」
返事はない。だが確かに”声”のようなものが聞こえた。
ーーたすけて。
ーーこの森を、生き返らせて。
夢かもしれない。幻聴かもしれない。
それでも何かに導かれるように泉の方に歩みを進める。
そこにいたのは、森の精霊だった。
ーーこうして、夢破れた俺、”カーウェン・ランドルーク”の新たな生活が始まった。




