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クラーレ・チェネレントラという男



「クラーレ様! (わたくし)の愛を受け取ってくださいませ!」


そう言って胸元をはだけさせながら突進してくる令嬢を、すんでのところで躱す。


「ああっ」


突進してきた令嬢はそのまま壁に激突するかに思えたが、流石にそれは可哀想なので腕を取りまるで社交ダンスかのように腰を取る。


「ご令嬢……貴女はもう少しご自分を大切にした方が良い。俺は誰のものにもならないが、貴女はきっと唯一無二のお相手が現れるだろう。だってこんなにも──」


そう言ってクラーレは令嬢の頬に手を添える。


「──美しいのだから」


瞳を見つめられながらそう囁かれた令嬢は、頬を真っ赤に染めて瞳を蕩けさせながら、うっとりと頷く。


その様子を見たクラーレは、「おやすみ」と呟きながらパチリと指を鳴らす。

すると令嬢はすぐに眠りに落ち、ぐったりとクラーレに体重を預けた。


「はぁ……」


クラーレは力の抜けた令嬢を近くのベッドへと寝かせると、胸元に下げていた懐中時計を見る。


「まずいな」


クラーレは周囲の気配を読み、誰も近くにいないことを確認してもう一度指を鳴らす。

すると瞬きの間に、クラーレは自分の屋敷へと戻っていた。



クラーレ・チェネレントラ。

それがクラーレの名前である。

クラーレは青みがかった黒髪に碧色の瞳を持つ非常に顔立ちの整った人物である。

家柄は公爵家であり、代々王家に仕える優秀な人材を輩出している名家だ。

クラーレも例に漏れず頭脳明晰であり武道にも長け、しかもこの世界でも珍しい魔法使いでもあった。


早々に隠居したいという両親に代わり、齢25にしてチェネレントラ家を引き継いだクラーレは、結婚適齢期ということもあり非常に女性にモテた。今もチェネレントラ家と懇意にしている侯爵家のダンスパーティーへと参加し、とある令嬢に強引に部屋に連れ込まれて逃げ出したところだ。


「しまった、侯爵にご挨拶しなかったが……。仕方ない」


クラーレは指を鳴らすと、目の前に1匹のトラ猫が現れる。その猫の首輪に非礼を詫びる手紙をくくりつけると、「頼んだぞ」と猫をひと撫でしてまた指を鳴らした。


「これで良し……と」


一息ついたクラーレは、壁にかかる時計が夜の12時を知らせる鐘を鳴らすのを聴いた。


その瞬間、クラーレの体は光に包まれる。

徐々に光が収まると、そこにはダボダボな紳士服を着た可憐な女性が立っていた。


「ふぅ。間一髪だったわね」


声も透き通るような、しかし芯の強さを感じられる女性の声になっていた。


「まったく、モテるのも大変ね。これが一生続くと思うと先が思いやられるわ」


やれやれと首を振りながら女性──クラーレは服を脱ぎ始める。



チェネレントラ家にはとある秘密がある。

それは、7歳になると心から愛する人と口付けを交わすその時まで、日中は性別が逆転してしまうということ。

女の子なら男の子に、男の子なら女の子に。

それは代々続く呪いのようなもの。

なんでも昔王家を襲撃した魔王から受けた呪いらしい。

今は魔王なんて絵本くらいでしか耳にしないが、実際に性別が変わるチェネレントラ家にとっては事実である。

タイムリミットは夜の12時。

そこから朝6時までは本来の性別。

そのため朝6時から夜の12時まで、クラーレは男として生活していた。

これはチェネレントラ家の秘密。

明かして良いのは本当に心から愛せる人のみ。

だがクラーレはそんな人が現れるはずもないと諦めていた。

それは何故か。

理由はクラーレが7歳の時に遡る。





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