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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
一章 ギャランシティ
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スクラップ置き場

「いいタイミングだった。ミラーがきみをよく思っていないのは知っていたが、あそこまでやるとはね」

サイモンは信号でバイク型のスターズを停止したタイミングで、ピップに言った。

「挑発に乗った自分が悪かったです。先に手を出したのは、俺です」

「おや、そうかい」

「それよりサイモンさんは、どうして? 」

「きみに電話をかけたんだが、気がつかなかったろう。非番の日にすまなかったが、早めに相談したいことがあってね。宿舎に行く途中だった」

ギャランシティでは、軍属の職員には専用の無線携帯電話を支給している。機器同士が近い場合、もしくはシティ内であれば電波通信が可能なのだった。

ピップは慌てて自分の携帯電話をチェックした。確かにサイモンからの着信が二件、入っている。

「も、申し訳ございません! マナーモードでした」

「いいさ。さて、目的の場所へ行く前に、少し寄り道をさせてもらうよ」

そう言って、サイモンはピップをシティのはずれまで連れて行った。そこはスターズのスクラップ置き場だった。

「ピップ、ここでのことを覚えているか?」

そういわれてピップは笑った。

「もちろんです。たったの三ヶ月前ですよ」

「そうだな…」

二人はそのときのことを思い出していた。


三ヶ月前。

ピップはその日、初めてギャラン=ドゥとサイモンに会った。ギャランシティへの移民申請をする場のことである。ピップは他の移民希望者とともに、申請のための審査説明を受けているところだった。

「私のシティには役立たずはいらないの」

ギャラン=ドゥはギロリと目を剥きながら、シティへの移住を申請している移民たちに言い放った。

「私のシティで暮らしてゆきたいなら、あなたたちは私のシティに対して何ができるのかを示す必要がある。ただ単に住まいと食事を恵んでほしいだけなら、ほかへ行きなさい。でも、私のシティにとって価値ある何かをもたらすことができるなら、アタシは喜んであなたたちを迎え入れる」

(あの人が市長なのか)

ピップは驚いていた。普通、市長が移民希望者と直接話すことなどない。

あとで知ったことだが、ギャラン=ドゥはシティへの居住を望むものたちに対して、多忙を極める市長でありながら、極力、自らも面談と審査に参加することにしていたらしい。

ギャランシティの市民になる意味と役割を知らしめるためには、市長である自分が直接面談を行うことが必須だと考えているのだった。

一人、また一人と面談が行われ、ピップの順番がやってきた。

ピップは直立し、ギャランやサイモンらが座る前で口上を述べた。

「私の名前はピップ=リンクスです。年齢は十七歳。大破壊で行方不明になった家族を探して各地を旅しています。スターエンジニアの資格を持っています。スターズに関わるなんらかの仕事でお力になれると思います」

「十七歳で、スターエンジニア?」

ギャランは隣の席のサイモンに確認をした。

「サイモン! 我がシティにスターエンジニアはどれだけいる?」

「一名、今はミラーだけです」

「あら。三名ぐらいいなかったかしら?」

「先月、自称に過ぎず、スターエンジニアとしての能力を持たないことが判明したため、虚偽の罪で一人をシティから追放していますね。スターズを含め、所持品はすべて没収。下着のみで荒野にて放置。現在の生死は不明です。あとの一人はそれを見て、逃げました。おそらく、その者も資格を持たなかったのでしょう」

サイモンは淡々と述べた。

「と、いうことよ。このシティで私にウソをつけばこうなる」

ギャランはピップをにらんだ。

「スターエンジニアは、<別れの日>以前の世界ではだけど、最難関の国家資格の一つよ。トップクラスの大学生や院生、もしくは専門的な就業経験を何年も積んだものが、数回受験してやっと取得できたものなの。今、十七歳ということは、あんたはそれを十五歳以前に取得したとでもいうの?」

「はい、十五歳のときに取得しました。ただ、合格通知は受け取ったものの、免許を受け取る寸前に<別れの日>が来てしまい、免状などはないのですが……」

「やれやれ。これはとんだ天才少年か、もしくは虚言癖の病気持ち。どちらかしらねえ」

ギャランは腕を組んだ。

「サイモン!」

「はい」

「スクラップ場に転がっている、故障した戦闘用スターズの修理をこのガキにやらせてみなさい。期限は明日正午まで。そこで判断するわ。次!」


こうして、ピップはシティの外れにあるスクラップ場に案内された。

サイモンはピップに声をかけた。

「きみ、ピップくんだったね。悪いことは言わないから、我がシティから離れた方が良いと思うよ。明日のギャランさんの機嫌によっては、きみの所持品はすべて没収される。あの人はウソを何より嫌うから。おい、聞いているのか?」

「あ、はい、すみません」

ピップは顔を紅潮させ、周囲を見ながら答えた。

「ここ、すごいですね。スクラップ場だっていうから来てみたら、宝の宝庫じゃないですか。うわあ、これ<ライダナス>のグリップ? こっちは<ギーガー>の車軸。これは<チノール>のサスペンション……あ、すみません。それで、俺は何の修理をすれば良いでしょうか?」

「あれなんてどうだい」

サイモンが指差した先には、ドーム型のボディを持ったスターズが転がっていた。ボディは傷だらけで、一部は錆びている。腕部も足回りも破損しており、到底修理できる代物だとは思えなかった。

「<モルゴン>!!」

ピップはそのスターズに駆け寄った。

「うわあ、これ、いつのロットだろう。これを俺が触っていいんですか?」

「あ、ああ。これをどこまで直せるか、やってくれ。資材はここにあるものを適当に使っていい。スターバッテリーが必要な際は、スクラップ上の管理人に声をかけてくれ。食事と水などは1日分だけは用意させる」

「ありがとうございます。やってみます」

「じゃあ、明日の正午」

(明日の正午まで、二十四時間もない。おそらく大したことはできずに、終わるだろう)そう思いつつサイモンは立ち去った。

あとに残ったピップは、鼻を膨らませながら、ボロボロのモルゴンにやさしく触れた。

「待ってろよ。必ずまた動けるようにしてやるからな」


そして、翌日の正午。

ギャランとサイモンの前には、昨日まで動くことさえできなかったモルゴンが、ピップの操縦により軽快に稼働する姿が披露された。

「すみません、ここまでしかできなかったです。スターエネルギーによる浮遊機能までは付けることができませんでした」

徹夜で作業をしたのだろう、目にクマをつけたピップは心の底から無念そうな顔で下を向いていた。審査に通らないと思ったのだろう。

ギャランは迷わず言った。

「サイモン、兵舎の一室をこの子に」

「はい」

ピップは驚いた表情でギャランを見た。

ギャランは立ち上がり、両手を広げ、おおらかに宣言した。

「ピップ=リンクス。ようこそ、ギャランシティへ。あなたを迎え入れるわ」

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