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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
二章 旅立ち
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依頼

「依頼の背景を伝えよう、こっちへ」

ロバート市長は部下にピップの手錠を外させると、机に地図を広げた。

「我々は、今は廃墟となっているある軍事拠点に貴重な物資があるという情報を手にした。ウィークシティとしてはその物資はぜひ入手しておきたいと思っているのだが、そこは数機の自律式スターズが防衛しているらしい。おそらく、大戦前に拠点防衛を託されたスターズではないかと思われる。君への依頼というのは、モルゴンでこのスターズを引きつける囮となってもらうことだ」

「戦うのではなく、引きつける役目ですか?」

「ああ。射手は我々の方で用意してある。君は囮に集中してくれればよい。」

「はい」

「本当は、この作戦はもっと早く実行する予定だったのだ。しかし、あいにく先日、君たちギャランシティの連中にスターズを五機も壊されてしまったために延期せざるをえなくなってな」

そう言ってロバート市長はじろりとピップをにらんだ。ピップは気がつかないフリをした。

ティアが口をはさむ。

「ピップくん、ウィークシティの人たちが事前に偵察を行った限りでは、防衛をしている自律式スターズの数は少なく、そこまでの危険はないだろうと判断している。もちろん警戒は必要だが、私もサポートを行うからあまり心配はしないでほしい」

「えっ、ティアさんもこの作戦に参加するんですか?」

「ああ。というか私は、ティターニアの機動力を買われて、この作戦の補強要員としてウィークシティに呼ばれた身だからね。まあ、それだけが理由ではないが」

「ティアさん」

ロバート市長が咳払いをして、ティアが肩をすくめた。

「さて、どうするかねピップくん」

「もちろん、お受けします。ただ、一つお願いがあります。弟のラムダの監視は最小限にして欲しいんです。弟はかなり繊細で人見知りをするので、私の不在中も、できればこのまま今いる宿屋にいさせていただけませんか」

「ふむ、宿屋の夫妻が了承すれば、我々としても問題はない。ただ宿屋の外に見張りくらいはつけるかもしれないが」

「ありがとうございます」

ピップはホッとした。シティの警備室などに拘束されていたら、ラムダがスターズだとバレてしまうかもしれないからである。

ふと、ピップはティアと目が合った。

ティアがそっとウインクをしたので、ピップは顔を赤らめて地図を見るふりをした。


「ティアさん、ちょうど作戦の隊長が偵察から戻ってきたようですので、紹介しておきます。入ってくれ」

市長がそう言うと、髭を生やした中年の男性が部屋に入ってきた。

「ワイルドです。本作戦の指揮をとります。名高いハンターであられるティア殿とご一緒に行動できること、大変光栄です」

「よろしくお願いします。ワイルド隊長」

ワイルドと名乗った男はティアと握手を交わした。

それからワイルドはピップに向き直り手を伸ばしてきた。

「ワイルドだ、よろしくな、スパイ疑惑の自称スターエンジニアくん」

(いやみなおっさんだな)

と思いつつ、ピップは黙って握手をした。ワイルドはそのごつごつとした大きな手でピップの手を力強く握ると、つぶやいた。

「不審な行動を取れば、背中からズドンだ。余計なことは考えずに、作戦に集中しろよ、ぼうや」

ピップは無言を貫いた。今はなにを言われても、釈放されるためにはこの依頼を果たすことが重要なのだ。

「ワイルド隊長はシティに来てからまだ一年ほどだが、すぐれたパイロットです。ティアさんには本作戦の外部参謀という立場になっていただき、ワイルド隊長と隊員たちをサポートしてもらう形となります。ティアさん、それでよろしいですか」

市長は申し訳なさそうにティアにたずねた。

ピップにはそれが意外に感じられた。

仮にもシティの市長の立場である人が、ただの外部のパイロットにあそこまでへりくだるものだろうか。ティアが市長と応対する様子からも、二人は対等の関係に思われた。

(一体、どんな関係なのだろう。まさか、恋人、いや、愛人……)

ピップは余計な想像をし、そんな想像をした自分を恥じた。

「問題ありません。もとよりそういう依頼でしたから。私もワイルド隊長の指揮下に入ります」

「ありがとうございます、ティアさん。そういっていただけると助かります。ピップくん、君はワイルド隊長の監視下という立場で作戦に参加してもらう。異論はないかね」

ティアに対する慇懃さから打って変わって、市長は命令に近い口調でピップにいった。

「はい。わかりました」

「うむ。早速だが、この作戦は翌朝より開始を予定している。参加するスターズは多くないため、味方が一機でも増えることは、我々としては歓迎すべき状況である。だが、私はまだ君を信用しているわけではない。もし君が不審な行動をすれば、先ほどワイルド隊長がいったように、うしろから弾が飛んでくるだろうということは認識してほしい」

