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八人のアダム  作者: 猪熊洋介
一章 ギャランシティ
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昼食

ピップは目を覚ました。

時間を確認すると、すでに十時過ぎだった。

とても腹が減っている。が、自分で料理を作る気にはならない。

(外で食うか)

顔を洗い、着替えると、ピップは部屋を出た。

ピップのアパートはシティの中心部にある。

アパートを出て二本目の道は、もうシティのメインストリートであり、昼どきでもあるため、多くの人で賑わっていた。


ギャランシティの前身は、<別れの日>のあとに行き場をなくしたならず者たちがたむろする、秩序のない小規模なシティだった。

そこへ、ギャラン=ドゥがサイモンら少数の部下を引き連れ、そのならず者たちを追い出し、あるいは部下にして、自分が統治者になった。そのあとにシティの名前を<ギャランシティ>へと変えたのだ。

それから約二年、ギャランシティは変貌を遂げた。

ギャランはその強烈な個性を持ってカリスマを発揮し、人々を畏怖させ魅きつけた。サイモンは参謀となり、シティのインフラを整え、法を制定していった。そのうち次第に人が集まり、資材が集まり、各地で採掘を行い、さらには周辺の小シティを併合・制圧して、ギャランシティは今や周辺地域で最も大きなシティとなった。


ピップはメインストリートにある行きつけの食堂に入り、カウンターで「チキンライス」を注文した。

ギャランシティの食糧事情はまだ改善途上にあり、生鮮食品の流通は少なく、缶詰などの加工食品が中心である。新鮮な農産物や畜産物はまだ希少なため、一般市民の口に入ることは少ない。

そのため、「チキン」と言っても生の鶏肉を使って調理していることはほとんどない。多くの場合、缶詰の鶏肉が使われている。

それは野菜や穀物においても同様である。缶詰のベジタブルミックスと米を使い、調理ソースと塩をかけ、油で炒めたものがこの食堂における「チキンライス」である。

これら缶詰の多くは、採掘により回収された物である。都市中心部でなければ、<大破壊>の被害が少ない箇所もあり、そこで賞味期限の長い缶詰などが発見されれば、人々にとって貴重な食料となるのだった。

<別れの日>以後、生き残った人々が真っ先に直面した問題は飢餓である。

生産と流通が壊滅状況であるため、水も食料も手に入らない。衛生状態も一気に悪化した。

不潔な環境で、多くの人は飢えと病に苦しむこととなった。わずかな缶詰を取り合って殺し合いが起きた。ピップ自身も、この二年の間、数えきれないほど危険な思いをしてきた。

それを思えば、汚れてない水があり、食事もとれるギャランシティは、天国のようなものであった。つまり、ピップにとってはこの「チキンライス」も十分なご馳走なのだ。

調理を待つ間、ピップはカウンターに肘をついて、食堂の初老の女将と世間話をしていた。

「おばちゃん、こいつの調子はどうだい?」

ピップはカウンター横にいる、ローラータイヤで移動する自律式スターズの頭をポンと触った。機械音声が反応する。

「オキャクサマ イラッシャイマセ」

「ああ、ピップちゃん。上々だよ。この子が手伝ってくれるから本当に助かっているよ、ほら」

自律式スターズは、客が立ち上がるのを検知するとローラーでレジ前へと移動した。そして客の伝票を読み取り、会計を行なった。

「アリガトウゴザイマシタ」

会計が終わると、今度は食器を回収しに向かう。

「ね?」

「それはよかった」

ピップはその様子を眺めながら、満足そうにいった。

この自律式スターズは、ピップがスクラップ置き場で見つけたものである。元は大手ファミリーレストランなどで活躍していた接客用のスターズだったが、採掘されたものの使い道がなく、シティのスクラップ置き場に打ち捨てられていたのだ。

老夫婦の営む食堂は、店主が調理、女将が調理の補助をしながら接客や会計をしていたため、対応が遅いことが客の不満だった。

そこでピップが、この自律式スターズを修理し、この食堂向けに調整をして、老夫婦にプレゼントしてあげたのだ。

「ピップちゃんのおかげだね。ほら、これをサービスしておいてやるよ」

そういいながら提供されたのは、チキンライスに薄く焼き延ばされた卵焼きが乗せられ、オムライスへと進化したものだった。

「卵!」

ピップは思わず声に出した。

鶏卵などの卵、そしてそれを使った卵料理は、今の世界では大変に貴重なものである。食事に卵をつけると、価格が一桁違ってくることさえある。

「おばちゃん、こんな、無理しないでいいんだよ」

「いいんだよ、たまたま手に入ったんだ。ほら、他の誰かに見つかる前にさっと食べちまいな」

ピップは感動で瞳を潤ませながら、オムライスをかきこんだ。

(うまい。マジでうまい)

卵の滋養が体に染み渡る。食感、味、色味。卵というのはどうしてこんなにも美味しいのか。ピップはもうしばらく食べられないであろう卵料理を、愛おしく味わった。

ピップが食事を食べ終わる頃。中年の男性が横から声をかけてきた。

「やあ、君はピップさん、だよね?」

「はあ」

シティの警備制服を着ていることから、まだ勤務中の職員だと思われるが、ピップは知らない相手である。

(まさか、俺が卵料理を食べていたことにケチをつけてきたのか?)

とピップは警戒した。

「ああ、失礼。私はシティのゲートの門番をしているものだ。実は今朝、ピップという名前の人を探している人が入市希望でゲートを訪れてね」

「えっ……」

ピップはスプーンを落としそうになった。

「も、もしかして! 初老の男性ですか!? その人の名前はアダムといいませんでしたか?」

口の中のものを飛ばさんばかりの勢いでピップが反応したため、門番は思わずのけぞった。

「い、いや。小さな男の子だった。見た目は小学校の低学年くらいかな。名前は確かラムダといってたよ」

「男の子、ラムダ……」ピップは少し考えた。

「いや、知らない、ですね」

「君の家族や親戚でもない?」

「はい。俺は一人っ子ですし、親族や知り合い含めても、ラムダという名前は初耳です」

「そうかあ。いや、知っての通り、シティの住人でなければシティに入れるわけにいかないから、手続きが必要なことを伝えたらどこかへ行ってしまったんだ。もしかして君の知り合いだったら悪いことをしたなと思って。ならいいんだ。邪魔をしたね」

そういうと、その門番だという中年の男は他の仲間たちが待つテーブルへと戻って行った。

(なんだよ、ぬか喜びさせやがって)

ピップは水を飲み切ると、席を立った。

自律式スターズはそれに反応して、モーターで移動してレジを担当した。

「がんばれよ」

ピップは自律式スターズに声をかけた。

「アリガトウゴザイマシタ」

と自律式スターズは抑揚のない機械音声で答えた。

ピップは食堂を出た。

今日は非番ではあるが、とくに用事があるわけでもない。

自分のモルゴンのメンテナンスでもしに行こうかと、メインストリートを歩いているときだった。突如、柄の悪い連中が道を塞いだ。

そして、その中のリーダー格であろう背の低い男がピップに声をかけてきた。

「よう、ピップじゃねえか」

「うっ…」

ピップは苦手な相手に出会ってしまった。

ミラー=レーン。

ギャランシティの主任スターエンジニアである。

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