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屍霊術師ーネクロムー  作者: ELL
3. 樹林の大地
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樹林の大地 20:方針

――当日の昼過ぎ。軽く仮眠をとった後、僕達は拠点の宿に籠っていた。

これからの行動について考えなくてはならない。

部屋のテーブルを囲んで二人と二匹が会話を始めた。


「エルマー。ちょっとお願いがあるんだけど。」

「ん?なんだ?」

「ちょっと先生と話できるかな?」

「珍しいな?」

「うん。でもどうしても確認しておかなきゃならない事が出来てね。」

「いいぞ。ちょっと待ってろ。」


そういうとエルマーは後ろ足二本で立ち、両手をあわせて耳を至る方向へクリクリ動かし始めた。

ある一定に定まった後、目を閉じてにゃむにゃむ言ってる。

そんな感じで会話可能になるの?可愛いな。お腹を指でつつきたくなる欲求を何とか飲み込む。

カッと急に眼を開くエルマー。


「マスター。聞こえるか?」

「えぇ、バッチリですよ。それにしてもクロから用事なんて・・・初めてですね?」


エルマーの首飾りから先生の声がする。

なんだろう。すごく懐かしい。旅に出る前に聞いたっきりなんだから当たり前なんだけど・・・。

家に居た時の事を遥か昔に感じている自分に気付く。

でも・・・元気そうで良かった。


「わー!ロノさん久しぶりー!!」

「まぁ私はエルマーを通してずっと見ていたので久しい感じも実はしないんですけどね。」


その言葉に先生の顔が浮かぶ。腹は・・・立たない。


「久しぶりです先生。」

「さっきの私の発言聞いてました?・・・まぁそれは良いとして――どうしたんです?」

「それなんですが・・・。先生は先の大戦時、”見えなかった時間”はありませんでしたか?」

「そうですね・・・。クロが草原で魔物の大群を上空から見据えていた直後です。急にこちらへの通信が乱れて見えなくなりました。通信回復直後に魔物達の大量の亡骸が映ったので、あれはクロの魔術によってソルが大きく乱れたせいかと思っていたのですが・・・。クロの口ぶりからすると何か別の原因があるようだね?」


やはりか・・・。あの”セルストラ”という女は僕を見つけた直後、僕の範囲まで感知、隠蔽魔術の範囲を広げたんだ。という事は先生は”アレ”を見ていない。


「えぇ。あの時、僕はあの距離から単眼鏡を用いて相手の黒幕を探していたんです。そしてあの距離でもこちらを感知されました。多分その直後、隠蔽魔術の範囲を広げられたのかと。」

「なるほど。それでこちらの通信も途絶えた訳ですね。・・・で、その間に何かあったと。」


流石先生。察しが早くて助かる。


「先生はセルストラという名前に覚えはありませんか?」

「セルストラ・・・確か天上大陸シエロの現統治者の名ですね。それが何か?」

「今回の騒動はシエロが黒幕だったんです。・・・って先生はその事は知ってますね。僕が聞きたいのはセルストラの近くに”老人”が居たんです。」

「ふむ?老人ですか。」

「はい。その老人。多分先生と同じ魔術を使っていました。」

「うーん・・・。となると恐らくその”老人”が使っていたのは相転移魔術だね。」

「相転移魔術?」

「えぇ、目印となる術式を行きたい所若しくは戻りたい場所へ配置。対になる術式を発動するとその場所へ瞬時に移動できる魔術ですね。”あんなもの”まで利用するとは・・・。正直予想外でした。」

「先生が知っているという事はやはり先生の魔術と同じで間違いないんですね?」

「えぇ。間違いありません。」

「であれば・・・その老人が”先生と同じ魔術を使える魔術師”と考えた方が良いですか?」


先生は少し悩み、僕の質問の意図に応じた返答を返す。


「いえ。それはあり得ません。使えるとしても相転移魔術及び短距離・・・目の届く範囲くらいかな。その中での瞬間転移魔術程度。他に使えるとしてもクロの知る所の魔術ですよ。」