「わかりました」


その後、ピップのモルゴンは一度シティ預かりとなり、それと引き換えにピップは一時釈放され、今夜はそのまま宿屋で過ごすことを許可された。

宿屋までの移動中、ピップはシティの警備兵に監視される形となったが、ティアも同行した。


宿に戻ると、ピップは酒場で待っていた店主夫妻とティアに詫びた。

「ぼくのせいでご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

「ピップ、話は警備兵とティアさんから聞いているよ」

主人は咳払いをすると、ピップに尋ねた。

「でも、あらためてお前の口から聞いておきたい。お前はギャランシティのスパイではないんだね? 私たち三人の前で誓えるかい?」

「はい。それだけは、何があっても誓います」

主人はうなずいた。

「わかった。私たちはティアさんとも相談して、お前を信じることにした。明日はがんばって身の潔白を証明しなさい」

「ラムダのことは様子を見ておくから、あなたは自分の役目をしっかり果たしてくるんだよ」女将さんも声をかけてくれた。

「お二人とも、本当にありがとうございます。ティアさん、色々とフォローをしてくださってありがとうございます」

ティアは気にするな、というように手でうながした。

「君がメンテナンスをしてくれたティターニアを確認したよ。短時間にもかかわらず、ティターニアのエネルギー出力も、運動性もかなり良好になっていた。君は私が想像していた以上の仕事をしてくれた。それを見たときに、君のことは信じてもいいと思ったんだ。それと……」

ティアはすこしためらいながらいった。

「それと、今回の作戦に参加するウィークシティの面子が、あのワイルド隊長も含めて、すこしクセがありそうな連中が多くてね。私としては、君がいてくれた方が過ごしやすそうだと思ったんだよ。だから、ちょっとズルいけど、自分のために君の置かれていた状況を利用した部分もあるのさ」

「あの、差し支えなければお伺いしたいのですが、ティアさんはこのシティとはどういう関係なんでしょうか?」

「おっと、もしかして、私がロバート市長の恋人だとでも思ったのかな?」

ティアがいたずらな目つきでピップを見た。

「い、いえ! そういうわけでは……」

ピップは激しく首を横に振った。

そのやりとりを見て、女将さんが笑った。

「あの市長じゃティアの相手は無理さ。自分のとこの市長をこんな風に言っちゃいけないけど」

「女将さん、ひどい。そんなに面倒な女に見える?」

女将さんは首をかしげた。

「ピップくん、じゃあ、私と市長の関係はこの作戦が無事に終わったら教えてあげる。だから、がんばってね」

「わ、わかりました」

「あ、悪い女だねー、いたいけな少年を焦らして」

「だって、秘密が多い方がミステリアスでしょ」

女将さんとティアはそんなやりとりをしながらケラケラと笑った。

ピップは場を柔らかくしてくれた女性たちに心の中で感謝をした。

「ラムダと話をしてきてもいいですか」

「ああ。明日は早いだろうから、早めに寝るんだよ」

「はい。ありがとうございます」

三人を残して、ピップは二階に上がった。


部屋に戻ると、ラムダはベッドの中で毛布にくるまっていた。

「ラムダ」

「お帰りなさい、ピップ」

ピップが声をかけると、ラムダはすぐさま返事をして起き上がった。

「すまなかった。大人しくしていてくれて、ありがとう。状況が変わった。今日起きたことを説明する。小さい声で話そう」

ピップはラムダに今日の一連の出来事を小声で説明した。

「そういうわけで、明日は早朝から一日留守にする。詳しい場所は聞けなかったけど、そんなに遠いところでもなさそうだ。夜には戻れると思う」

「ピップ。ピップが参加する任務は、軍事作戦であると考えます。ピップに身の危険はありませんか? ぼくも行って良いでしょうか?」

「いや、ラムダはこの部屋で大人しくしていてくれ。おまえは俺が逃げ出さないようにするための人質という立場だし、力を借りるのは、本当に万が一のときだけにしておきたいからね。連絡手段はなんとかして確保するようにする」

「承知しました、ピップ」

「留守番を頼むな。あくまでお前はおれの弟、六歳の男の子だぞ。余計なことは話さないで、知らない、わからない、といっておけばいいから」

「はい。だいじょうぶだよ、おにいちゃん」

「それはもういいって」

ピップは苦笑した。

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