初恋
──18年前──
クラーレは7歳の誕生日パーティーにて盛大な祝福を受けていた。
クラーレはとても嬉しかったが、同時にハラハラもしていた。何故なら物心ついた時からずっと教え込まれた呪いが、今日発動するのだから。
呪いは7歳の誕生日に起きるが、いつ起きるかはいまだにわからない。
今までは人それぞれバラバラの時間に起きたらしい。
クラーレがお日様が射している時間に女の子である自分の姿を見るのは最後かもしれないのだ。
そのため鏡をチラチラと見ながら誕生日ケーキをパクリと食べていた。
「クラーレ、王子から手紙が届いているぞ」
そう父から聞いたクラーレは、ぱぁっと顔を綻ばせる。
「やった! 見せて見せて」
ワクワクしながら手紙を受け取ったクラーレは、手紙の内容を見て瞳を輝かせた。
「もうすぐ会えるね……だって!」
「はは、そうだな。やっとクラーレの初恋の方と会えるな」
「ち、違うもん。初恋じゃないし」
そう慌てて言いながらもクラーレは胸をときめかせていた。
手紙の相手──王子とは、この国の第三王子であるテアモ・イルクオーレである。
歳が同じであり、代々王家に仕えているチェネレントラ家の一人娘であるクラーレは良き友人としても側にいれるよう、2年前から文通を始めた。ただし、クラーレは7歳の誕生日で性別が変わるため、男の子として文通しており、直接会うのも性別が変わってから……という制約がついていた。
テアモは文章からもとても優しくて素直な性格が伝わってくる。
気遣いも上手だし、相談にも真剣に答えてくれる。
そんなテアモに、クラーレは密かに恋をしていた。
そして、7歳の誕生日を過ぎたら会おうという約束をしていたのだ。
手紙を読みながらニマニマしていたクラーレに、それは唐突にやってきた。
突如眩しい光がクラーレを包む。
「……っ、きたか!」
「え、え?」
クラーレはなにがかんだか分からないまま、体が放つ光が眩しくて目をぎゅっと閉じる。
そのまましばらくしていると、段々と眩しさが消えていくのを感じた。
「……クラーレ、目を開けても大丈夫だよ」
「う、うん……!?」
クラーレは自分の声を聞いて驚愕した。
いつもより2トーンくらい低い。
ゆっくりと目を開けると、目の前の鏡に驚いた顔をした男の子が見えた。
「え……これ、わたし……?」
「ああ、そうだよ。クラーレ……これから大変だと思うが、頑張っていこうな」
鏡の中の自分が、ゆっくりと頷くのが見えた。
その後、クラーレは用意されていた男の子の服に着替え、誕生日パーティーはつつがなく終わった。
部屋に戻ってからもまじまじと鏡を見るが、髪も短いし声も低い自分にまだ慣れそうもなかった。
「テアモ様に会えるようになるから楽しみにしてたけど……なんだか変な感じだなぁ。でも……これでテアモ様に会える」
クラーレはふふっと笑うと、ベッドに飛び乗って手足をバタバタさせた。
「テアモ様……待っててね」
この時はまだ知らなかった。
性別が変わるという重みを。
性別が変わってから、クラーレは一人称を僕に変え、言葉遣いも男の子らしくするよう努めた。そうしないとテアモ様に会えないぞ、と父から教わったからだ。
誕生日から一月程経つ頃には、男の子である自分を受け入れて自然と男の子の言葉遣いで話せるようになっていた。
そんなクラーレを見ていた父からテアモに会えると聞いた時は飛び上がるほど喜んだ。
王宮のお茶会に両親が招かれ、そこにクラーレもついていくらしい。
そしてそこでテアモに会えるのだとか。
そしていよいよお茶会の日。
王宮に上がるのも初めてなクラーレはドキドキしながら両親へ着いていく。
そしてお茶会が開かれる庭園へと着いたとき、同じ歳くらいの男の子が椅子に座っているのに気づいた。
(きっとテアモ様だ!)
じっと見つめていると視線に気付いたのか、その少年がこちらを向く。
その少年は銀髪に薄桃色の瞳をしており、どこか儚げな風貌をした美少年だ。
優しそうな雰囲気を醸し出しながらも、どこか冷たい空気も纏っている。
今すぐにでも話かけたかったが、王族にこちらから話かけるのは御法度だと教えられている故に我慢する。
するとその美少年が椅子から降り、こちらへと歩み寄ってきた。
それをドキドキしながら待っていると、その少年が一言。
「……クラーレ?」
そう名前を呼ばれたクラーレは、頬を真っ赤にして
「あ……う、」
と声を詰まらせた。
その様子を見た少年──テアモは、こう言い放った。
「そんな乙女みたいな反応されると困る。君は男色家か?」
と。
クラーレはその言葉を聞いて、とてもショックを受けた。
(そうか、男の子である僕はこんな反応しちゃダメなんだ。しかも僕は男の子だから、テアモ様と結婚どころか恋愛もできない。そっか、そうなんだ……)
ポロリと、目から何かがこぼれ落ちる。
それを見たテアモはギョッとし、慌ててこう言った。
「す、すまない、傷つけるつもりはなかった。僕の悪い癖だ」
テアモはポケットからハンカチを取り出すと、クラーレの顔に押しつけた。
「ぶっ」
「あ、ああ、すまない」
その慌てようを見て、クラーレはテアモ様はやっぱり優しい……と思った。
そして、こんな優しい人の為に、自分を殺す決意をした。
わたしは……僕は、この人とただの友人として、忠実な僕として生きて行こう、と。
こうして、クラーレの初恋は幕を閉じた。
──かに思われた。