樹林の大地 25:捜索
――さらに三日後。僕達は密度の濃い森を抜けていた。
零号に跨って颯爽と駆ける事数時間。潮の香りが漂ってくる。辺りを確認する為に、少し小高い丘に向かって海を見下ろす。
そこで僕達の目に映ったのは広大な海。と、海に面した瓦礫の山だった。
この距離でこう見えるという事は・・・街はボルデンさんの言う通り壊滅している。
「とりあえずオズフォルクに入ってみよう。」
「うん!」
零号は小高い丘から足場を見つけつつ直線状に下りてオズフォルクに向かった。
近づけば近づくほどにその惨状が顕わになる。
街の入り口だったであろう場所に着くころには僕達の口は沈黙に閉ざしていた。
これは・・・酷い。
元は中規模の集落・・・集落と言うより街の構造を成していたのだろうが・・・。
建物一つ残っていない。この状況では生存者を見つける方が難しいだろう。まだスペラクエバの手も及んでいない為か、無作為に遺体が転がっているのが目に付く。
改めて許してはならないと僕の黒い部分が怒りを叫んでいる。
「許せない・・・!」
「うん。これは惨過ぎる。」
シロの言葉に同意を返す。だが僕達はほんの始まりを目にして憤っているに過ぎない。
このまま放っておけばこの惨状が世界全体に広がる可能性があるのだ。
熱湯の様な感情を呑み込み、シロに告げる。
「僕達も成すべきことをしよう。」
「・・・うん。」
シロの拳が握り込まれる音。杖を握る僕の手にもその熱は伝わった。
「とは言え、どこをどう探したものかな・・・。」
立ち上がったシロが僕の言葉に続く。
「こう瓦礫ばかりじゃ手がかりも何も・・・。」
辺りを見回す。オズフォルクに歩を進めるは良いものの、見渡す限りの瓦礫。遺体。そして瓦礫。
手がかりらしきものは中々目につく事は無い。
「闇雲に探しても埒が明かない。この街が襲われた時の事を想定してみよう。」
「そうだねぇ・・・。瓦礫しかないもん。」
「まず魔物は突如現れたものと想定した場合、急にあの数が現れたってのは現実的じゃない。」
「うん。ぞろぞろ次々にっていう方が自然だね。」
「もちろん全部唐突に出現した可能性が無い訳ではないけど・・・シロの言う方が自然だよね。そして手当たり次第壊し始めた。」
「そう考えると・・・瓦礫が比較的少ない場所?」
「それもあるだろうけど、どちらかというと”瓦礫が踏み砕かれている箇所”かな?」
「そっか!続々と来たなら後の魔物は先の奴らが壊した瓦礫の上を進む事になるもんね!」
「うん。大雑把に壊れている所はこの際無視しよう。それよりもより細かい瓦礫の先だ。」
「わかった!!」
それから暫く僕達はオズフォルクのそれらしい場所を探索した。
それにしても確定要素が少なすぎて調べる所が多い。
調べ始めてから数時間後――。
僕とシロはドサッと地面に腰を降ろした。
「全然みつかんないよー!!そもそもどんな形のものを探しているのかもわからないのにー!!」
「さすがに疲れたね・・・。瓦礫をどけて探しての繰り返しだもん。」
「お疲れ様だな。少し休憩すると良い。」
「バウワウッ!!・・・ワフゥ。」
エルマーも調査に参加してくれてるし、零号もその鼻を活かして探してくれてはいるが・・・。
思う様な成果は上がっていない。
魔物の数が数過ぎて匂いでの特定も難しい。そこで一つの見落としが頭を過る。
「この方法じゃダメなのかな・・・。」
「どういう事?」
「僕達は何を探してる?」
「何をって・・・シエロへの移動方法でしょ?」
「シロはどんなの想像してる?」
「何か機械みたいなの!!」
「僕は術式とかそれらしい土台みたいな場所。・・・それがそもそも違うのかもしれない。」
「どういう事??」
「目に見えない可能性を見落としてたって事・・・。」
「えぇ!?目に見えないんじゃぁ探す方法ないじゃん!!」
