それ、関係あります?
連載中の話に行き詰まって数日間が空いてしまったので、リハビリがてらさくっと書いた話です。
n番煎じのよくある婚約破棄の一コマ。
「ミネリス・クラシュタッド! 私は貴様との婚約を――」
以下はテンプレ的な展開なので割愛するとして。
長ったらしく回りくどい言い訳の末の相手の言い分は、どうやらこちらが構ってくれなかったことが原因らしく。
「……それ、関係あります?」
といった感想しか出てこなかった。
こちらの返答に最初は理解が及ばなかったのか、ぽかんとした顔をしておられました。あら嫌だ、頭の回転まで遅くなってしまわれて。
恋をすると知能が下がるなんて研究結果が出たとどこぞの研究家が発表していたのを聞いたことがあるけれど、どうやら本当のようです。
残念です、婚約してから殿下が下位貴族の御令嬢に夢中になるまでは比較的ちゃんとしていたのだけれど。
「ミネリス、貴様は本当に酷い女だな! 貴様が望んで婚約を結んだ相手がこう言っているのだぞ。にも関わらずそのような――」
「いえ、私の望んだ婚約ではありません」
「…………何?」
「ですから、私の望んだ婚約ではありません。陛下が我が家クラシュタッド公爵家に、殿下を私の婚約者にしてくれと頭を下げたから結ばれた婚約です。中立派の我が家が王家と縁付いても何の利にもなりませんし、だからこそ陛下は殿下が苦労しないようにと次期クラシュタッド公爵の私の伴侶にと頼み込んできたのです」
「次期、公爵? 私が次期公爵ではないのか?」
「一体何を仰ってるのですか? クラシュタッド公爵家の血を引くのは私ですし、我が国は女でも家督を継げるのですから私が次期公爵ですよ?」
またぽかんとした顔をされているわ。まさか本気で自分が次期公爵だと思っていたの? 今まで我が領について何も学ばず、領地内を視察したこともないのに?
「それとも、実は王家が我が公爵家を乗っ取ろうと殿下を婚約者に送り込んだのですか? でしたら早急に婚約の見直しをしなければなりませんね、申し訳ございませんが所用の為中座をお許し頂きたく思います」
「クラシュタッド嬢、愚息が大変失礼なことをした。言い訳になってしまうが王家はそのような企みなど抱いていない、どうか誤解しないで頂きたい」
あら、陛下がいらっしゃいました。
恐らく殿下の側近が慌てて伝えに行ったのでしょう。本当、側近の方は優秀なのに殿下の尻拭いばかりで見ているこちらが同情します。
「ルドルフ、お前には本当に失望したぞ。余は何度も言ったはずだ、この婚約は王家からクラシュタッド公爵家に頼んで結んでもらったものだと。お前は次期クラシュタッド公爵になるミネリス嬢の伴侶になるのであって、お前が当主になるわけではないとな」
「……では、私が公爵ではないのでしたら卒業後はどうなるのですか?」
「だから、クラシュタッド公爵の伴侶だと言っているだろう。まあ、それも無くなるのだがな」
「何故ですか!?」
「先程婚約破棄を叫んだお前がそれを言うのか?」
「………………あ」
あらあら、今になって顔を青褪めさせて。婚約を結んだ時から不遜な態度だとは思っていたけれど、まさか自分が次期公爵になると思っていたなんて。
王族であることで御自分を過大評価しているのかしら、臣籍降下ではなく王室離脱のはずだけれど……なんて不思議に思っていたらそういうことだったのですね。
「み、ミネリス……」
こちらを縋ったように見てくるけれど、そんな顔をされましても。
言ってしまえば伴侶は誰でも良かったし、それなら少しは関係を良くしようと努めていたこちらを袖にしたのはそちらなのですが。
「次期当主となるために色々学んでいて忙しかったのは認めます。殿下は私が相手をしてくれなかったことに不満を抱いていたようですが、時間の合間に殿下に手紙をだしたり節目には贈り物をしたりお茶の時間等も設けておりましたよ。殿下は御返事も下さらないし、いつもいらっしゃいませんでしたけれど」
「ルドルフ、まさかお前は婚約者としての務めすら果たしていなかったのか?」
「いえ、あの、その……」
途端に口籠りましたね。ですが仕方ありません、事実ですし。
ですから殿下、困ったようにこちらを見られてもどうすることも出来ません。
「殿下、私はあくまで殿下の妻となるだけで母になるわけではないのです。殿下は私に息子が母に求めるような愛情を望んでおいでのようですが、産んでもいない息子の面倒を見るのは御遠慮願いたいです」
とは言っても、王妃様はそんな愛情を殿下に向けたことはなかったはずですけれど。ああほら、王妃様の殿下を見る眼差しがとても凍っていらっしゃる。
それでも王妃様は王妃様なりに殿下を愛していたと思いますけどね。厳しく接したのは殿下の将来のため。それでも褒める所はしっかり褒めて下さったのに、それも忘れてしまったのでしょうか。
「マギラーテ様、貴女もこれから大変でしょうがどうぞ頑張って下さいね」
「えっ、私ですか?」
成り行きを見守っていた殿下の真実の恋のお相手、マギラーテ様はこちらから話を振られて驚いたようです。まあそうでしょうね、虐めたなんて冤罪をかけた相手からこんな風に話しかけられたら。
でも、声をかけずにはいられなかったのです。
「だってそうでしょう? 恐らく殿下はマギラーテ男爵家との婚約を陛下から命じられます、私との婚約破棄を叫んだのですから。そして恐らく貴女が今後子どもを産んで育児にかかりきりになると、今回のように赤ちゃん返りをして拗ねて他の女性に走ると思うけれど二人の愛で乗り越えて下さいね」
「え、あ……」
今更になって彼女も気づいたのでしょう、殿下がまた同じことをする可能性があることに。
こちらがやるべきことをして忙しくしているだけで拗ねて他の異性に走ったのですもの、一度あることは二度あると言いますし。
子どもが生まれてそちらにかかりきりになると、何故か子どもに嫉妬して赤ちゃん返りをする殿方が多いと聞いたことがあります。本来なら父親としての役割を全うするべきだと思うのですけれど。
「あの、その、私……」
まあ、彼女も困ったようにこちらを見ていますね。そんな目をされてもこちらが困るのですけれど。
さて、そろそろこの見世物も終幕。邪魔者は退場するとしましょう。
「陛下、私は父に事の次第を伝えなければなりません。御前失礼致します」
「ああ、クラシュタッド嬢。こちらからも改めて使者をそちらに送ろう」
「ミネリス、待ってくれ!」
「ミネリス様、どうか待って下さい!」
二人から慌てたように呼び止められたけれど、振り返らずにホールを出ました。その後のことはこちらには関係ありませんので。
それでは皆様、どうぞご機嫌よう。楽しい見世物で御座いました。
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