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麗しの先輩は片杖のアクトレス  作者: 井戸口治重
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序章1:楽屋裏という名のプロローグ

学園モノで新連載を始めました。


 高校文化部における部活の成果披露。

 その中でも演劇部にとって一番の晴れ舞台は、何といっても文化祭での上演だろう。

 異論は認めるけど批判は受け付けない。

 中には演劇コンクールに出場とか、上位入賞が目的なんていう謂う所の強豪校もあるだろう。老人ホームや養護施設に慰問が楽しみなんて、目立ちたが……ボランティア精神に溢れた学校もあるだろう。

 しかしながら、僕こと千林典弘が在籍している私立三条学園高校の演劇部は、そうした対外活動に一切縁のない弱小クラブである。それが証拠に入部1年目、演劇初心者、つまりはズブの素人に主役を張らせようなんて鬼畜仕様をする団体なのだから。


 でもって、今いるのは体育館の舞台裏。いわゆる控え室と呼ばれる所からも分かるように、今日がその上演当日。

 マイナー部活の公演なんだから、観客席は閑古鳥が鳴いているだろうって?


 甘いわ! メチャクチャ甘いわ! 大江戸亭の3段あんみつに、砂糖とハチミツを「これでもか」ってぶっかけたくらいに甘いわ!

 逆、逆、まったくもって逆!〝とある事情〟で体育館は超満員。100席も用意したシートはすべて埋まり、立ち見客まで出る盛況ぶり。言っちゃ悪いがその辺の小規模劇団よりも、ウチの観客動員数は上回っているぞ。

 ど素人の僕からすれば、プレッシャーを超えて胃が痛い……。

  

 すぐ隣では守口浩子センパイと土居勝センパイにバカの滝井修司が「頑張ろー、おー!」なんてシュプレヒコールで盛り上がっている。

 あんな大きな勝鬨を上げたら舞台に漏れちゃうだろうに。特に守口センパイ、アンタ生徒会長でもあるのだから自重という言葉を覚えましょうよ。僕たちの次に公演予定の軽音楽部が渋い顔をしていますよ。

 それにヘンな勝鬨を上げられると、余計に緊張するヤツもいるんだし。

 そんなチキン野郎がいるのかって?

 いるさ。誰あろう、この僕がそのチキン野郎だ。悪かったな!


 そんな訳で現在絶賛緊張中。

 どれくらい緊張しているのかというと、これくらい。

 我ながら情け無いけれど、心臓がバクバク鳴って呼吸も荒く過呼吸寸前と、かなりヤバい状態になっていた。


「ど、ど、ど、ど、どうしよう?」


 どうしようもこうしようも無いんだけど、焦りと動揺で気持ちが動転してしまえば、ついつい不安を露呈してしまい弱音を口に出してしまうもの。

 開園まであとあと10分。

 限界を超えるプレッシャーに押し潰されそうな僕をバカにするように、横目で「ふん」と鼻で哂いやがった極悪人がいた。


「このくらいの見物人相手にビビってどうするの?」


 隣で小学校から続く腐れ縁。バカの滝井修二がほざいてるが、うるさい黙れ! オマエになんか誰も訊いちゃいない!

 それに、だ。


「お前は脇役しかやらないだろうが!」


 彼奴の配役は脇役A。

 文字通りのモブなんだから、出番も少なく目立たないし、緊張する様な場面もない。

 にもかかわらずこのボケ助は「その代わりに裏方を一手に引き受けているぞ」と、これみよがしにマルチタスクを主張する。


「大道具、小道具の準備に機材の運搬。本番では幕引きに加えて音響係と照明係りも兼任するのに、緊張する状況がないとでも?」


「無いとは言わないが……」


 それはそれで大変だと思う。正直僕に代わりを「ヤレ」と言われたら、多分ムリだと言えるマルチタスクぶりだ。


「芝居のタイミングに合わせて照明とBGMを適切にセットする。加えて端役とはいえ芝居にも出るんだから、これを完ぺきにこなすのがどれだけ大変なのか? メインキャストだからと免除してもらっている千林には分かるまい」


「ぐぬぬ……」


 スタッフがいない弱小クラブゆえの痛いところを衝きやがって。

 しかも、まるで聞き耳を立てていたかの如く「それぞれの役回りは適材適所で決めたのだから」と守口センパイまでもが僕たちの言い合いに同調してきたではないか。


「みんなそれぞれに配置が異なるけど、どれも欠かすことない大事な役柄。つまりは理論上かかるプレッシャーは、みんな等しく同じと思うけど?」


 違う? と無言の圧をかけてくる。

 明らかに滝井を擁護する発言だけど、正論だけに否とは言い難い。しかも才媛な守口センパイが言うだけに言葉にも重みがある。僕を追い込んでそうするの? という不満はあるが「はい」としか返事が出来ない。


「分かればよろしい」


 満足げに頷くけど、こっちの気持ちを分かっていないのは守口センパイだし、コレぽっちも慮っていないから。言えば5倍以上の利息が付いて、買い言葉が返って来るから言わないけど。

 なんて間にも時間は着実に過ぎていき、開演まであと10分余りに迫っていた。

 いよいよもって気持ちが追い詰められ、緊張もピークを迎えたその時。


「本番前に緊張するのは当たり前なんだから。気にしちゃダメよ」


 僕を気遣うような、あたたかくも優しい声。

 その声の主こそ、何を隠そう我が演劇部の部長。我が麗しの森小路瑞稀センパイ、その人なのであった。

読んでいただきありがとうございます。


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