<回想>
ギャラン=ドゥはそのときの様子を、のちにこう語った。
「あの時、でかいスターズの主砲から発射されたのはぶっといレーザー砲だったわね。あのちびガキとピップのモルゴンを容赦なく焼き切るだろうと思ったわ」
ギャランは手に持ったワイングラスを軽やかに横回転させた。
赤ワインの芳醇な香りがあたりに漂う。
「でもあのちびガキ……いいえ、ラムダと呼ぶわ。ラムダにレーザーが当たると思われた瞬間、レーザーは何か、見えない壁のようなものにぶつかって弾かれた。今思えば、あれはラムダの張ったバリアだったのね。バリアを持っているスターズになんて滅多にお目にかかれないから、はじめは何が起きたのかわからなかったわ」
ギャランはワインを口に含むと、すこし口の中で転がしてから、飲み込んだ。
「でも、本当に驚いたのはそのあとよ」
ギャランはワイングラスをテーブルに置いて、体を前に乗り出した。
「空中にいたラムダが加速したの。こう、ロケットみたいに」
そういいながら、赤いマニキュアを爪に塗った大きな手を前後に動かす。
「人の姿をしたものが、ああいう物理的におかしい動きをするのは、見ていて奇妙な感じだったわ。脳が混乱するのね、まるでCGを見ているみたいだった。で、加速したラムダは、こう、拳を握って手をグーにして、そのままあのでかいスターズの腰のあたりに突撃したの。衝突の寸前に、ラムダはピカッと光ったわ。そして、でかいスターズの硬い装甲をえぐり、貫いた……」
ギャランは天井を見上げると、話を続けた。
「でかいスターズは、ひっくり返りそうになったけれど、体勢を立て戻そうとした。そして、攻撃をラムダに集中させるために、アタシのメタルギャランとピップのモルゴンを抑えていた足を外して、一気にラムダに向かわせた。あの状況判断、でかいスターズも本当に高性能なAI持ちだったわね。いやあ、惜しいことをしたもんだわ」
ギャランは再びワインを一口飲んだ。
「でも、ラムダはそれをはるかに上回った。ラムダは空中でUターンすると、向かってきた足のうち一本をかわしながら掴んで、他の足に向かって放り投げた。その衝突で何本かの足が壊れたわ。そのまま、ラムダはまたでかいスターズに向かってゆき、またグーパンチで突撃。そんな動きを何度か繰り返して、でかいスターズの方は可哀想なくらいボロボロになっていったわ。足も全部破壊されて、装甲もだいぶ剥がされて、何もできない状態になった。最後に、ラムダはでかいスターズの腹の下に潜り込んで、押し飛ばした。でかいスターズは腹を見せてひっくり返った状態で、壁に激突したわ」
ギャランは手のひらを見せた。
「そして、ラムダは息を大きく吐いて、大きく吸うような動きをした。そして、口からえげつないレーザーを放出したの」
ギャランは手を広げて、笑った。
「あとは、どかーん、よ。やんなっちゃう」
ピップも、この時のことをよく思い出すという。
ピップはラムダと初めて出会った夜のことを「まるで映画の中にいるみたいだった」と懐かしそうに話した。
「何だか俺は、ナイトに助けられた村人の気分だったよ」
とピップはすこし寂しそうに笑った。
ピップはラムダと巨大スターズのすぐ近くにいた分、起こっている事の全容はわからなかったが、ラムダが巨大スターズを少しずつ破壊していくことは理解できた。
ピップから見て、それは決して、手当たり次第の攻撃ではなかったという。
ラムダは相手に攻撃を出す隙を与えず、冷静に、迅速に、的確に、無慈悲に、躊躇なく、相手を破壊してゆく。
それは完璧に計算された攻撃の連続だった。
「あの巨大スターズは、ラムダの攻撃を受けてから、一撃もラムダに反撃することができていなかった」
とピップは言う。
その戦力差、計算能力の差は圧倒的だった。
そして、ラムダがトドメのレーザーを口から発射した時、ピップの頭にギャランの言葉が浮かんだ。
<アダム・シリーズ>
その時、ピップは「自分の認識を改めた」という。
ラムダは、ただの人型の自律式スターズではない。
信じられないほどに強力な戦闘能力を持つ自律式スターズだ。
「そう、たぶん<アダム・シリーズ>とは、ラムダのことなんだって、思ったんだ」
ラムダが口から放ったレーザーは、自律式スターズの腹部にあたり、背中側まで貫通した。貫通した粒子砲はそのまま格納庫の天井をも吹き飛ばし、穴を開けた。
その天井の穴からはギャランシティの夜空が見えた。
そして、格納庫の破壊されていない部分のスプリンクラーから水が一気に吹き出し、水煙が視界を埋めた。
ラムダは、その水を浴びながらピップの方を見てにっこり笑った。
はじめて会った時と同じ笑顔で。ピップを庇った時と同じ笑顔で。
ピップはそこまで語ると、口をつぐんで、涙を拭った。




