樹林の大地 22:友達
――――翌日。昼の王城門に到着しようとしていたその時。
「あ!!」
急に大きな声が僕の喉から飛び出した。
「わぁ!!」
釣られてシロが驚く。はぁーとシロが一息ついてから続ける。
「もーびっくりしたー。どうしたの?」
「いや、当たり前になり過ぎてて忘れてたんだけどさ。僕達って戦い終わったからお役御免の筈だよね?」
「そりゃぁそうだよ!いつまでもスペラクエバ兵の指揮を執る訳にも行かないよー。」
「その僕達が何の事前伝達も無しにボルデン王に会えるかな・・・?」
「あー・・・。忘れてたね・・・。」
僕達二人の会話を聞きながらエルマーがやれやれと言わんばかりの視線を飛ばしてくる。
苦笑いを返すとぷいっとそっぽ向かれた。冷たい。
「いや、ダメもとでとりあえず行ってみようか。ここまで来ちゃったし。」
「そうだねぇ。ダメだったらそこで伝言お願いするしかないねー。」
少々肩が重くなった僕達は王城門前に到着。
門兵が僕達を見るなり駆け寄ってくる。
「お待ちしておりました。ボルデン王が謁見の間にてお待ちです。中へどうぞ。」
「あれ?」
「へ?」
二人して間抜けな声が漏れる。
どういう事だ??
ま、まぁ物事が順調に進む事は良い事だ。ありがたく中に入らせて貰うとしよう。
ボルデン王が待ってるって・・・何か約束した訳でもないしなぁ。
・・・悩むより本人に直接聞いた方が早いか。
僕達は念の為に謁見の間の扉まで案内してくれている門兵さんと軽い雑談を交わしながら城内を歩いた。
気が付けばスペラクエバ兵はもう皆仲間の様に接してくれている。
そして僕達もそうしている。同じ戦場を駆けるというのは自然と信頼も生まれるものなのだと初めて実感した。
「では。」
「ありがとうございます。」
「ありがとー!」
僕達の言葉に門兵は元の持ち場に戻っていった。
何度目だろうか。謁見の間の重厚な扉を掌が押し開く。
その先には玉座に座するボルデン王が居た。いつもなら僕達より先に声をかけてくれるんだけど・・・どうしたんだろう?
ボルデン王のもとに歩みを進める。それでも俯いたまま動かないボルデン王。
そのままボルデン王の目の前まで到着してしまった。
「ボルデン王?」
呼びかけにも反応がない。
恐る恐る更に近づいて様子を伺った。
――・・・もの凄い寝息立ててる!!
シロが横からずいっと顔を出す。少し手で戻す。
「寝てるね?」
「うん。寝てるね。」
暫く流れる沈黙。このままじゃ埒が明かない。お疲れの所悪いけど起きてもらおう。
「ボルデン王。起きてください。」
肩をポンポンと叩くとうつらうつらとボルデン王が目を覚ました。
「ううむ・・・。眠ってしまっておったか。先日の戦いの後始末に忙殺されておってのぅ。寝不足じゃわい。」
それもそうだろう。
あれだけの戦いがあったんだ。王としては後片付けだけではない。今後の国を守る方針や国民への説明義務だってある。忙しい日々はこれからも暫くは続く。
「お体は大丈夫ですか?」
「あぁ、こんなに忙しいのは久しぶりでの。むしろ張り切っておるわい。心配には及ばんよ。」
「それならいいんですが・・・。」
危ない危ない。本題を忘れる所だった。
「そういえばボルデン王が僕達を待っていると伺ったんですが。何かご用でしょうか?」
「いやいや、もうそろそろお主達が儂に用がある頃じゃろうと思って兵士達に伝えておいただけじゃよ。その方が早くて助かるじゃろう?」
先見の明ってやつなのか、歳の功というやつなのかはわからないが流石だ。
ボルデン王には僕達がこれからどこへ行こうとしてるのか、何をしようとしているのかが分かっているのだろう。
「えぇ、とても助かりました。」
「それに儂からもお主達に伝えて起きたい事があっての。」
「伝えたい事ですか?」
「うむ。お主達の事じゃろうからな、今はシエロに潜り込む為の準備中と言った所じゃろう?そして待機時間が出来たから儂に挨拶もかねて・・・といった感じかのぅ?」
うーん。・・・預言者かな?いや、街路樹を通して把握していたという可能性も・・・。
