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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
二章 旅立ち
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ティターニア

ティアがピップを案内した場所は、シティの外れにあるスターズの格納庫だった。

その格納庫は一般人が利用するようなものではなく、広く大きな格納庫であり、その一室の扉をティアは鍵を使って開けた。

中には人は誰もおらず、部屋の中央には一機の飛行型のスターズが部屋の主人であるかのように、たたずんでいた。

「これは私のスターズなんだ。名前は……」

「うわあ、<ティターニア>じゃないですかッ!」

ピップはティアが紹介するよりも早く、目を輝かせながら叫んだ。

ティアは驚いた顔でピップを見た。

「本当に詳しいね。そう、ティターニアだ。連合国の空撃機、ティターニア。さっき言ったように、こいつで飛行中だったから、私は白い穴に吸い込まれずに助かった。つまり私の命の恩人さ」

(まさかティターニアにお目にかかれるなんて。だとすると、ティアさんは相当のパイロットだぞ)

ティターニアを任されるということは、連合国軍のパイロットの中でも選り抜きの存在であるはずである。

ピップは今日一日ティアと接していて、ただものではないことは感じていたが、それは高度な訓練を受けたエリート軍人であることからも来ているのかもしれない。

「ティアさんは今もその軍に所属を?」

「いや、白い穴のせいで、私のいた国も軍もなくなってしまったからね。これはそのまま勝手に拝借して、自分のために使わせてもらっている。返せという人も今はいないからね。さて、早速だけど、ここを見てほしい」

そう言ってティアはティターニアの操縦席に乗り込むと、中をピップに見せた。

「この、スターエネルギーの排出メーターの数値が安定しないんだ。だいぶ乗っているせいか、それ以外の挙動もあちこちガタが来ている。近いうちにこいつでひと仕事する予定もあるし、メンテナンスをしておきたいんだけど、私ではよくわからない部分も多くて。ウィークシティにはちゃんとしたスターエンジニアがいないようで、困っていたんだ」

ティターニアの操縦席は狭く、横から中を覗き込むピップとティアの顔が近づくのだが、ティアはまったく意に介していないようだった。ピップはティアの体温を感じて、顔が熱くなるのを感じた。

(ち、近い)

するとティアが突然ピップの方に向き直ったため、ピップは思わずのけぞった。

「そこでだ、ピップくん。もし可能であれば、このティターニアの整備をお願いできないだろうか。もちろん、有償で、正式な仕事の依頼としてお願いしたい」

ピップはハッとした。

ティアは真剣な表情だった。

パイロットが、自分の命綱とも言える愛機のメンテナンスを任せようとしているのだ。ピップは下心を持った自分を恥じると同時に、スターエンジニアとしての技量を試されていることを感じた。

ピップは背筋を伸ばして、答えた。

「承知しました。ティアさん。どれだけのことができるか分かりませんが、全力で取り組ませていただきます」

ピップは自分の胸を叩いた。

「ありがとう。心強いよ」

二人は目を合わせると、なんとなく気恥ずかしくなり、笑った。


「起動に必要なパスコードはこのメモを参照してほしい。すまないけど、この場は任せてもいいかな。人と会ってくる約束があるんだ。二、三時間で戻ると思う」

「もちろんです。いってらっしゃい」

とピップは返事をした。

ティアが去り、格納庫にいるのはピップだけになった。

ピップは周囲に誰もいないことを再確認してから、腕時計を使用して、こっそりとラムダに通信を送った。

「ラムダ、ピップだ。聞こえる?」

「はい、ピップ、なんでしょうか」

「あのさ、モルゴンから、俺の整備道具のセットを持ってきてくれないか。…そうそう。他の人には絶対に見つからないようにな。今、俺のいる座標を送るよ。シティの外れにある格納庫なんだけど」

「承知しました。しばらくお待ちください」


ラムダは宿の二階の部屋にいた。

まず、部屋の鍵を内側からかけた。それから、静かに窓を開けると、外に出てするすると素早く屋根に登った。

そして、周囲に見ている人がいないことを確認してから、一気に垂直に飛び上がった。スターエネルギーの作用で自重は限りなく軽くなっているため、軽く足底のジェットを吹かせるだけでも、ラムダの高度はどんどんと上がっていた。