「そうですか・・・。ありがとうございます。」


そもそも、あの老人が魔術を発動した際。ソルを用いて無かったのだ。自身の魔力のみというか形容しがたいものではあるのだが・・・。

僕達が炎の大陸に飛ばされた際と同じ。あれは”先生だから”で割り切っていたが、敵にそれがあるとなると事前にある程度の情報は欲しい。


「積もる話も沢山あるんですけど・・・また今度にしますね。」

「えぇ、クロ達が成すべき事。こうするべきだと思った事をするといい。あなた達はもうずっと成長しているのですから。」

「ありがとうございます・・・。でも、これが終わったら一旦先生の所に帰ろうと思ってます。」

「そうですか・・・。待ってますよ。」

「はい。――では。」


先生は多くは語らなかった。

進む事も、戻る事さえも自分で考えて判断しなさい。そう言われている気がした。

いつも衣服の下に首から下げている先生のお守り。その時計を服の上から軽く握りしめた。

先生との通信を終え、疲れたようにふぅっと一息ついてエルマーがいつもの四足歩行に戻る。


「それで?この後はどうするんだ。」

「シロはもうその気だと思うんだけど・・・やっぱり避けられない。天上大陸シエロに向かおう。今回の様な事が他の国で起こる前に手を打たないといけないと思う。」

「うん!私も賛成!!あんな事絶対に止めなきゃダメだよ!」


僕とシロの意思にエルマーが一応の釘を刺す。


「シエロでは冥神モルヴァは最も忌み嫌われている。その使途となれば尚更だ。・・・それを知っての上という事で良いんだよな?」

「うん。分かってる。多分僕を異次元に隔離したのだってシエロの内の誰かだ。友好的に行けるだなんて思ってないよ。」

「うーん。じゃぁ潜入調査だね!!」


シロの言葉に僕とエルマーの目線が止まる。


「潜入か・・・。確かに悪くない。」

「・・・そうだね。何かやましい事を国家ぐるみでやっているとしたらシエロの中心部。でもセルストラの感知範囲から言って、まず中心部には近づけないだろうし下手したら大陸に侵入した時点で見つかる可能性もある。結局潜入が最善手だ。」

「あれ!?私良い事言ったっぽい!!」


自覚があって何より。でも問題は方法だ。


「でも潜入と言ってもかなり難しい。僕の従属転化は天属のソルを変換出来はすれど、”天属への変換は出来ない”。つまり、皆が皆、天上大陸特有なソル構成の人達だったら一瞬で浮き彫りだ。」

「あー・・・それは多分大丈夫だと思うけど・・・。」


いつにも増して歯切れの悪いシロの言葉。


「ん?どうしたの?」

「シロ。もういいのか?」


僕の言葉に続くエルマーの言葉。どういう事だろう。


「うん。私が怖かっただけだから。クロに嫌われちゃったらどうしようって。でも・・・もう大丈夫。」

「そうか。なら良い。」


なんだ?僕が鈍いのか?・・・何か見落としてる?

珍しく重い口をしたシロが告げる。


「私――元々シエロの人間っぽい・・・なんちゃって。」

「えっ!?」


暫く時間が止まる。

・・・でも確かに符合している点は多々あった。天属の魔術は独自の術式構築で回復魔術が優秀と聞く。そして僕はシロが回復魔術を使っている所を見た事がない。

でもすごい事は知っている。


「それは・・・すごく助かる!!」


思わない所から光明が差した。

シロの状態を真似ればある程度の感知には誤魔化しが効くという事だ。


「助かるって・・・。結構意を決して言ったのに・・・。」


がっくりと肩を落とすシロ。


「何?その程度の事で僕達の関係は変わらないよ。元々どこの誰かも分からない人ばっかりの集まりなんだから。何だったら先生だってエルマーだって素性知らないし。知ったところで関係がどうこうならないでしょ?」

