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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
一章 ギャランシティ
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ギャランシティ参謀、サイモン

三機は大地にうがたれたクレーター群の上を通り過ぎ、砂漠の荒野と岩とわずかな植物が広がる単調な景色を飛行し続けた。

そして数時間後、遠くにようやっと「ギャランシティ」の光が見え始めた。

一行がギャランシティへ到着したとき、すでに陽は落ちて、時刻は夜九時を過ぎていた。


三人がシティ軍用の第一格納庫へスターズを納めていると、ギャランシティの参謀であるサイモンが出迎えにきた。

「ギャランさん、お疲れ様でした。報告は見ましたよ。戦闘になったようで」

「ふん、とんだ骨折り損だったわ。せっかくあんな遠方まで出向くなら、マザースターぐらいは欲しかったわ」

サイモンはピップにも声をかけた。

「お疲れ様、ピップ。ご苦労様だったね」

「死ぬかと思いましたよ」

「すまないね。スターエンジニアであるキミを戦闘に参加させる結果になって。目的はあくまで偵察で、ギャランさんの身にも万が一のことがあるとマズイから、戦闘は避けるようにお願いしていたんだけど」

サイモンがギャランに聞こえないように言った。

「ウィークシティの採掘が成功していると知ると、喜んで突き進んで行きましたね」

「あの人は戦闘狂だからね。とは言え、勝てない戦いはしない人だ。間違いなく勝てると直感したから挑んだのだろう」

「でも、俺は本当に死にそうになりました」

ピップは引きつった顔で苦笑した。サイモンは改めて詫びた。

「すまなかった。私も立案時にもっと気をつけるようにするよ。だがまあ、君たちのおかげでスターバッテリーを得ることができた。収穫だよ」

「俺はもう戦闘はごめんです。本職に戻らせていただきますよ」

「ああ、ひとまずゆっくり休んでくれ。後日、本業のスターエンジニアの方で、君に頼みたいことがありそうだから」

「なんでしょう?」

「今は気にしないでいい。また話す」

そういうと、サイモンは足早にギャランを追いかけて去っていった。

(サイモンさんはああ言ったけど、本当は戦闘になるとわかっていたんだろうな)

ピップはため息をついた。


ピップはそのまま自分のアパートに向かった。

シティ軍属であるピップは、第一格納庫から徒歩数分のところにある、シティ職員用の宿舎に自分の部屋がある。

(体が重い。本当に疲れた)

ピップは部屋の鍵をカードキーで解錠した。そして部屋に入るなりすぐに、着ていた服を乱暴に脱ぎ捨て、ベットに倒れ込むと、すぐに眠りについた。


「サイモン!」

ギャラン=ドゥの声が、市庁舎、通称「ギャランタワー」の五階のロビーに響いた。ギャランタワーの五階はVIPゾーンである。ギャランやサイモンなど、シティの一部幹部のみしか立ち入ることができない階層である。

ギャラン=ドゥは身長も高く、歩くのが速い。サイモンは小走りに近い早歩きで、ギャランについてゆく。

「あんたのほうの採掘結果はどう?」

「事前の報告通りでした。埋まっていたものは、強力な自律式スターズであることは間違いありません。巨大なため、運搬に時間はかかりますが、二、三日すればこちらへ届くでしょう」

「楽しみだわ。もしそれが<アダム・シリーズ>であるなら、私たちは天下をとれるわよ」

「ギャランさんはいつも気が早い」

サイモンは市長室のセキュリティを解除し、ドアを開けて押さえた。

ギャランはズカズカと中に入り、豪勢な市長のイスに勢いよく腰を下ろすと、足を組んだ。サイモンも部屋の中に入った。鍵はオートロックである。

「メタルギャランのメンテ後の調子はどうでしたか。今回はピップに調整を任せたのでしたね」

「上々よ。ピップ、あの子はやはり天才ね」

それを聞いてサイモンはうなずいた。

「ピップをギャランシティのスターエネルギーの管理部門にも携わらせてから、エネルギーの消費効率が十パーセント近く改善されました。あの若さで、熟練のスターエンジニアの仕事に匹敵します」

「アダム博士の孫なんて正直まゆつばだったけど、本当のことかもしれないわね。ま、有能であればなんだっていいわ。今後の成果次第では、ピップはシティの主任エンジニアにするつもりよ」

「現職のミラーが文句をいいそうですね。彼はピップに嫉妬をしていますから」

「ギャランシティでは実力がすべてよ。使えない古株よりも、有能な新人がより高い評価と対価を得るの」

「おや、怖いことばだ。私も気をつけねば」

サイモンは苦笑して話題を変えた。

「では、ピップのパイロットとしての技量は? 模擬戦での成績はなかなかでしたが」

「悪くない。機転もきくわ。ただ、性格的に向いていないわね。優しすぎる。殺さないよう、傷つけないように戦っている。元パイロットであるロバート市長に勝ったのは大したものだけど、殺しはしなかった」

「でも、今回誰も殺さなかったのは、ギャランさんたちもでしょう?」

「ウィークシティはいずれ我が傘下に入るでしょうからね。未来の私の市民を不必要に殺す必要はないわ」

「ピップは育ちがいいのですよ、我々と違って」

それを聞いてギャランはニヤリと笑う。

「サイモン、あんた本当に性格が悪いわねえ。今回、当然戦闘になると見込んでいたくせに、白々しいことをピップに言っていたわね。あの子が戦いの場でどう対応するか試したんでしょう?」

「ギャランさんには負けますよ。ピップはぼやいてましたよ。一対一の状況になるなんて、死ぬところだったと」

「フフ、いざというときに命を張れないやつは信用できないからねえ」

「まあ、ピップに肝が据わっていることはわかりました。今後、彼にはスターエンジニアとして力を発揮してもらうこととしましょう。さて、白と赤、どちらに?」

サイモンは市長室に備えられた小型のワインセラーに手をつきながら、ギャランに尋ねた。

「赤にするわ。サイモン、あんたも付き合いなさい」

ギャランにいわれ、サイモンはグラスを二つ取り出した。

「まだ業務があるので、一杯だけ」

二人はグラスを鳴らした。

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