CLAP YOUR HANDS
5歳の私は世界初のプロ泥団子職人をめざす。
10歳の私は第三の目と右手に闇の力を封印されていたことに気付き、悪の組織と戦い世界を救うことに人生を費やすことを決める
そして
15歳の私はロックスターになるときめた
「蓮井瑠唯、将来はロックスターになります。よろしく」
未来のロックスターは、クールに高校初日の自己紹介をこなす。
....っふ、かっこよすぎたな。
「廣谷隆司、将来のロックスターのファンです。よろしく」
「..............んん??」
休み時間
「えっと、廣谷くん?」
「えっ、ちょっ、まってまってまって!?」
「え、なになに!?」
「推しに認知されてる...!!」
「激重ファンの反応やめて?これ、ファーストコンタクトよ?」
「あ、声良すぎ、ビジュもいい、存在?魂?が尊い、これが神か」
「あかん、秒で神様に成り上がってしまった」
「あの!どこでお賽銭あげられますか?」
「生憎、賽銭箱の用意はしておりませんで」
「そんな!!!!!」
「クソデカボイス!!!」
「あ、すいません。のどつぶしますね」
「ストーップ!!!!」
「あ、はい。やめます」
「え、なに?感情のスイッチオンオフ二択なの?」
「舞い上がっております」
「だろうね!」
「流石にちょっと落ち着きますね。ひっひっふー」
「なんかリズム違うくない?」
「落ち着きました」
「効果あったわ。いや、どうでもいいか。えーと、なんのために話かけたっけ?」
「ファンサでは?」
「断じて違う。あ、そうそう、なんで私のファンなの?おふざけ?」
「マジです。のどつぶします?」
「やめて?のど潰すことをファンの証としないで」
「あ、一応言っておきますけど、ちゃんと蓮井さんが歌っているところをみてファンになりました。」
「ライブとかしてないよ?特に配信もしたことないし。」
「あ、そうなんですね」
「……………じゃあ、どこで聴いたの!?」
「......秘密です」
「こわいよー!ここまでの流れ全てがこわいよー!」
「まぁまぁ」
「自分より濃い人間がクラスメイトにいるなんて想定外だよ!」
「いや、そんなそんな」
「だまらっしゃい!ニンニクマシマシヤサイマシマシアブラコイメ特盛野郎が!」
「え、呪文?」
「否定はできない。いや、そこじゃないんよ」
「えーと、とりあえず信じてほしいのは、蓮井さんのファンなこと。おふざけとか一切なしで。CDでたら、鑑賞用、布教用、保存用を買うつもりでいるレベル」
「私の歌をどこで聴いたかは、秘密なのに?」
「秘密なのに」
「えー、あー、どうしたもんかな、これ」
「蓮井さん蓮井さん!」
「なにさ?」
「将来さ、学生時代の伝説とか聴かれて、初日でファンを獲得!!とかかっこ良くない?」
「採用!!!よろしく、ファン1号!!」
こうして、ファンが出来た。
激やばファンな廣谷くんであるが、なぜかコミュ力かつよつよでクラスの人気者である。
言ってはあれだが、あのスタートでよくその立ち位置を確保できたな。
というか、私にも普通に接してくれるし、クラスメイトの器がでかすぎないか?