「そうだけど・・・。ネクロムとシエロは言わば天敵だって師匠から聞いたんだもん。」


机の上を人差し指でぐりぐりとしていじけるシロ。

うーん。僕からすればどうって事ないしむしろ助かったんだけど・・・。

でもきっとシロからしたら十分に怖かったし、言いづらかったんだよな。

一つ短く息を吐き、シロの綺麗な瞳にしっかりと目を合わせる。


「・・・僕が少し鈍かった。言い辛かったのは良く分かった。きっと僕達の関係が少しでも崩れる事が怖かったんだよね。でも大丈夫。僕は僕。シロはシロだよ。絆は傷付きもしない。」


言ってる自分が照れる。恥ずかしい。

けどきっとシロに正面から気持ちを伝える。これで良いんだ。

先程とは打って変わってパァッと明るくなるシロの表情。


「うん!!・・・でもちょっとキザなセリフだね。」


嬉しそうにフフッと笑うシロ。まったくうるさいなぁもう!!

そのやり取りを見てニヤニヤするエルマー。

四面楚歌!!


「と、とにかく。これで潜入できる可能性は高まった訳だ。後でシロの魔力と体のソル構成を調べさせてね。」

「うん!ドンとこいだよ!!」


すっかり元気を取り戻したシロはドンっと自身の胸を叩いた。


「後は潜入用の道具と・・・シエロにどうやって行くかだなぁ・・・。」

「え?潜入用の道具も必要なの?」

「多分、必要になると思う。唐突に身を隠さなければならない場合とか中心部に潜入する事になった場合、魔術で隠そうとすればその魔術発動でバレかねない。だから魔術発動をしなくて済む魔道具に頼ろうって話。」

「なるほどー。」

「それはこのスペラクエバの特殊な武具店の品揃えの中にいくつか使えそうな物があったからそれを少しイジれば良いとして――。問題はシエロにどうやって行くかだな。飛んでいく訳にも行かないし・・・。」

「そんなの簡単じゃん!!今回の魔物たちが出てきた所に行けばいいんだよー!」


確かに。でももっと安全なルートもあるかもしれないし・・・ボルデン王の知恵を少し借りるとするか。

この国を出る事にもなるだろうし挨拶も兼ねて。

エルマーに耳打ちをする。


「今日のシロ・・・何か冴えてるね。」

「だな。それに上機嫌だ。」

「今日は雪かな。」

「槍が降ってもおかしくないぞ。」

「何?何の話?」


シロの介入により聞かれてはならない会話は終わりを迎えた。


「さて、やる事の方針は一通り定まった。まずはその準備をしよう。――シエロが真に何をしようとしているのか。そして、その先に起こりえる悲劇を止めに行くんだ。」

「うん!まだまだ私達にはやる事が盛りだくさんだね!」

「あぁ。だがそれをやるのは明日からだ。集中力が落ちればその分抜け漏れも多くなる。万全の準備がしたければしっかりと休みをとってからだ。」


まぁ確かにエルマーの言う事も正しい。斥候との戦い。スペラクエバを守る為の大戦。そして宴。

色々な事が目まぐるしく起こったせいで自分たちを労わる余裕も無かった。

あの規模の軍隊を壊滅させたのだ。シエロの次の行動まで少なくともある程度の猶予はある筈だ。


「そうだね。しっかりと疲れをとってからにしようか。」

「疲れてたら色々と忘れ物しちゃうもんね!」

「ああ、それがいい。」


時間は昼過ぎからさらに少し歩みを進めた所。バイキングだけはしっかり逃さなかった僕達も少しお腹が空き始めた頃だ。


「じゃぁ取り合えずお昼でも食べに行こうか。」

「お!いいね!!また大蛇シリーズ食べたーい!!」


大蛇シリーズって・・・まぁあれから白焼きに蒲焼、鍋物に至るまで大蛇は食べたけど。


「あれは旨いからな。ボクはそれでも良いぞ!」

「バウッワウワンッ!!」


エルマーと零号も乗り気な様だ。


「とりあえず・・・商業区に出てから考えようか。新しい出会いもあるかもしれない。」

「まぁ確かにそれもそうだね!行こう行こう!!」


僕達は必要な支度を済ませて昼食に向かう事にした。

さて・・・今日は何が食べられるかなぁ・・・。

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