そして、充分な高度に達すると、今度は横方向にジェットを噴射し、モルゴンを隠してある岩場に向かった。


ピップが依頼をしてから二十分もすると、ピップのいる格納庫まで、ラムダが整備道具を持って走ってきた。

ピップがあきれるほどの早さだった。

「早いなあ。誰にも見つからなかったね?」

「はい、ぼくが検知している範囲では、人もスターズも、ぼくが移動したことに気がついてはいません」

「さすが。ありがとう」

ラムダはピップに整備道具を渡すと、ティターニアを見上げた。

「<ティターニア>ですね。これはピップの新しいスターズですか?」

「違う違う。知り合ったティアさんていう人から頼まれて整備をしているんだ」

ピップは道具を手に取りながらハッとした。

「お前、<リルビー>のときもそうだけど、色々なスターズの情報も持っているの?」

「はい、ピップ」

「じゃあもしかして、ギャランシティで戦った自律式スターズのことも知っていた?」

「はい。あのスターズは、L07962543の識別番号、ドルグ帝国のスターズ、<オルガレイズ>です」

「<オルガレイズ>……」

やはりあれはアダム博士の作ったスターズではなく、帝国側のスターズだったか、と思うと同時に、ピップの頭に疑問が浮かび上がった。


(連合国のパイロットであったギャランやサイモンさん、そしてスターエンジニアである俺もミラーも知らないような帝国のスターズを、なぜラムダは知っているんだろう?)


ピップはラムダにそのことをたずねようとしたが、今はティアの<ティターニア>の整備をしているところである。

(まあ、あとでまた聞けばいいか)

とピップは思い直した。

「ラムダ、ありがとう。俺はこの整備が終わったら宿に戻るからさ、先に宿に戻って待っていてくれるか。宿屋のご夫婦には見つからないように戻るんだよ」

「はい、ピップ」

ラムダはにっこりと微笑むと、格納庫の外まで移動し、周囲に誰もいないことを確認して、飛び立っていった。


ラムダを見送ると、ピップは<ティターニア>のメンテナンス作業に夢中で取り組んだ。

ティターニアは、ピップがこれまで触ったことのないタイプのスターズだった。

モルゴンのようなわかりやすい構造ではない分、ピップのスターエンジニアとしての意欲と向上心を強く刺激した。そして、ティアが自分に機体のメンテナンスを任せてみようと思ってくれたことが何よりもとてもうれしかった。

(期待したような甘い展開じゃなかったけれど)

と苦笑したが、ピップは先ほど二人で笑い合った場面を思い出して、胸が熱くなるような感情を感じた。

(ティアさんに喜んでもらえるように、しっかり整備をしよう)

ピップは時間を忘れて作業に没頭した。

ティアから要求のあった箇所のスターエネルギーはすでに安定していたが、それ以外にもいくつか調整が必要な部位があったため、それぞれ調整をした。


ティアがピップに作業を任せてから、すでに三、四時間は経過していた。

「ピップくん、遅くなってすまない。どうだい?」

ティターニアの操縦席にこもって作業をしていたピップは、ティアから不意に声をかけられると、驚いて顔を出した。作業に集中しすぎて、人が入ってきたことに気が付かなかったのだ。

「あ、ティアさん、もうすぐ終わりますよ」

すると、そこにはティアと、見覚えのある一人の男性が立っていた。

「……あっ!?」

「……むむ!?」

ピップとその男性は、ほぼ同時に大きな声を出した。

男性の横にいたティアは驚いた表情を浮かべて、横にいる男性にたずねた。

「おっと、お知り合いですか? 紹介は必要なかったかな」

「いや、知り合いというか……。まさか、こんなところで会うとは」

ピップは震えが止まらなかった。

その男性は、先日ピップが銃口を向けて手を縛った相手、つまり、ウィークシティ市長である、ロバート氏その人であった。

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