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麗しの先輩は片杖のアクトレス  作者: 井戸口治重
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5:典弘、部活に入るってよ

 まさかの部活強制参加だったとは!

 恐るべき孔明の罠というか、見事なまでのブービートラップ!

 学校紹介のパンフレットには、そんな事をひと言も書いてなかったものなあ。 

 で、どうするよ。僕!

 


   *



「戸締りだけは、ちゃんとしておけよ」


 そう言い残して担任の関目が教室を後にした。

 去り際に漏らした「早く片付けないと定時までに終んねー」な愚痴が、小走りな足音とともにドップラー効果を纏いながら聞こえてくる。

 働き方改革の御旗はどこに行った? と考えさせられるセリフだが、高校生になったばかりの典弘たちには関係ない。


「行ったか?」


 耳を澄まして足音が聞こえなくなったことを確認すると、滝井から「大丈夫だ」のサイン。

 いきなり特別扱いされたような感覚の中、慎重を期すように周囲を伺った滝井が「さて、と」と言いながら、典弘を尋問するかのように机を挟んで向き直った。


「担任のアレを聞いた上で、これから先、どうするべ?」


 困った顔など微塵も見せていないのに、困った風に滝井が身の振りかたを訊いてくる。


「どこか部活入らないとダメなんだよな?」


「そうみたいだな」


「いちおう、第一希望は〝帰宅部〟なんだけど……」


 断言しようとするも言葉に詰まる。

 入学当初はクラブ活動など真っ平。時間の拘束が長くなるからバイトも出来ないし、予備校などに通う際には足かせにしかならない。だから足かせになる部活動はせずに帰宅部でいようと思っていた。

 しかし最後に紹介された演劇部が、喉元に引っかかる小骨のようにどうにも気になる。

 何より「どうか演劇部に入ってください」と、陸すっぽまともに喋れないのに、あらん限りの声を張り上げた彼女の声が脳裏から離れない。


「前言撤回だ。僕は演劇部に入部する」


 悩むよりも早く、典弘は演劇部入部を宣言した。

 帰宅部を決め込んでいたのに、何故そんな事を言ったのか自分でも分からないが、気付けば口が勝手に動いていた。


「マジか?」


 滝井が尋ねるのもムリはない。でも、言わずにはいられなかった。


「あの一生懸命な姿を見ると、応援してあげたくなったんだよな」


 一気にまくしたてると気持ちがスッと落ち着いた。同時に「やっちまった」という思いも少し。だが不思議と後悔の念はない。


「下心は?」


「ある」


 迷うことなく即答した。


「あれだけ綺麗なセンパイなんだ、無いなんて言ったらホラ吹くなって信じなかったけれど、それを聞いて安心した」


 背中をバンバン叩き、サムズアップよろしく拳をグッと立てると、付き合いの古い悪友は「なら、オレも入部する」とのたまったのだ。

 そんな安直な動機で良いのか? 

 いや、その前に……


「テニス部はどうするんだ?」


 推薦を辞退したとはいえ、滝井が入学した情報は当然ながらテニス部にも届いている。事実ガイダンス前に顧問の先生自らクラスに訪れ「レギュラーの座を約束するから是非」とまで言って、勧誘したほどである。

 しかし滝井は、そんな出来事など記憶に残す価値もないとばかりに「最初に言っただろう」と入部する気ゼロを宣言。


「インハイに優勝したって、特典は大学推薦くらい。そんなものは普通に試験受ければ良いんだし、それよかキレイなセンパイとお近づきになるほうがおトクじゃん」


 清々しいまでの本音丸出し。演劇未経験の身としては、同じど素人が一緒に入部するのは心強いが、気になることがひとつ。


「生徒会長。良いよな」


 目じりを下げてウットリする。

 どうやらお目当の相手は違ったようだ。


「まあ、美人ではあるよな」


 滝井が称賛するだけあって、生徒会長の守口浩子は腰まで届きそうな黒髪ロングの、大人びた印象の美少女というより美女。ややキツイ印象を放つ切れ長でつり目な外観もさることながら、百七十を超える長身は美脚と相まってすらっとしており、モデルのような凛とした佇まいを見せている。


「蔑むような視線で、あの御御足に踏まれたらゾクゾクとしないか?」


「いや。謹んで遠慮する」


 文武両道で見た目もソコソコに優秀。ムダにハイスペックな親友のアブナイ性癖に、典弘は薄く笑いながらも心の中でドン引きした。






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