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麗しの先輩は片杖のアクトレス  作者: 井戸口治重
103/105

101:噂の出所

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 それは、昼休みに唐突に放たれた。


 弁当を一緒に食べるクラスメイトが「そういえば……」と世間話の延長みたいな感じで、とある噂話を口にしたのであった。


「オマエんところの部活にいる森小路さん。可愛い顔しているけれど、学年ダブっているらしいぞ」


 はあ。どういうこと?



   *



 森小路センパイが学年ダブリ?

 朝のワイドショーみたいな興味本位な切り口に、典弘は話を振ったクラスメイトの野江に「おい!」と声を荒げる。


「根拠もなしに嘘八百を並び立てるな」


 窘めるように警告すると、野江の隣にいた関目も「その話、オレも聞いた」と話に加わる。


「はあ?」


「いや。睨むなよ。怖いし」


 食ってかかるような勢いの典弘に対して、関目がイヤそうに顔を逸らす。どうやら知らず知らずのうちに二人を睨みつけていたようだ。

 典弘は慌てて「ゴメン」と謝り意識して目から力を抜くと、睨まれていた野江と関目があからさまにホッとした雰囲気。


「千林の殺気が怖いよ」


「熊でも殺しそうな勢いだった」


 まるで恐怖体験でも競い合うようにふたりが口を揃えるので典弘は「大袈裟だなぁ」と肩を竦めるが、野江と関目は「大袈裟なものか!」とこれまた声を揃えてガチで否定。


「千林には絶対にケンカを売っちゃいかんと心に刻んだわ」


 危険物同然の扱いに「そこまで言う?」と典弘は引き気味だが、それはそれでチャンと聞く気があるとも言えるかも。


「気を付けろよ。下手に広めたりしたら、誹謗中傷したと処罰されるかも? だぞ」


「まさか」


 典弘の忠告を体の良い冗談だろうと野江と関目がかぶりを振るが、滝井が「いやいや。それ、マジであり得るから」と典弘の発言を肯定する。


「この噂が守口センパ……生徒会長の耳に入ったらどうなると思う?」


「うっ!」


 ふたり揃ってユニゾンで息を詰まらすと、せっかく戻った顔色が再度蒼く染めあげる。

 それを見た滝井が〝誰かとそっくり〟な表情でニタリと口角を上げる。


「多分、ふたりが想像した通りだと思う。生徒会長だったら「個人のプライバシーを侵害した」とか言って、学校に圧力をかけて何らかの処罰を下すように裏工作するかもな」


「マジか……」


「マジ、マジ」


 トドメとばかりに真顔で頷くっと野江と関目の顔から表情が消えた。

 守口の実行力は1年生の中でも浸透しており、彼女が「やる」と言えば確実に実行するのは周知の事実。内容が内容だけに、学校が知ればただでは済むまい。反省文の提出程度で済めば良いが、下手をすれば停学だってあり得るのだ。

