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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
3. 樹林の大地
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樹林の大地 24:出立

――翌日午後。しっかりと完全回復を果たした僕達は一通り注文していたものを受け取り終わり、一旦宿で支度の見直しをしていた。

武具店に作ってもらった外套も、シエロの服に見える様に洋服店で軽い手直しをしてもらってある。

フードの奥に紋章が入ってるなんて資料を見てから初めて気付いた。これで抜け漏れは無いだろう。・・・そう信じたい。


これからの目的地はオズフォルク。

まぁまぁ遠いけど零号の足なら十日とかからないだろう。潜入セットの見直しを終えて鞄を閉じる。


「よし、問題なさそう。シロは?」

「私の方も大丈夫だよ!!」

「じゃぁ行こうか。」

「うん!!」


短いような長い間お世話になった拠点をチェックアウトする。

また会おうバイキング・・・。後ろ髪を引かれる。シロも想像以上に後ろ髪を引かれている。

宿の扉を開けると右から投げ掛けられる聞き覚えのある声。


「兄貴!!」


グラムが嬉しそうに駆け寄ってくる。

何か忘れていた感覚。今本人が目の前から走ってくる。いやはや本当に申し訳ない。

挨拶くらいはしようと思ってたんだ。嘘じゃない。・・・ちょっと忘れてただけで。


「グラムさん。どうしたんですか?今から丁度挨拶に行こうと・・・。」


よし。上手く誤魔化した。

こうやって人は悪い大人になっていくのだ。


「いや、俺も色々忙しくてよ。兄貴たちが今日出立するって耳にしたから急いで泊まってる宿聞いて駆け付けたんだよ。」

「そうでしたか・・・。」

「そうだったんだ!私すっかりグラムの事忘れてた!!ごめーん!」

「なっ!兄貴と違って薄情な奴だな!!」

「だから謝ってるじゃん!!それに今ちゃんと話せてるからセーフ!」


素直だなぁ。そのまま純粋に育っておくれ。僕みたいになってはいけない。

少し遠い目になる。目が泳ぐとも言う。


「聞いたぜ?シエロに乗り込むんだろ?」

「えぇ、今から潜入が出来そうな場所まで移動するつもりです。」

「それって空の硝子道じゃねぇよな?」

「もちろんです。与太話を信じるのは最後の手段ですよ。もっとずっと確率は高い筈です。」

「さすがだな。・・・兄貴たちは北部城壁門から発つんだろ?俺達もそっちに用があるんだ。そこまでいこうぜ。」


そういって顎を使って後ろに目線を促す。

そこにはスペラクエバ兵もアルジス兵も列を成して歩いていた。

こんな大勢引き連れてるのに立ち話で足止めしてしまうのも申し訳ないな。


「行きましょうか。」

「おう。」


そうして僕達は歩き出した。


「グラムさんは北部城壁に何の用なんですか?」

「あ?そりゃぁこの間の大戦の後片付けだよ。ある程度復旧も手伝ってからアルジスに戻ろうと思ってな。」


それは殊勝な心がけだ。何よりスペラクエバの人達も助かるだろう。


「俺達も戦った戦場だ。戦うだけ戦って後片付けは任せたってのも感じ悪いだろ?」

「まぁそうですね。」

「兄貴たちは?」

「僕達は最北端のオズフォルクを目指します。どうやら事の発端はその場所の様なので。」

「なるほどな・・・。魔物たちが現れた所を逆に利用してやろうって事だな。」


粗野なイメージと異なり相変わらず頭はキレる。

僕は素直に頷く。


「でも気を付けてくれよ。あんな事を平然とやらかす奴らだ。何があってもおかしくねぇ。それに、今回は俺達も手伝える範疇を超えちまってる。」

「えぇ。覚悟はしていくつもりです。この二人と二匹で国を相手取る訳ですから。」


僕の言葉にグラムが重い空気の言葉を発する。


「無理しないでくれよ。兄貴たちが自分で決めた事に文句を言うつもりはねぇ。けど、兄貴を慕ってる俺や、今まで出会ったやつらもいるんだろ?そいつらの為にも生きて帰ってこなかったら許さねぇからな。」