いや、私のことより廣谷君だ。
さっきもいったが、クラスの人気者の彼はいつの間にかファンクラブを設立している。
そう、ろくに人前で歌っていない私のだ。
つまり、私はいま実績のないままファンクラブを設立しているロックスターなのだ
「そこんところどう思います?主犯の廣谷君?」
「蓮井さんの素晴らしさ伝わって何よりです」
「教祖っぽくなってる!」
「もうすぐ会員ナンバーも三桁にいきますよ!」
「いやぁーー!!着実に広まってるぅ!」
「二、三年生への布教はまだまだ出来ておらず、申し訳ないです。」
「むしろ、二、三年への布教予定があることに戦々恐々としているよ」
「ははは....さて、そもそもは実績がないのにファンがいるのが気になるというお話でしたよね?」
「え、まぁ、諸々複雑な感情はあるけどそうだね」
「じゃあ、簡単です。歌いましょう」
「へ?」
「歌ですよ、歌。歌ってしまえば解決でしょう?」
「え、あー、いや、そうなんだけど」
「?なにか問題が?」
「ハードルが上がりまくってんの!!誰かさんのせいで!」
「なっ!!蓮井さんを困らせるとはけしからんやつですね!どこのどいつですか!」
「あんたじゃい!!」
「いたい!....いや、すいません。溢れんばかりの気持ちと学年上位の学力から繰り出される語彙力によって起きたことで、わざとではないんです。」
「いや、ごめん。ちょっと八つ当たり入ってた。ロックスターになるんだから、これぐらいのプレッシャーいつかくるよね」
「ぴろん!」
「なんの音!?」
「ファンポイントが貯まりました!」
「まだ貯まる余地あったの!?」
「上限ないので」
「恐すぎない?」
「まぁ、ファンクラブといってもみんな私に付き合ってくれてる状態なので、気負わなくても大丈夫ですよ」
「....廣谷君はどうなの?」
「私ですか?」
「私の歌、聴きたい?」
「それはもちろん」
「...んー、わかった!文化祭!」
「文化祭?」
「秋にある文化祭まで待って!それまでに準備を整える!なんなら、曲作ってやんよ!」
「え!曲!!」
「あ、ちょ、曲作るは調子に乗ったかも...」
「今すぐファンクラブで共有しなければ!」
「聞いて!?曲の件は共有しないでね!ね!」
こうして、人生初ライブが決まった
そして、曲作りも始まった...
くそぉ、前言撤回できなかった....!!
まぁ、あんなに嬉しそうな顔をされたら仕方がない
それに無茶をしてこそのロックスターというものだ。
そんなこんなで、曲を作りつつ慌ただしく、私の高校生活は過ぎていった
「蓮井さん!こんなのどうですか!?」
「謎のポーズで現れて、いきなり何の話よ!?」
「ロックスターたるもの特徴が必要だとお悩みと聞きまして、たとえばライブの最後の曲の前にこのポーズを伝統としては!それに合わせて、我々ファンもコールしますよ!」
「やだよ!特徴的すぎて気持ち悪いまであるよ!」
ノリのよい無駄にスペック高いクラスメイト達との騒がしく楽しい日々。
「廣谷君!?なにその一糸乱れぬオタ芸は!?」
「いえ、やはり、ファンたるものオタ芸の一つや二つ嗜むべきかと」
「廣谷君だけなら分かるけど!なんでクラスメイトも同じ練度!?」
「ええと、彼らは会員ナンバー、一桁の精鋭ですから?」
「そんなキョトン顔しないで!?」
ロックスターの青春として語るには、些か平凡だが、蓮井瑠唯としては、満点の日々だった。
言葉にするのは癪だから、本人には決していわないけど、それはきっと彼のおかげだ
そんな当たり前のように続くと思っていた日々は、ある日突然なくなった。
夏休みを開けたその日、担任はこう言ったのだ。
「廣谷くんですが、一身上の都合によりしばらく休学します」
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5歳の俺は、入院を繰り返していた
10歳の俺は、生まれた意味を考えていた
15歳の俺は、命の使い方をきめた
俺は、生まれつき体が強くなかった。
一時期は安定していたが、最近また調子を悪くなった
治療法はあるにはあるが、成功率は宝くじの一等を引くようなレベルらしい
自分の命の長さを確認したとき、残りを何に使おうと考えた。
対して長くない人生、これだという、答えが出るわけでもなく、虚しく思考は空回りする
答えのでないまま、治療のために立ちよった町をぶらぶらとしていると、ある公園にたどり着いた。
そこでは、少女がギターを演奏していた。
お世辞にも上手とはいえないけれど、丁寧に丁寧に上手くなろうとしていることが伝わる演奏だった。
だからといって、声をかけるわけでもなくその日は帰った
それから、なんとなくその光景が忘れられず、その公園に足を運ぶようになった。
.........というか、通院の為のバス停の目の前だった
その少女は、あまり器用とは言えず、失敗ばかり。
でも、いつも楽しそうに演奏をしていた。
あと、なんかいつも誰かに絡まれていた。
遊びにきていた子供
散歩にきていた老夫婦
犬の散歩途中の学生
赤子連れの主婦
馬鹿馬鹿しくて、騒々しくて、
思わず笑顔が溢れるような、幸せに満ちた空間
その中心で、彼女は笑ったり、怒ったり、悲しんだり、やっぱり、笑ったり。
なんとなく、主人公という言葉が似合う人だと思った。
ある日、公園で見慣れない子供が一人で泣いていた。
周りを見回すが、親らしき姿は見えず、とりあえず声をかけようかと思っていると彼女が現れた。
「え、なになに、どうしたの?あー、お兄ちゃんと遊びに来てたけどはぐれちゃった?
