表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麗しの先輩は片杖のアクトレス  作者: 井戸口治重
23/96

21:瑞稀側によるファーストコンタクトの答え合わせ? 

 瑞稀のスマホには必ずと言っていいほど、夜になると守口からの連絡が入る。

 たいていは脚の不自由を気遣って「調子はどう?」とか「痛みとかはないの?」などの様子伺いをメッセージで送って来るのが常だが、何故か今夜に限っては直接電話がかかってきた。


『メッセージいれても返事がないし、ひょっとして悪の組織に誘拐されたかと本気で心配したじゃない』


 通話ボタンを押した途端、聞こえてきたのは守口の小言の嵐。

 ありがたくもお節介な親友の気遣いに「心配し過ぎ」と瑞稀は小さく不満を漏らす。


「買い物が長引いて、家に帰るのが少し遅くなっただけなんだから」


『その買い物で迷子になったり、知らない大人に騙されてついて行きそうだから怖いのよ』


「ヒトをポンコツ扱いしないでよ」


 たかが買い物でそこまで言うか? と不満を漏らすと『瑞稀は筋金入りのドジっ子だから』と更に畳みかけられる。

 少々そそっかしくて粗忽者なのは認めよう、しかしドジっ子はいただけない。


「勝手に認定しないで!」


 電話越しに抗議したが『却下』と秒でぶった切り。

 しかも!


『どうせアンタのことだから、棚の上段の商品をムリに取ろうとして、親切な第三者にチカンの冤罪を負わせたりしているんじゃないの?』


「ブっ!」

 

 まるで見ていたかのようなズバリな指摘に、瑞稀の息が止まり激しく咳き込む。


「な、な、な、な、何で浩子ちゃんが、そ、そ、そ、その事を、し、し、し、知っているの?」


 パニックって過呼吸に陥っている瑞稀に、電話越しの守口が『適当に言ったら当たっていたのか……』と漏らす。

 憶測だけで言い当てたのか? この女は!

 憤怒で睨みつけたいところだが、電話の相手を睨んだところで一切意味がない。

 それどころか『瑞稀のことだから、スマホを睨みつけているんでしょ?』と次の行為まで当てられる始末。


「どうして分かるのよ?」


『瑞稀の行動が分かり易すぎるから』


 と、勝負にすらならず完敗。

 無論それで解放してくれるはずもなく『それで、連絡が出来なかった理由は何なの?』と、まるで幼児を諭すような口調ながら、守口が瑞稀をギリギリと絞めつけてきたのである。


「そ、それは……」


 怒涛の如く言い寄られて瑞稀は窮するが、そこで追及の手を緩めるような守口ではない。

 硬軟絡めて執拗に「何があったのか?」を追求され続け、遂にはスーパーでの顛末を洗いざらい白状する羽目に陥っていたのである。



   *



『ぷぷぷ、ぷぷーっ! 何ソレ? ギャグなの? ねえ、ギャグでしょ? ギャグよねー! ぷぷぷぷぷ!』


 受話器から守口の、これでもかというくらいの笑い声が聞こえてくる。

 あの女のことだ。きっと電話越しに腰を折って膝を叩いて、全身で爆笑しているに違いない。


『ダメ。死ぬわ。面白過ぎて、死んじゃう!』 


 息が続かないのか、何度も咳き込みながら、受話器の向こうで守口がヒーヒーと笑う。

 ムッとしながら「笑うなんて失礼ね」と瑞稀は不満を口にするが、メンタルが超合金な守口には欠片ほどの効果もない。


『棚の上にある商品を取ってもらったところを、他の買い物客からチカン被害に遭ったと間違えられて事情聴取をされた。そしたら容疑者の男が同じ高校でしかも演劇部の新入部員だった? 何なの、そのギャグみたいな設定。瑞稀、アンタ私を笑い殺しに来ているでしょう?』


「しないわよ。そんなこと!」


 正真正銘笑い転げる守口に瑞稀はキレるが、爆笑の声はいっこうに止む気配がない。もう、いいかげんにしてよ。

 そんな理不尽な守口の爆笑に耐えること凡そ3分30秒。


『ヒーヒー、もうダメ。お腹が痛すぎる』


 腹筋を酷使し肉体的限界を迎えたことで、ようやく守口が笑うのを止めた。

 咽ながらも数回咳払いをすると先刻までのバカ笑いがウソのようなキリリとした口調で、『それで』と生徒会長を務める才女の声に切り替わる。

 詐欺だ……

 親友の激し過ぎるビフォーアフターに呆れながらも、瑞希は『アンタは、その千林とかいう新入部員がチカンかストーカーだと思っているの?』という質問に「そんなこと、思っていないから」真っ向から否定する。


「千林クンは、わたしが背伸びしても届かなかったお茶を取ってくれた親切な後輩さんよ。これから部活が本格的になれば、もう少し先輩後輩の絆が深くなるかもね?」


『…………』


「急に黙り込んで、どうしたの?」


 急に黙り込んだ守口を訝って問うと『いや。何となく、その後輩クンが不憫だなあ。と』妙にしんみりと歯切れの悪い答えが返ってきた。


「えっ、どういうこと?」


 意味が分からず首を傾げる瑞稀を守口が『これが天然の成せる業か』と天を仰ぐような口調で評する。


『こっちの話だから気にしないで。まあレスが遅くなった理由も分かったことだし、事故や事件に巻き込まれてなかったのだから良しとしましょう』


「スゴク上から目線だけど、心配してくれてありがとう」


『ハイハイ、どういたしまして。それよりも瑞稀。アンタその後輩クンに、ちゃんとお礼とお詫びは言ったの?』


 唐突な守口の質問に、瑞稀がまたフリーズしてしまった。


読んでいただきありがとうございます。


『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。

また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。

本作を評価していただけるととても励みになりますので、何卒ご愛顧のほどお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