ここでボルデン王が笑う。
「ほっほっほ。そんな真剣な顔せんでも解るわい。お主達が”正しい”存在であればそうするじゃろうなぁといった所じゃ。」
「そ、そういうものですか・・・。」
「そこでじゃ、儂からはお主達の役に立つ情報を話しておこうと思ってな。先日の魔物軍の進行。その開始点が明確になりつつあるのじゃ。」
「という事は・・・。そこにシエロに繋がる何かしらがあるという事ですね。」
「その可能性は大いにあるのぅ。現在、世界的に把握されておるシエロに届く道は水のマールにしかない。確か・・・≪空の硝子道≫じゃったかのう。まるで硝子で出来た階段がただひたすら天空に向かって伸びており、そこを上りきったもののみがシエロに到達できると。そして・・・挑んだものの中に無事に帰ったものもおらぬと覚えがある。」
「えぇ、それは僕も把握しています。ですが・・・状況を鑑みるとあまり得策とは思えなくて。」
「じゃろうな。そもそも水のマールは選民思想の強いシエロの影響を大きく受けておる。その国内ですら人々は階級制度のもとで生活をしているそうじゃ。それに何よりネクロムは”死者を弄ぶ穢れしフィラメント”の認識を誰もが持っておる。」
「あまり得策ではありませんけど・・・。最悪、道が無ければそこを通る事にします。それでも出来れば避けたい所ですね。無暗な厄介事は嫌ですから。」
「うむうむ。儂もそうじゃろうと思ってな。ティエンド様の力を借りて色々とこの大陸を調べておったのじゃよ。」
この忙しい状況でも僕達の事を考えてそんな事までしてくれていたのか。
原因を探る。それはもちろん国として当然の事かも知れない。けど、それは本来国が落ち着いて体制が整ってから人を送って調べるものだ。
――ボルデン王には頭が上がらないな。
「すると一つ奇妙な場所があってな。この大陸の最北端やや西の所に海と共に暮らす≪オズフォルク≫の集落があったのじゃが・・・。そこが壊滅しておった。そこから南に向かう毎に木々の破壊も増え、いくつかの集落も飲み込まれてしまっていた様なのじゃ。」
「という事は、北部にあった他の集落は無事なんですか?」
「話が早いのぅ。オズフォルク以外の北の集落は一切襲われた形跡はないのじゃ。」
「なるほど。かなり怪しいですね。」
「うむ。まずはオズフォルクに向かう。それが良いかもしれぬの。奴らの意図せぬ所から忍び込めるかも知れぬ。」
「はい。僕達もそこに向かわせて貰います。本当に助かりました。それで・・・。」
「言わんでも分かっておる。集落不干渉のスペラクエバとは言え、復興の為の人員確保は既に始まっておる。皆の大陸じゃ。そこに境があってはならぬ。」
「・・・敵いませんね。」
「それはこっちのセリフじゃ。あれだけの事をして来た敵の本丸に潜入しようなんぞ。お主達くらいにしか出来まい。して・・・いつ頃スペラクエバを発つのじゃ?」
「早くても明日の昼過ぎになります。」
「それまた急な話じゃな。」
「一応一通り準備の手筈は整っているので・・・。あまり悠長にもしていられない状況ですし。」
「まぁそれはそうじゃが・・・。少し寂しいのぅ。」
目を細めてほっほっほと笑うボルデン王。
寂しい・・・か。それは僕達も少し思っているけど。少し”違う”意味だろう。
「王という立場上、お主達の様に同じ立場でものを語ってくれる者もおらんでな。」
その言葉にシロが口を開く。
「うーん。それって皆ボルデンのおじいちゃんを尊敬してるからじゃないの?」
「それはまぁそうかも知れんの。ありがたい事じゃ。じゃが・・・儂は友人たちを亡くしてから久しい。この様な肩の力を抜いた話もそうそう出来るものでも無いのじゃよ。」
「そっか!じゃぁ簡単だ!!私達と友達になろう!っていうか私はもう友達のつもりだったけど!」
驚いた顔のボルデン王。そして少し呆れて微笑む僕。
王だろうが何だろうが優しくしてくれた人、楽しく語りあった事のある人。シロからすればそれは皆友達になってしまうんだろうな。
シロの良い所だ。・・・数少ない内の。