 そして守口なら実際にやりかねない。

 一部の尖った生徒でもなければ処罰を聞いただけでも身震いするだろう。

 とはいえ、さすがにこれは脅し過ぎ。

 調子に乗った滝井を「やり過ぎ」と窘めながら、典弘は「まあそれは、ふたりが騒動の張本人だったら「そうなるかも?」ってことだよ」と注釈


「根も葉もない噂をばら撒くようなことをしなければ、学校や生徒会が処罰をすることなんかないよ」


 だから心配する必要はないと説明すると、安堵したのか「タチの悪い冗談を言いやがって。心臓が止まるかと思ったぞ」と滝井を睨みつけながら心境を吐露する。


「噂話を喋っただけで停学なんて理不尽が過ぎるだろう」


「イヤイヤ。言い触らしたらアウトだからね」


「分かってるって!」


 本当かなー? と少々疑いつつも、典弘は「その噂話って、どこから出てきたんだ?」とふたりに尋ねた。

 いち個人のプライバシーに踏み込み過ぎた悪意溢れる噂話を、あまりそういう事に関心を示さない野江と滝井までが口にしたことが典弘にとっては驚きなのだ。

 ところが、野江の返事は事もなげ。


「どこからも何も、学校のSMSに載っていたぞ」


「ウソだー」


「いや、ホントだって。コレを見れば分かるから」


 ホレと差し出したスマホの画面には、確かに三条学園のSMSが表示されている。

 どれどれと覗き込んで、驚いたのは典弘よりむしろ滝井のほう。


「おい、これ。学校のオフィシャルじゃねーのか?」


 言うや否や野江からスマホをひったくと、WEBページを目で追いかける。そのうえで自分のスマホも取り出して、アドレスを確認すると「マジか」と小さく呟いたのである。

 一方、蚊帳の外に弾かれたのが典弘。


「なに? なにが分かった?」


 詳細を教えろと訊くのだが、誰もなにも答えてくれない。

 滝井はスマホに集中し、野江と関目は「見れば分かる」で意味不明でなにがなんだか情報がさっぱり。

 いい加減イライラがとなったところで、滝井が「読んでみろよ」とスマホを典弘の顔面に突き出した。


「言われなくても読むけれど、スマホが近い! 近すぎるって!」


 顔と画面がくっ付くんじゃないかという至近距離の文字を四苦八苦しながら追いかけると、なんだコレは!


「これって、学校オフィシャルのSMSだよね?」


「そうだ」


 滝井が間違いないと頷いたが、にわかには信じられない。

 オフィシャルのSMSに、ここまで悪意のあるメッセージをアップするか!

 最低限のルールなのか〝森小路瑞稀〟という個人名こそ記されていないが、文脈に〝杖を持った3年生〟と記されているので誰のことなのか特定するのは容易。

 というか、露骨なまでの当てこすり。

 その不快な書き込みに、典弘は怒りを覚えずにはいられない。


「誰だ! こんな誹謗中傷みたいな文を書いたヤツは!」


「待て待て。典弘、落ち着け」


 根も葉もない書き込みにエキサイトしようとした典弘を滝井が「焦るな」と宥める。


「心無い書き込みに怒るのは分かるけど、本来怒るのは森小路センパイであってオマエじゃないって」


 そのうえで放った直球ど真ん中な正論に「それは、確かに」と頷かざる得ない。


「書き込みがハンドルネームだからオレたちでは誰だか特定できないし、よしんば分かったところで物理的に殴りにも行けないだろう?」


「う、うん」


 童をあやすように滝井が指折り説明していく。

 ハンドルネームでの書き込みだと、実質的に匿名希望と同じ。いち個人ではコメ主の特定など出来ず、当然ながら捜索は運営主に委ねざる得ない。

 それに何らかの手段を講じてコメ主を見つけても、物理的制裁をすれば罰せられるのは典弘になってしまう。

 それではなんの意味もない。

 では、どうすれば良い?

 筋を通して解決するとなると、結局のところ方法はひとつしかない。

 気を落ち着かせるべく大きく深呼吸をすると、典弘は滝井に向かって「そうだな。気が立って視野が狭くなっていた」と吐露。


「書き込みのことを守口センパイに報告。生徒会を通じて学校とSMSの運営に知らせ、然るべき処置をとってもらうしかないな」


 気を落ち着けて正攻法での対処案を揚げると、滝井も同意見なのか「順当でねえの」とコクリと頷く。


「内容が内容だから、守口センパイも同席したほうが良いだろう。続きは部活で話を付けよう」


 典弘も否はなく、ふたつ返事で「分かった」と言うと、止まっていた箸を動かし遅ればせながら昼食の続き。

 気付けば昼休みも残り5分を切っており、早く食べないと遅弁しながら授業を受ける羽目になるかも?


「誰の所為かな?」


 ジロリと噂を持ち込んだ野江と関目を睨みつけると、逆にふたりに睨みつけられ「冗談じゃない!」秒で反発。


「ただ単に書き込みを見ただけなのに、理不尽な脅しをかけやがって。被害者はオレたちだ!」


 口から泡を吹く勢いで反論するので典弘も「噂を広めようとするのが問題なんだよ!」と売り言葉に買い言葉。不毛な口論となってしまい5限の授業中、教師に隠れて遅弁を食べる羽目となってしまった。


 

 





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