へい、お子さまども、この子に見覚えある?
ない?じゃあ、引っ越してきた子かな。
んー、しゃあない。とりあえず、ここで一緒に待っとくか。
.......うぇーい、元気よく泣き出したな。
あ、通りすがりの失恋中の兄貴!ちょっとわんわん貸して!アニマルセラピー試そう!
いたっ、ごめんて。10連敗の兄貴。この可愛そうな幼子に偉大なるお犬様の魅力でメロメロにしてやってくだせぇ。
お、ちょっと落ち着いた。流石、お犬様。今度ジャーキーあげる。
あ、おじじとおばばもきた。この子見覚えある?あ、やっぱ最近越してきた感じ?
連絡先とかわかる?あー、流石にかぁ。
って、ちょうど良いとこに、ママさんきた!この子みたことある?ご近所さん?連絡先分かったりする?お!やった!お願いしても良い?
ありがとう!!」
小さな迷子にとって、ひとりぼっちは不安で仕方がなかっただろう。
でも、いま、楽しそうに笑っている。
迷子の子供をみんなで助けた
ありふれているといえば、そうなのかもしれない。
それでも、その光景から目を離すことが出来なかった
「うっし!それじゃあ、待ってる間に未来のロックスターの歌を聞かせてやろう!」
「お子さまども!大いに騒げ!
失恋兄貴!盛り上げよろしく!
おじじとおばばは、簡単に足でリズムとって!
ママさんとベビーは体揺らして!
そんで、迷子の君!目一杯笑ってけ!
そんじゃ、一曲目!....」
きっと、この時だ思う。
この瞬間、
俺は、廣谷隆司は蓮井瑠唯のファンになったんだ。
.................
.......
....
「ふぁー、懐かしい夢見たな...」
賑かな学校と違う静かな病室で、思わず言葉が漏れる
休学理由は、単純。
病気の悪化。それだけの話である。
まぁ、悪いことだけでもなく、新しい治療法が見つかったらしく、手術すれば助かるかも?しれない?多分?きっと?だったらいいな?ぐらいの希望はあるらしい
ただで死んでやるのもバカらしいので、抗ってみようと思った。
そっちの方が、ロックでかっこよくて君のファンとして相応しいと思うから
「ただ、文化祭は厳しいよなぁ」
手術の日程が微妙過ぎる。
予定通りなら手術が終わってるけど
外出許可降りないよなぁ……
「というか、緊急入院だったからろくに説明出来ないままだし………気まずいなぁ」
メッセージは送ってるけど、反応ないし……
「あんな騒がしいクラスLINEが静寂に満ちてるの怖過い。なんか、心がきゅってなる」
ぴこん
「噂をすればなんとやらすぎる。ええと……」
ブンカサイ、コイ
「なんで片仮名?電報スタイル?」
ハヤク、コイ
カイチョ、ハヤク
ナオセ、バカ
テスト、ヤバイ
アカテン、コワイ
ヒミツ、バカ
ベンキョ、オシエテ
ロックスター、サミシイ
サミシクネェヨ
「……………ははは」
一気に騒がしくなるクラスLINEに思わず笑ってしまった
「元気出たなぁ」
とりあえず、返信しとこう
カナラズ、モドル
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いよいよ、本場かぁ
今日を迎えるまで、いろいろあったなぁ…
いかんいかん、ロックスターにあるまじき、遠い目をしてしまった
「さてと、そんじゃあ、ロックスターの記念すべき初ライブ!気合いをいれていきますか!」
舞台にあがる
視線、視線、視線
………おぉ、思ってたより緊張する!?
