樹林の大地 21:その名も姿も隠して
――――翌日。僕達はスペラクエバの武具店を巡っていた。
昨日は結局大蛇シリーズの昼食後、自堕落に過ごした挙句に夕方過ぎには早くも爆睡。
お陰で体調もバッチリだ。疲れの影も形もない。
目覚めのボディプレスで少し思う所はあったが・・・まぁ良しとしよう。
――確かこの通りに面したお店だった筈なんだけど・・・。お、あったあった。
一つの小規模な武具店の前で立ち止まる。
「ここに入ろう。」
「おっけー!」
扉を開けると同時にカランコロンと来客を告げる飾りの音が店内に響く。
それを合図に店主がカウンターに出てきた。
店の中は閑古鳥が住まう程に静かだが、店内は綺麗に整えられており、数々の武具が所狭しと並べ立てられている。
「いらっしゃいませ。」
店主の声に軽く頭を下げつつ店内に目を配る。店主は僕を見て少し驚いた顔を見せていたが今は気付かない振りで良いだろう。
確か・・・この間来たときはこの辺に・・・。
「これだ。」
僕が手に取ったのはクルクルと筒状に巻かれた一つの白い布。
「それなぁに??綺麗な布だね?」
シロが不思議そうに見つめる。
「これは魔物達からの視認を困難にする布だよ。魔物達と僕達の見えてる世界が違うのは知ってる?」
「知ってるー!!確か・・・実際はそこまで目は良くなくて・・・何かなんだよね!!」
理論を力技で押し込もうとするんじゃありません。
「魔物は僕達と違って、その視力をソルに頼ってる部分が多い。だからそこまで頼りにならない目よりも確実な嗅覚や聴覚に優れた魔物が多いんだよ。」
「ほぇー!そうなんだ!?」
「うん。多分視覚自体はぼやっと見えるのかな?結構目が悪い人と同じ感じだと思うよ。」
「じゃぁ魔物も眼鏡すればちゃんと見えるんだ!?」
「え、あ・・・どうだろうね。」
そういう話はしてないんだよなぁ・・・。
「まぁとにかく。魔物に見つかりづらくなる為には大気中のソルに近い状態に”見えれば”いいんだ。この布は、ソルや魔力の凝縮個所を隠してその場所に応じたソルを均等に表面に散らしてくれる。魔力感知対策としても十分に使える代物なのさ。」
通常、その様な事を目的に作られるものであれば、出来上がった布にステッカーを施して作る場合が多い。その方が量産にも向く。しかしこの布は、布を織っている糸自体にステッカーが施されている為、見た目上には分からない。秀逸だが珍しい逸品だ。
一朝一夕に仕上がる品では無い分値も張るが・・・。人の目について尚、怪しくもない事はこの先の僕達にはとても助かるのだ。仕方がない。
グルグルと大量に布が巻かれた筒をカウンターに持っていく。
「これをお願いします。」
「ありがとうございます。どの程度御入用ですか?」
「僕と、この隣の子のフード付きの外套を作ろうと思っているんです。それが作れるくらいでお願いします。」
「かしこまりました。」
店主は僕の言葉を聞くとふむふむと言いながら僕達の背格好を確認し始める。
布をスルスルと筒から吐き出させ、ある程度の個所で一直線に裁った。
「加工はどちらで?」
「まだ決めてませんが・・・お勧めってここら辺にありますか?」
「それは良かった。うちでは加工もやっております。宜しければ加工も行いましょうか?」
「それは助かります。」
「では・・・そうですね。布と加工代含めて・・・このくらいのお値段で如何でしょう?」
提示された金額を見ると想像以上に安い。
なんだこの値段。お得過ぎる気がする。
そんな僕を察してか、店主が口を開く。
「この国を守ってくださったお礼です。このくらいさせてもらえませんか?」
あぁ、そういう事か。何も見返りが欲しくてやった事じゃない。
けどエンカタ村でもあったこれは見返りではなく、僕達が行った事に対する誠意なのだ。
無下にすることもないだろう。
「ありがとうございます。すごく助かります。」
ニコッと笑顔を作ると、続いて店主も嬉しそうに微笑んだ。
店主曰く、大戦が終わってまだ間もない事もあってあまり武具店を訪れるものが居ないらしい。
注文された外套程度なら早ければ明日中。遅くとも明後日の開店時間には用意して待っているとの事だ。
僕達は明後日に再び訪れる事を伝え、頭を下げた。
「色々とありがとうございます。お願いします。」
「ありがとね!!」
「とんでもございません。しかと承りました。また明後日、お待ちしております。」
カランコロンと店を後にする僕達。後は・・・資料館と・・・洋服店だな。
――その後も僕達は潜入に必要な物の作成、準備の為、街を駆けずり回った。
気付けば既に夕暮れ後。変装に必要なものは一通り揃えたとは思うけど・・・。
明日はボルデン王の所に挨拶にでも行くか。結局潜入セットが揃うのは最速でも明後日なのだ。
「さて、今日の所はこのくらいにして宿に戻ろう。この感じだと・・・出国は早くても明後日昼過ぎになるかなぁ・・・。」
「そうだねぇ。資料館で調べて作ってもらうシエロ風の服も、外套も出来上がるのは明後日だもんね。」
「うん。それでも何よりも最優先して作って貰ってるだろうからあまり文句は言えないよ。明日はボルデン王の所に先に挨拶に行こうか。」
「わかった!」
僕達は拠点が面する大通りをゆっくりと歩いていた。
明後日にはこの国を出るかもしれない。少しの哀愁が背中を撫でる。
「出来るだけ想い残しの無いようにしなきゃ!」
シロの言葉に少しあって応える。
「そんな事無いよ。アルジスも・・・スペラクエバだってまた来ればいい。問題が片付いた後でさ。」
「そっか!・・・そうだよね!!」
握り拳を作った後にフフッと笑うシロ。
・・・ボルデン王が言っていたな。
≪彼女の笑顔に身も心も救われた者も多いのではないか?≫って。
今思えば僕はこの笑顔にどれだけ助けられて来たんだろう。
――って。僕らしくないか。
小さく頭を振る。
「さ、帰ってご飯食べてゆっくりしよう。」
「うぉーー!ご飯が私を待っているーーー!!」
急に走り出すシロ。
笑いながら追いかける僕。
こんな優しい時間がいつまでも続けばいいなって素直に思う。
だからその為に僕達は向かうのだ。天上大陸シエロに。――その名も姿も隠して。




