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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
プロローグ
7/41

<別れの日>と<白い穴>

採掘品を回収し終えたギャランたち三人は、ロバート市長の拘束を解放し、撤退の準備を始めた。

ロバート市長は、ギャランに倒され固められているという仲間たちのところまで、よろめきながら歩いて行った。

「ギャランさん、ほんとうによかったんですか。ロバート市長を捕縛してギャランシテイに連れて行かないで」

ギャラン軍のパイロットが、去ってゆく市長を見ながらギャランに確認した。

「いらないわ、あんな小者。それにしても、採掘品はちっぽけなスターバッテリーばかりだったわね。マザースターでもあればと思ったけれど期待はずれ。ピップ、あらためてこの地にうちのシティから採掘隊を行かせる価値はありそうかしら?」

「スターエネルギー反応をはじめ、複数のデータ計測を行いましたが、今回の採掘で回収できるものは、ほとんど回収してしまったと思われます」

「ふん、ならもうここに用はないわね。サイモンの方に収穫があることを期待するとするわ。さて、じゃあ帰るわよ」

メタルギャランは垂直に上昇し、ジェットを吹かせて飛行していく。ピップのモルゴンともう一機もそれに続いた。

ピップはギャランシティの座標をモルゴンに入力して、スターズを自動操縦モードに切り替えた。ギャランシティ到着まで半日はかかるが、異変がなければ、今日はもう操縦の必要はない。


(疲れた)

ピップは外を眺めた。

今、ピップたちは先ほどまでの岩場を抜け、大地にできた巨大なクレーターの上を五mほどの高度を保ちながら飛んでいるところである。

クレーターの直径は数キロに及び、同じような大小のクレーターが、地平線を見渡す限りいくつも存在した。飛行性能を有するタイプのスターズでなければ、この地を移動することは不可能だろう。人影や建築物は何一つない。

二年半ほど前まで、ここには大きな都市があった。その名を聞けば世界中の誰もが知っているであろう大都市である。

ピップも幼いころに家族旅行でこの都市に一度だけ訪れたことがある。先進的なテクノロジーに彩られ、巨大なビルが立ち並び、洗練された人々が行き交う都会であった。

そこに、今は誰もいないし、何もない。

<別れの日>に、すべては<白い穴>に吸い込まれたのだ。


二年と少し前の一月、世界中に<白い穴>が発生した。

それは、周囲にいた人も、木々も、水も、建築物も、地面も、あらゆる物質を飲み込んでしまう、空間に発生した穴である。

<白い穴>は、世界各地でほぼ同時刻に連鎖的に発生した。

その発生箇所は、当時<マザースター>が稼働していた位置とほぼ一致していたといわれている。そのことから、<マザースター>が<白い穴>の発生源であろうと推測されているが、<マザースター>自身も白い穴とともに消滅してしまったため、真相はわかっていない。

当時、世界は「ドルグ帝国」と「連合国」による大戦争の最中であったが、この白い穴の発生により、ドルグ帝国も、対抗する連合国側の国々も、ことごとくが滅びた。栄えている国家や都市であればあるほど、そのインフラはマザースターに依存していたためである。

<別れの日>、当時の世界人口のうち、九十パーセント以上が白い穴に吸い込まれたとされている。しかし、統計を取るべき国家がもはや存在しないため、その正確な数字は誰にもわからない。

<白い穴>は発生後まもなく消滅したものの、吸い込まれたものが返ってくることはなかった。吸い込まれたものがどうなったのかは、誰にもわからない。

国家もそのインフラも壊滅したため、生き延びたわずかな人々は、各地で新たに「シティ」という共同体を作るようになった。シティ同士はかなり遠方に点在し、以前の世界のようなグローバルネットワークもないため、どこにどのようなシティがあるのかといった情報はほとんど未知であった。

結果、各シティには独自の秩序と法が生まれた。


ピップは世界地図を取り出し、赤鉛筆で、地図上にX(バツ印)を書き加えた。その地図中には、すでにかなりの数の赤いバツが書き込まれていた。すべて、ピップがクレーターの箇所に書き加えたものである。

ピップは<別れの日>以後の二年余り、各地をさまよい、旅をしてきた。

少なくともピップが見聞きした限りでは、すべての大都市、もしくは各国家の中心地や首都と呼ばれる場所は、例外なく消え去り、クレーターの跡があるだけとなっていた。

地図にバツをつけながら、ピップはウィークシティのロバート市長との最後の会話を思い出していた。


「どうして君はアダム博士を探しているんだ?」

メタルギャランが降下してくるジェット音の中、市長はそう尋ねた。ピップは少しためらったが、正直に答えた。

「アダム博士は、俺の祖父なんです」

「……なんと」

市長はピップの顔を見た。その少年の顔つきには、正直なものが見えた気がした。

「そうか。だが、私のシティにはいないと思う」

「間違いないですか」

「ああ。アダム博士ほどの有名人がシティにいれば、市長である私の耳に入らないはずがない。いや、だが、偽名を使っている可能性もあるな……。ちゃんと調べればなんらかの情報が出てくるかもしれない。なあ、頼む。私を解放してくれないか」

ピップはたじろいだが、迫るメタルギャランを見て首を振った。市長はポツリといった。

「クソ、ギャランの手先め」


(ギャランの手先、か)

ピップは長いため息をついて、つぶやいた。

「その通り、だな」

そして、モルゴンの天蓋を見つめながら、いつの間にか眠りについていた。

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