深呼吸深呼吸
見渡すと、うまい棒装備したクラスメイトに、近所のジジババ、ちびっ子、20連敗兄貴
うん、ホームグラウンドすぎる
………なぜうまい棒を装備しているクラスメイトよ?
あ、サイリウム代わりね
……………はは、あー、なんか力抜けたな
「えー、どもども、蓮井瑠唯です。
初めましてがほとんどかと思ったんですが、意外と知っている顔も多くて、びっくりしてます。
一部、うまい棒装備している謎の軍団がおりますが、危険はないのでご安心ください。盛り上げたい一心で、なぜかうまい棒を装備した愛すべき馬鹿の集まりです。
おい、キレッキレのオタ芸をするな!
私より目立ってる!!
ったく、じゃあ、早速一曲目…………ん?」
機材トラブル!?時間を稼げ?
無茶振りするなぁ!?
「あー、一曲目と思いましたが、時間が余ってるてことでね、ちょっとだけ自分語りさせてもらいましょう。
…………………私には、夢があります。
ロックスターになることです。
ロックスターになりたいと思ったのは、
人に囲まれてたからです。
私、寂しがり屋なもんで、
人と繋がって生きていきたくて
そんな安直な理由で、ロックスター目指してます。
そんな私が目指すロックスターは、
演奏が上手な人です
歌が上手な人です
そして、
顔を知らない誰かを
初めましての誰かを
笑顔に出来る人です
ということで、まずは初めましての貴方達を笑顔にするために頑張ろうと思います。
あ、もちろん、初めまして以外も笑わしてやるからな!むしろ、笑え!盛り上げろ!そのためのうまい棒だろ!」
ヤバい、とっさに言わなくていいこと言った気がする!?
早く始めたい!………なおった!?よし
「そんじゃあ、いきます!一曲目!!」
…………………………………………
………………………
……………
はぁはぁはぁ
ははは、疲っかれた~
あー、でも楽しいなぁ!おい!
ライブも終盤!
技術の足りなさが悔しすぎるが、
それは置いといて!
概ね、トラブルもなく順調!!
順調だけど……………
何度も何度も確認しているのに、諦め悪く観客を見回してしまう
いるはずのない彼を探してしまう
「いやぁ、楽しすぎてずっと続けてたい所ですが、ラスト一曲になります。
ちなみに、作詞作曲私というね、緊張度MAXのラストですね。
あー、喉カラッカラです。ちょいとお水を失礼」
普通に考えて来れる筈がないんだけど、【カナラズ、モドル】らしいからなぁ
期待してるぜ、ファン1号
いつの間にか人で一杯になった体育館を眺める
流石に人が多すぎて、万が一居ても分かりそうにない。
ふと、脳裏に記憶がよぎる
「なぁ、ファンとしてはさぁ、ライブとか開催したら楽屋に遊びに来たりしたいもん?」
「まぁ、そういうタイプもいるかもしれませんが、私は後方腕組みしておきたい派ですね。」
「めんどくさいタイプの古参になりそう。」
そうだ、あの時、確かにそう言ってた
視線を奥に向ける
……………………いる。
いつからかは、分からない。
けど、確かにいる。
車いすだし、点滴だし、看護師っぽい人も付き添ってるけど!!
でも、ちゃんといる!!
ってか、めっちゃ重症じゃん!!
あ、目が合った。
っはは、腕組みし始めた。
…………………やるじゃん、流石、私のファン。
「初めて曲を作ったんですけど、やっぱ難しいですね。迷走に迷走を重ねて、色んな人に助けてもらってようやく作れた曲です。
大層な意味というかメッセージ性もなくて、
ただ、みんなで楽しく騒ごうっていう、ただそれだけのやつです」
息を吸う
背筋を伸ばす
顔を上げる
「最初にもちょろっと言いましたけど、寂しがり屋なもんで、みんなでワイワイしてるのが好きなんです。
なんで、最後もワイワイガヤガヤ、楽しんでいきましょう!
手拍子、足踏み大歓迎!体を揺らしてリズムに乗って一緒に歌おう!
それじゃあ、いきます!」
いつかの思い出で、
一緒に考えたダッサイ決めポーズともに叫ぶ
「CLAP YOUR HANDS」