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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
1. 隠者の社
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隠者の社 6:先生

――ひとしきり泣いた後。話を中断させてしまって申し訳ない旨を伝えた。

ロノは”もう大丈夫そうですね”と言わんばかりにニコッと笑った後、真面目な顔を再度作った。


「ただし、クロ。世界はそうは認めてくれていないようなのです。私はクロを連れ帰ったあと、≪もう一つの可能性≫の方を期待していました。」


もう一つの可能性?涙によってぼやけた頭を何とか回し始める。一つ息を吐いて椅子に座りなおした。


「それは、ネクロムの剥奪と他者への譲渡です。そうすればクロは本当に自由になれる。失った時間を取り戻していけると。・・・ですが、そうは行きませんでした。」


本当に真剣で深刻な顔。この人は本当に。


「主祖モルヴァはあなたがこの地に戻った時点でその権限を行使。すぐにでも事の解決に当たると思っていましたが、変わらず君はネクロムでした。つまり・・・モルヴァはクロだからこそ出来る何かを期待した。若しくは、クロでなければならない理由があるのでしょう。他にも可能性はありますが・・・現在ではこの考えが一番自然です。」


確かに言われてみれば。数百年も姿をくらましていた自分の直近の従属とも言えるフィラメントなんて、権限が及ぶ範囲になれば当然権限を剥奪されて当然。でもそうしなかった。僕ならすぐにでも役に立つ、コンタクトの取れる者に譲渡するだろう。


「ですが、これは好都合とも言えます。剥奪されないなら利用しちゃいましょう。」


悪い顔のロノ。利用って・・・。そもそもモルヴァって一応神なんだよな?

利用とか無理なんじゃ?


「とまぁ言い方はアレですが、クロにはこの世界をちゃんと知って、見て、感じてほしいんです。いままで生きてきた灰色の世界とは違う、鮮やかな世界の彩を。その為にはネクロムの力があるのはもの凄く都合がいい。」


都合がいいとか言っちゃうあたりロノらしい。いい加減なようで的確なようで。掴みどころが無い。

でも、この世界を知る・・・か。確かに興味が無いわけじゃない。けど――。


「僕は――」

「はい!いつの日か旅に出てもらおうと思っています。」


尋ねるつもりが食い気味に押し付けられてしまった。旅と言われても・・・。どうしたものか。

――ん?


「いつの・・・日か?出来るだけ早くとかじゃないんですか?」

「ええもちろんです。クロは好きなだけ此処に居ていいんですよ。そんな急いでもいい事なんてありません。それに、旅の目的は≪世界を見て回る≫物見遊山の様なものとでも思っておけばいいんです。そしてその中で、自分が何かをしたければそれに従えばいい。きっと君は間違った道を選んだりはしないと思いますよ。」


そうか。そうだった。少し笑みがこぼれ、深く頷く。

利用される為。必要だから動くのではなく、自分がそうしたくなったらそうすればいいんだ。それがロノが僕に伝えたい事なんだ。これからちゃんと≪僕に僕を生きろ≫って。

でも大いなる疑問が残る。自分の感情に右往左往して薄れかけていたけど・・・明らかに――。


「あの・・・ロノって何者なんですか?」


少し驚いた顔のロノ。だが、何か少し納得が行ってない顔。微妙な表情で答えた。


「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました。私はただの魔道具マニアではありません。これからクロに色々な事を教える偉大なる”先生”なのです!!!」


チラッチラッとこちらを見る。メンドクサイ人。けどすごく優しくて、きっと本当はすごい人。

ロノにも言えない何かがあるんだろう。僕だってそんな無粋な真似はしない。


「じゃぁ・・・これからは”先生”と呼びますね。僕は教えを乞う側ですからその方が自然です。」


わかりやすく強調して言ってあげた。ロノの表情がパッと明るくなった。ヨカッタヨカッタ。

憧れでもあったのかな。


「そうですね!その方が自然ですよね!」


うんうんと頷きながら喜びが隠せないロノ。子供みたいな大人?そうだこれがしっくりくる。


「話は一通り終わったか?僕はそろそろ見回りに行かなきゃならないんだけど。」


話の段落を突いてエルマーが口を挟む。見回り?


「ええ、もう重要な話は一通り終わりました。エルマーも付き合ってくれてありがとう。」

「僕はただロノがちゃんと説明できるか見張ってただけだからな。また何かあったら呼んでくれ。」


しゅたたっとも足音を立てずにエルマーはテーブルから歩き去った。

ロノはひらひらと手を振っている。

エルマーが去った事を確認してからロノに問いかけた。


「そういえばエルマーも何者なんですか?喋る猫なんて見た事ありません。」

「そうですねぇ。・・・簡単に言うと私の道連れですよ。」


少し遠い目をするロノ。なにか昔にあったんだろう。深くは聞かない。触られたくない傷は誰にでもあるし、どこにあるかもわからない。だから、これ以上は踏み込まない。


「それ以外は知能の高い喋る猫です。見回りってかっこつけてますけど、縄張りパトロールなんですよ。」


ふふふっと笑う。家族なんだな。そんな事が十分に伝わる笑顔だった。

いつか僕もこの笑顔の対象になれるのだろうか。そして僕もそう思える時がいつかくるのかな。

少し寂しく感じるのはきっと独りになれてしまっていたからなんだろう。


「さて、今日の所はこんなものにして後は自由時間にしましょう。長い話でクロも疲れたでしょう。」

「そうですね。さすがに感情の起伏が多すぎて疲れました。」


その言葉に笑うロノ。首を傾げる僕。


「独特な疲れ方をするんですね。でもこれからはもっと楽しい事が待ってますよ。何せ明日から私が特別授業を行いますからね。」


鼻高々に告げるロノ。うん。相当嬉しかったんだな。

僕も自然と笑ってしまう。


「はい。宜しくお願いします。先生――。」


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