その言葉にふと圧縮された空気が僕の中に流れた。


「・・・分かってます。誰一人欠けることなく帰ってくるつもりですよ。完全に思惑を止められなかったとしても何かの糸口くらいは持ち帰ってきますから。もし――。」

「あぁ!もしも俺達の力が必要になったら出来る限り力は貸すぜ!!」


ニッコリと力こぶを作って笑うグラム。


「それに・・・下手すりゃぁ全世界を巻き込む話になる可能性だって十分にある。」


グラムの言う通りだ。

先の実験の規模、意図からすれば標的はスペラクエバだけでない事は明白。

だがシエロの行動にはまだ謎も多い。

少なくともその謎の片鱗くらいは掠め取れるといいんだけど。


程なくして北部城壁門付近。


「それじゃぁ俺達は作業を開始すっからよ。兄貴とシロも気を付けて行けよ!」

「えぇ、グラムさんも頑張ってください。」

「頑張ってね!」

「おう!」


僕達はグラムと北部城壁の作業に来た兵士達に大いに見送られた。

手を振る大勢に手を振って応えた。

北部城壁門の門兵に手続きを軽く済ませ、開門してもらう。

普段は開きっぱなしの一番外の城壁もまだ警戒態勢が解けていない今は手続きしないと開けてもらえないからな。

大きな音を立てて開く城壁門。

スペラクエバを去る一歩目を踏み出す。地面も、目の前の行く道も荒れに荒れている。

――それはまるでこれからの僕達の旅路を暗示するかの様だった。




――スペラクエバを出立して八日程。

零号の速度は健在で、順調に目的地に向かっていた。途中、魔物軍たちに蹂躙された集落を見つけて怪我人の手当とかもしていたお陰で少し遅れてはいるが・・・。

それでもあと二、三日あればオズフォルクにたどり着けるだろう。

本当は復興の手助けをしてあげたい所だが、状況が状況だ。僕達に出来る事は限られている。

適当に見晴らしの良い所で零号を止め、野営の支度を始めた。


夕日も眠り、心地よい虫の歌声が響き始める頃。

僕達は焚火を囲んで夕食を摂っていた。

スペラクエバで食材を買い込んでおいたお陰で僕達の野営の質も上がった。

割としっかりしたものを調理して食べられるようになっている。

まぁ異次元鞄ありきだけどね。


「そういえばオズフォルクってどういう所なんだろね?」


もぐもぐと咀嚼しながらシロが声に出す。


「口に食べ物入った状態で喋らないの。・・・オズフォルクはスペラクエバ内でもフォスキア神の信仰が強く残る場所だって話だね。海に面した港町で漁業が盛んで・・・あとはかなり昔から存在していた町ってくらい。僕がざっと調べておいた中ではそんなもんだったかな。」

「ほぇー。・・・でもそれってさ。シエロからしたら同じ信仰だろうとお構い無しって事だよね。」

「そういう事になるね。セルストラは”浄化”と言っていた。それは”シエロ以外を滅する”って事じゃないかな。どの信仰だろうと何だろうとシエロに属していないものは全て汚らわしいもの。そんな考えだと思う。」

「えー!?それじゃぁシエロは全世界を敵に回すつもりなの!?」

「真偽は確かじゃないけど・・・あくまで僕が対峙したセルストラの口調からするとそう感じられた。」

「でもシエロひとつに全世界ってどうこう出来るものなのかな?」

「うーん。水のマールがその時どっちに付くのかっていうのもあると思うけど・・・。多分マール云々とか関係無くその全てを引っ繰り返せる何かがあるんじゃないかな。」

「・・・奥の手的な?」

「奥の手・・・というよりも元より算段があるから仕掛けてきてるんだと思う。遥か昔から画策され続けてきた何かしらの手段がさ。多分、僕が別次元に隔離されていた事とも関係がある。」

「って事は200年以上前から!?」

「その可能性が高いね。そう考えれば辻褄が合う事も多い。でもあくまで予想の範囲を出る話ではないよ。そもそも・・・それを確かめに僕達は今向かってるんだし。」

「そうだね・・・。出来ればその”全てを引っ繰り返せる手段”も何とかしたいけど・・・。」

「それは僕もそう思うけど・・・。まずは”何をしようとしているか”を確実にすることが大事だ。じゃなきゃ次の手も打ちようがない。」

「うん!それに私たちの手に余る事も考えておかないとだよね。」


シロから発せられる意外な言葉に少し驚いた。


「その通り。僕達の手に余るなら他にも策を練らないといけないから。・・・シロ成長したね?」

「あー!!何か馬鹿にしてるでしょ!私もそのくらい分かるようになってるんだからね!!」


ポカポカと軽い拳が飛んでくる。


「それとボクからも一つ警告しておくぞ。」


エルマーが僕達の会話に段落が付いた事を確認して口を開く。


「シエロに居る間はマスターに映像が届かない可能性が高い。あまりに危険な状況になる前に引いてくれ。」

「それは肝に銘じてるつもりだけど・・・。シエロは何か特別な結界でも張ってるの?」


僕の問いにエルマーが短い前足を組む。


「シエロ全体を覆う様に隠蔽魔術が張られているんだ。まぁこれは相当昔からなんだが。」

「国全体に隠蔽魔術?・・・きな臭い事この上ないね。」

「とは言えシエロに干渉出来る国も無いだろ?だからずっとそのままなんだ。」

「・・・わかった。覚えておくよ。」

「まぁいざとなれば・・・。いや、何でもない忘れてくれ。」


歯切れの悪い言葉を残すとエルマーはシュタタと先にテントに入っていった。

話の区切りを告げる沈黙。


「さて、片付けして僕達も休もうか。あと数日でオズフォルクだ。」

「うん!しっかり休まなきゃ!!」


その後僕達は夕食の片付けを済ませ、相変わらず狭いテントでゆっくりと眠りについた。

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