「それがそうでもない。」
”普段は目に見えない”所だけに焦点を当てれば可能性は他にもある。
「僕の予想からすると恐らく転移術式の様なものがこの街にあるんだと思う。」
「私たちが家から砂漠に瞬間移動した時みたいな?」
「そうそう。あれってさ、先生が魔力を注いで発動したんだよ。」
「そうだったね?いつもの指パッチンだったけど。」
「今回探すのはシエロに続く転移術式。シエロに住む人たちが何らかの理由で用いる為のものだと思うんだ。」
「って事は・・・私がここら辺一帯に天属を帯びた魔力を流せば向こうから反応してくれる?」
「御名答。天属の魔術に近い魔力を辺りにばら撒けば向こう側から何か応答があるかもしれない。けど・・・。」
「けど・・・?」
「最悪何の準備も無く勝手に発動して勝手にシエロに飛ばされる。」
「・・・確かに。そうなったら怖いね。」
「先に着替えを済ませてからやってみようか。最悪のパターンにならない事を祈って。」
僕達はそれぞれ瓦礫の陰で着替えを済ませた。
再会した時には二人とも真っ白なローブに真っ白な外套。目深にフードを被っている。
中々の資料再現率。そういえばセルストラの近くにいた老人もこんな恰好だったな。
だが二人とも異なる意味で似合わない。思わず二人ともに笑いが起こる。
「クロ!今度は真っ白だね!!」
「シロこそ。本当に真っ白になっちゃったね。」
「お前ら・・・もう少し緊張しても良いんだぞ。」
笑う僕達に呆れたエルマーが言葉を挟む。エルマーはシロの外套の中に潜んでいる。
「まぁ・・・下手に緊張するよりは僕達らしいでしょ。」
「それは・・・そうだな。緊張でいざと言う時に体が動かないより百倍マシだ。」
エルマーはフンッと笑って再びシロの外套に潜り込んでいった。
「さて、最悪を引かない事を願って。・・・シロ。やってみて。」
「うん。」
そういうとシロは胸の前で両手を組む。
――それはまるで神に祈る様な姿に似ていた。
シロの手の甲に六角形の術式が浮かぶ。
直後、辺り一帯の地面が淡く光を帯びる。・・・これがシロの魔力。優しくて・・・温かい。
淡い光と相まって、見た目だけならまるで聖女の様だ。
思わず見とれてしまう。
ふと海の方で緑色の光が放たれる。
「シロ!あったよ!」
「ほんと!?」
シロが集中力を乱すと淡い光はふっと消えた。
さっきの聖女とは同一人物とは思えないよなぁ・・・。何だか小さな溜息が出る。
「何かクロ?私の事馬鹿にしてない??」
「えっ?そんな事無いよ??」
危ない危ない。何故分かったんだ。恐ろしい。
「そんな事より反応があった方を見に行ってみよう。」
「うーん。・・・仕方ないから行こうか。」
何か納得いっていないシロと共に緑色の光が放たれた場所まで移動する。
「さっきシロは集中してたから見えてないと思うけど・・・この辺りで反応があったんだ。」
「そうなの??じゃぁここでもう一度魔術を注げば・・・?」
「転移出来るかも知れない。」
「そう言われると何か緊張しちゃうなぁ。クロの準備はいい?」
「僕はいつでも行けるよ。」
僕の言葉を聞いてシロが自身の頬を軽く両手で叩いた。
「よし!じゃぁ――。」
予期せぬ違和感。
僕達もそれなりに場数はこなしたつもりだ。
「誰!?」
シロが先に声を上げる。
それと同時に瓦礫の欠片が軽く転がる音。――逃がさない。
「ドールバインダ。」
地面に無数の根を這わせ、対象の足元を荊で縛り付ける魔術。
瞬間的な足止めならこれで十分。
「シロ!!」
「わかってるよー!!」
瓦礫が転がってきた方向に凄まじい勢いでシロが跳躍する。
誰かが僕達を見ていた?いや、”目撃した”の方が正しいか?先のシロの魔力でこっちの様子を見に来たのだろう。
何者にしても事情を聞かない訳には行かない。




