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麗しの先輩は片杖のアクトレス  作者: 井戸口治重
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8:後は神頼み

 森小路センパイがその昔子役をやっていた? しかもその当時、絶大なる人気を誇っていたとは!

 知らなかったし覚えていないとは、何たる不覚!

 そして守口センパイと土居センパイが演劇部復活に手を貸したのも、ケガで芝居から遠ざかっていた森小路センパイを想ってのことだったのだ。

 しかし、部活を続ける上ではまだ人数が足りない。何せ三条学園のクラブ活動には、最低5人の部員登録が必要だからね。

 ゆえに取った手段はというと……



   *



「僕たちが手伝ってあげれるのは、残念ながらここまでだからね」


 クラブ立ち上げに尽力してくれた土居に応えるように、瑞稀は「後は何とかガンバル」と決意表明をするが、もうひとりの応援者であるはずの守口から「いやいや」と首を左右に振られる。


「ガンバルも何も、クラブ紹介のガイダンスでこけたのだから、今さらどうにもならないけどね」


 PRを失敗した瑞稀にトドメを刺すように、守口が両手を開いて〝お手上げ〟のポーズをする。


「唯一かつ最後にアピールできる場が、あの新入生相手のクラブ紹介ガイダンスだったのに。そこであの体たらくなんだもん」


 しかも開いた傷口に塩を塗り込むように「もう、どうしようもないわね」と情け容赦なく斬り付けるありさま。これだけ言いたい放題にくさされて、黙っていられるほど瑞稀は出来た人間ではない。


「そんな手遅れみたいに言わなくてもいいでしょう。勧誘のポスターとかも貼ってあるんだし」


 ガイダンスはイマイチだったが他にも手を打ってあると反論するが、守口の態度は眉ひとつどころか1μも変化なし。


「ポスター、ねぇ」


 瑞稀の努力を全否定するかの如く「ふん」と鼻を鳴らして失笑する。


「選挙のポスターって知ってる? 選挙があるたびに何十万・何百万円もお金をかけて山のように刷っているけど、あれを見て候補者に投票する人なんて稀みたいよ」


 それどころか塩の上に唐辛子とワサビまで塗りたくる辛らつさ。これで親友を名乗っているのだから、なかなか図太い神経をしている。


「でも、一応はアピールしたんだし。ポスターも掲示してあるのなら、誰か2人くらいは来てくれるじゃないかな?」


 さすがに身も蓋もないと感じたのか土居が「まあ、まあ」と割って入ってくれたが、だからといって結果が変わるものでは無い。


「見てくれるかどうかすら怪しいポスターよ。効果のほどが、あるのかしらね?」


 当然のように守口の口調は懐疑的。


「せめて動き出すのがもう1年早かったら、まだ何とかなったんだけどねー」


 2年になったばかりなら、まだ時間にゆとりはあっただろう。

 両手を頭の後ろで組んで「遅い、遅いのよ」とボヤく。


「それを言われると……チョット辛い」


 自分でも分かっているだけに現実の厳しさがぐいぐいと突き刺さり、瑞稀の心はマリアナ海溝よりも深く深く沈んでいった。

 ガチガチの進学校である三条学園に演劇部があることを知った瑞稀は、部員不足で休部中だったところを生徒会長である守口の伝手で強引に再開してもらったのだが、動き出したのは2学年もそろそろ終わりになろうかという頃。

 ふつうは模試に明け暮れて、受験校をどこに絞ろうとか、その先を見越して学部はどこが良いだろうとか考える時期だ。

 クラスメイトに「付き合って」などと頼めるわけもなく、さりとてコミュ力が低く半ばボッチな瑞稀に後輩の知り合いなど、聞くだけ野暮というもの。

 むしろ守口と土居が付き合ってくれただけでも上出来過ぎるほど。

 だが、いくら生徒会長といえども規則を曲げる訳にはいかず、このガイダンスで新入部員が入ってこなければ部員不足として演劇部の活動は許可されない。


「後は神さまに祈るしか無いのかな?」


 期待半分諦め半分で小さく呟く。

 ガイダンスでの新入部員の締め切りは来週末。

 4月中に規定を満たさなければ廃部は決定となる。


「ま。そういうことね」


 守口が右手を上げて「ハイ」とひと言。


「殊勝な誰かが来ることを祈りなさい」


「うー」


 不本意だと唸るが、だからといって状況が変わることなど何もない。

 演劇部存続の命運は、新入生の入部次第という他力本願に委ねられたのだった。





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